転生したらHP10000だった。


 シーニャンさんの部屋に入ると、朱色の扉が茶の間にドーンと佇んでいた。
 な、なにこれえ?
 
「これが朱雀様の部屋に通じる扉だ。イリヤの侍女とモーリスはここで待っておれ」
「はいはい、りょーかい」
「かしこまりました。シーニャン様、どうぞイリヤ様をよろしくお願いいたします」
 
 サリィがシーニャンさんに頭を下げる。
 それに対して「うむ」と一言だけ返すシーニャンさん。
 
「さあ、手を」
「はぁい」
 
 言われた通りシーニャンさんと手を繋ぐ。
 シーニャンさんが朱色の扉に触れると、ゆっくり、重々しい音を立てて開く。
 扉の奥には炎が燃え盛っている。
 え、え? こ、ここを通るの?
 
「大丈夫だ、私の手を決して離すでないぞ」
「う、うん」
 
 手を握る、というより思わずしがみついてしまう。
 メラメラ燃える炎の道の中を、シーニャンさんの手を掴んだまま率先して進む彼女についていく。
 あれ、熱くない……?
 
「熱くないであろう? これが大巫女の力ぞ」
「すごーいっ」
「ふふふ、そうであろうそうであろう。しかし、炎で足元がよく見えぬだろうから、姉様にしっかりついてくるのだぞ」
「う、うんっ」
 
 もちろんです!
 ぎゅっとすると後ろから扉の閉まる音がした。
 びっくりして振り返ると、扉自体が姿を消していくところ。
 ええええ、帰り道消えちゃうの!?
 
「ああ、扉か? あれは大巫女の力で出し入れ可能なのだ! だから帰る時にまた出してやる。大丈夫だぞ」
「よ、よかった」
 
 大巫女様しか朱雀様に会えないってこういうことか。
 ビビりながらも進むと炎が突然消える。
 炎が全部、目の前の黒い玉の中へと吸い込まれた。
 なに、と見つめていると、玉が急に真紅の瞳が開く。
 そのまま首を擡げ、大きな翼を開いて大きな声が部屋中に響いた。
 赤い鳥。
 それが朱雀様なのだとすぐにわかった。
 大きな声と、火花を散らす翼。
 長い孔雀の尾が、炎と一緒に植えに向かって揺らめいている。
 
「こんにちは、朱雀様。今日はアルドの妹を連れてきたぞ。見よ、この可愛らしさ! 可愛いのう、可愛いのう」
『そうか』
「なんだ。相変わらず淡泊な返事ばかり。それはともかく、イリヤ・オルヴァーニュだ。見てわかると思うが、星の女神の加護を与えられておるらしい。私も星の女神の加護を持つ者は初めて見た。なんでもどんな願いでもかなえられる加護だとか」
『そうだな』
 
 短い返事。
 でも、意外にも低い女性の声みたいな。
 困惑していたら私の代わりにシーニャンさんが全部説明してくれた。
 た、助かる。
 あれ、でも、星の女神って……?
 
「ほら、イリヤ」
「え、えっと。えっと、すざくさま、はじめまして。イリヤ・オルヴァーニュともうします。わたくしの”かご”について、おききしたくてまいりました。わたくしの”かご”はどんなじょうけんでねがいがかなうものなのでしょうか?」
 
 だいたいのことはシーニャンさんが話してくれたけれど、やはり自分の言葉でも説明するのが筋ってやつだろう。
 だから(つたな)いなりに伝わるように言葉を紡いだ。
 頑張ったけれど、伝わるかな? 伝わってほしい。
 私は家族と一緒にいたいんです。
 前世の私と同じ目をしているグレン王子を幸せにしたいんです。
 今までのように平穏に暮らしたいんです。
 
『条件は――ない』
「ない!?」
「ないのか?」
『というか、星の女神はこの娘の願いを叶えて加護を与えているが、その加護は常時発動しているもの。娘の体力が我らと同等10000。これがこの娘に対してほしの女神が与えた加護であり、娘の願いであり、叶えられ(・・・・)続けている状況だ。他者の願いや、新たな願いを叶える隙はない』
「……朱雀様の言っていることは理解できるか?」
「うん」
 
 こくり、と頷く。
 つまるところ星の女神というのは転生する前に会ったあの綺麗な女神様。
 女神様は私の約束通り痛みや苦しくないよう体力を10000にしてくれた。
 それが女神様の加護で、ずっとその効果を発動している状態。
 だから他の願いを叶えることはできない。
 条件はない、というのは、私の加護を利用して自分の願いを叶えようというのは無理ってこと。
 
『星の女神は過去の加護を与えた者が悪用されて苦しんだのを見ている。だからこそ加護が足かせにならぬように、主にはそうならぬように願いを叶えぬようにしてあるようだな』
「おうさまたちがイリヤのかぞくをひとじちにして、むりなこといってもイリヤはねがいをかなえられない?」
『ん? ん。そうだ』
「よかった……」
 
 願いがかなえられないなら、きっと今まで通りの生活ができる!
 私の体力が桁おかしいだけで。
 
「――朱雀様、そのことをイリヤの国の王に伝えに、領を出てもいいですか? イリヤの幼さで話をしても、王は信じないかもしれません」
『そういうこともあるか。了解した』
「え? シーニャンおねーしゃま……?」
「最後まで面倒を見るぞ。私は大巫女だからな」
「いっしょにきてくれるの!? ……っうれしい!」
「んふふふふふふ」