宿に戻り、夕飯を食べてから一休み。
それから大浴場にいってお風呂。
気持ちいーい。
昨日は旅の疲れもあってご飯のあとに寝ちゃったから、大浴場は今日が初めて。
この宿には露天風呂と大浴場があって、源泉掛け流し、なんだって。
それって温泉ってことだよね?
私、温泉って初めて!
温泉、憧れていた。
名前だけは知っていたけれど、本当に存在するんだ。
お風呂入ったらお肌ツルツル。
まあ、私まだ五歳なので肌がツルツルとかよくわからないけれども。
「あ、シーニャンおねーしゃま」
「おお、イリヤも風呂上がりか? せっかくだからお話でもするか?」
「するー!」
お風呂から出てすぐ、同じく風呂上がりらしいシーニャンさんに出会した。
私は大浴場に行ってだけれど、シーニャンさんは露天風呂に行っていたみたい。
いいなー、露天風呂も明日行こうかな。
違いがまだ、よく分かってないんだけれど。
「モーリスは男湯か?」
「はい。数日風呂に入っていないと発覚しましたので、一時的に護衛を離れていただきました」
「最悪だなあいつ」
「はい。そんな体でお嬢様のお側にいたと思いますと寒気すら覚えます」
部屋に入るなり、見回してモーリスさんがいないことに気がついたシーニャンさん。
シーニャンさんも今、侍女が一人だけ。
宿の中だからとモーリスさんはお風呂に行ってもらったのだが、それを促したのはサリィだ。
どうやら数日お風呂に入っていないと言われて鳥肌が立ったらしい。
ついでにモーリスさんの服も洗うよう宿の人に頼み、苦虫を噛み潰した顔で舌打ち。
舌打ちしちゃったよ。
「だがまあ、それなら好都合か」
「んにゅ?」
「イリヤは朱雀様に加護についてを聞くのだと言っていたが、その加護は生まれついての加護なのか?」
「うん」
こくり、と頷く。
どうしてそんなことを聞くのだろう?
よくわからないけれど、加護についてそのくらいなら話しても大丈夫か。
生まれながらに加護を持つ者は稀ではあるがいないわけではない。
それだけなら、『ちょっと珍しい』くらいなもの。
「そうか。確かにその加護は朱雀様にお聞きするのがよいだろうな」
「え? ……シーニャンねーしゃまはイリヤの加護がなんなのかわかるの?」
「わかる」
「っ!?」
驚いて息を呑むのは私ではなく後ろのサリィ。
お茶を準備していた手が止まり、危うくカップ――湯呑みを落としそうになっていた。
なんか……、シーニャンさんは特別な感じがしていたけれど……私の加護を最初から知っていたのだろうか?
「失礼ながら、シーニャン様は[鑑定]を使えるのですか?」
「[鑑定]が使える。だからたまたま、イオの里に来ていた。巫女には必要な魔法だからな」
「そう、なのですか。それでは、お嬢様の加護についてなにか知っていることはございませんか? 女神神社の宮司様にもお聞きしたのですが、詳しいことはわからないと言われまして」
「外の世界の宮司にわからぬことが巫女にわかるわけがあるまい。宮司は神に仕え、何百年と神の言葉を集めてきたのだ。それ以上を求めるのなら、朱雀様にお聞きするしかない。だが、イリヤの加護は果たして朱雀様にとって詳しくお話しくださることか」
腕を組み、目を閉じて考え込むシーニャン様。
私にはよくわからないので首を傾げると、サリィは少しだけ肩を落とす。
やっぱり朱雀様のところに行かなければなにもわからないってことね。
「だが、主の加護は……強い。加護について知るのは、人生に関わる。そして主の加護は国をも巻き込みかねぬ。イリヤ、主はそれをわかっているのか?」
正座したシーニャンさんに、真面目な顔で問われる。
あ、これはなんのごまかしもしてはいけない気がする。
国を、巻き込みかねない。
それは、なんとなくわかっている。
だって母様の反応を見ると。
「わかるとおもう。ぐーじさまにもいわれた。イリヤの“かご”は『どんなねがいもかなえる』ものだから、おーさまにりよーされるかもって。りよーされないために“かご”のことしっておくんだって」
「そうだな、だがそれは、主の周りのおとなの意見だろう? 主自身はどう思っておる?」
「イリヤは――」
私は?
加護について、知りたい?
「うん、イリヤもしりたい。イリヤのことだし、イリヤはかぞくといっしょにいたい。はなれたくないの。それに、ねがいがかなえられるのならかなえたいなっておもうよ。だれかをしあわせにできるの、いいことだとおもう。わるいねがいはかなえたくない」
「悪い願いか。その判断を自分でできると思うか?」
「わかんない。だますひとがいるってこと?」
「そうだ」
俯く。
そうだよね。
願いが叶うなら、叶えたいよね。
条件が簡単なら、多少のズルもしたくなるよね。
叶えたい願いが強ければ強いほど、どんな手を使っても……。
「じゃあ、やっぱりじぶんでちゃんとねがいをかなえるじょうけんをしっておかなきゃいけないんだね」
「そうだな。だがそれだけでは足らん」
「うん。じゃあ、イリヤがじょうけんをかんがえればいいんだね」
「――――」
願いを叶えるのには条件が必要。
私の加護で願いを叶える。
そのためにもしも私に対して願いを叶えるように、私を騙そうという人が現れたら、私から条件を出す。
「賢いな。そうだ。それでいい。願いは対価を差し出して叶えるものだ。うん……大丈夫そうだな」
「うん?」
