翌朝、シーニャンさんが私の泊まる部屋に訪れる。
朝食を一緒に食べようというお誘い。
喜んで食堂に向かう。
「わあ、しゃけ! しおしゃけ、やきざかな、イリヤだいすき! はくまいとおみそしる、さいこう!」
「なんか……だいぶ染まっているわね」
「どうやらお嬢さんの味覚にガッチリぴったり合ったみてぇだな。もりもり食って立派なお嬢さんになるんだぜ」
「うん!」
「んふふふ。……それじゃあ……イリヤ」
食事が始まり、美味しくもぐもぐしているとシーニャンさんは急に真面目な顔をする。
なんか真面目に聞かなきゃいけなさそう。
箸をおいて、「はい」と姿勢を正す。
「このあと朱雀様のところに案内するから、身なりを整えておきなさい」
「え?」
「使用人と護衛は連れていけぬ。そなたらは留守番だ。朱雀様の御前に座れるのは、私が認めた者のみ」
「お、お待ちください! シーニャン様は巫女見習いとお聞きしていますが……」
「ああ、そうだったな。改めて自己紹介をしておこう」
そう言って、シーニャンさんはにこりと微笑む。
胸に手を当てて、私をしっかりと見据える。
「私はシーニャン・香葉。朱雀様に仕える大巫女だ」
ああ、やっぱり。
モーリスさんが頭を掻きながら「もういいのか?」と聞いている。
驚いているのはサリィだけ。
「うむ。もう十分だな。しかし、イリヤは驚いていないな? 私は大巫女だぞ? 朱雀領に一人しかいない、朱雀様にお目通りを許す唯一の存在だぞ。気がついていたのか?」
「なんとなく?」
「マジかよ」
「そ、そうだったのですか!? な、なぜわかったのですか!? さすがお嬢様!」
サリィ、混乱している?
ちょっとなに言っているかわからん。
さて、なぜシーニャンさんが大巫女なんじゃないか、と思ったかだけれど。
「だって、サトのひとたちみんなシーニャンおねーしゃまのことだいじにしてたから。なんか、イリヤのおうちのメイドやしよーにんみたいだった。だからみこさまなんだろうなーって」
「そうかそうか。挨拶をして回ったからわかっただろう?」
「うん。でもだいみこさまだとはおもわなかったかも~」
「そうかそうか~」
んふふ、とまた笑うシーニャンさん。
ギリ、大巫女様かも、というのは思った。
だって里の人たちにどこか一線引かれているようだったから。
なんか、こう、私の知っている言葉でいうのは難しいんだけれど。
距離? が、里の人の方から取っているというか。
尊敬? されている感じだったの。
巫女見習いの人に対してそこまでするのかな? って。
「イリヤはやはりとても賢いな。だからこそ一刻も早く知っておくべきだろう」
「はあ。まあ、大巫女様のご判断がそうなら、俺たちから言うべきことはなんもねーな」
「うむ。であるから、イリヤはちゃんとした服を着ておくのだぞ。準備が終わったら呼びに来なさい。使用人と護衛は連れていけぬからな」
「はーい」
なんにしても、こんなに早く大巫女様に認められて朱雀様にお会いできる機会に恵まれたのは幸運ってやつだと思う。
食事を終えてからまだ混乱の抜けないサリィにドレスを着せてもらい、髪もセットしてもらう。
なんかこういう堅苦しい格好久しぶりだなぁ。
「どうしてもわたくしはついて行ってはいけませんの?」
「ダメだ。そもそも朱雀様の御前は大巫女以外人間の立ち入りが禁止されている禁足地。大巫女の庇護がなければ、人間は焼け死んでしまう。俺も試練を超えたが朱雀様にお眼通りかなったことはねぇ」
「そ、それほどきびしいのですね……」
サリィは私と一緒に行きたいみたい。
でも、モーリスさんが真顔で首を横に振る。
とにかく朱雀様に会うのは大変なんだなぁ。
「朱雀様は生まれながらに炎の翼を持ち、顕現された時から周囲を高温で燃やし尽くし、力を与えた人間の娘にわざわざ封印を施してもらい現世で力を望み試練を超えた者へ加護を配るということをされている神だ。だからこそ基本的に朱雀様の御前に行けるのは大巫女と大巫女が連れて来た一人のみ。これほど早く与えられた試練をこなしたイリヤお嬢さんがスゲェと見るか。はたまた朱雀様と大巫女から見てもお嬢さんの加護は早急に解決すべきと思われたのか」
「納得はいたしましたが、やはり心配ですわ」
「なぁに、シーニャンは気に入った相手に悪さする人じゃねぇよ。あんまりしつこく言い過ぎると、大巫女に疑いをかけたと不敬に受け取られるぞ」
「そ、そんなつもりは……!」
もー、サリィは心配性だなぁ。
仕方なく、サリィ、と呼びかける。
「イリヤはだいじょうぶだよ、サリィ。シーニャンおねーしゃまはやさしいひと! それに、すざくさまにあえるのもシーニャンおねーしゃまのおかげ! イリヤをしんじて」
「お、お嬢様……。そ、そのような言い方をされては……。ぐう……わ、わかりました」
サリィには納得してもらい、シーニャンさんのお部屋を訪れる。
すぐに部屋に入れてもらい、シーニャンさんも使用人を壁の方へ待機させて私だけを手招き。
でも、なんでお部屋なんだろう?
朱雀様のところに行くのは、馬とかじゃないのかな?
「うん、悪くない。外の世界のどれす、ってやつだな」
「うん! シーニャンおねーひゃま、すざくさまのところ、どーやっていくの?」
「うむ、朱雀様のところへはな、大巫女の術を使ってしかいけないのだ。今見せてあげるからな」
