翌日から私は目につく人に片っ端から話しかけた。
なんとイオの里の人たちはわざわざ近くにいた人について紹介もしてくれる。
みんな優しい。
それにご飯もめっちゃ和食!
白米! 天ぷら! お漬物!
お箸も出てきてテンション爆上がり!
前世ではとても食べられなかった和食の数々。
蓮根、切り干し大根、お味噌汁!
「おひるごはん、ぜんぶおいしい!」
「たまげたなぁ。箸をこんなに使いこなせるとぁ」
「わ、わたくしはとてもこの箸というものを使える気がいたしません。お嬢様はなんでも器用にこなされますねぇ」
食事処というところに寄ってお昼ご飯を食べたのだが、モーリスさんもサリィも箸が苦手らしくてスプーンとフォークで食べている。
私は子ども用のお箸。
確かに初見は難しいだろうなぁ。
でも、世間体が子どもの命よりも重かった前世の両親から、箸の使い方は綺麗に使えるようにと厳命されたので私は箸の使い方は自信があるのだ。
教わって一年も立たないうちに披露する場所なんてなくなったけれど。
フードコートにも連れて行ってもらえなくなったし、保育園も『金の無駄』って言われて行かなくなったしね。
今褒められているから、無駄じゃなかったって思える。
「おお、お客さんのお姫様、いい食いっぷりだなあ! 箸使いも上手いし、牛のそぼろ煮をおまけしてやろうか」
「たべたいですっ!」
「まあまあ、たくさん食べれて偉いわねぇ。あさりの佃煮もいる?」
「たべたいです!」
店主さんとその奥さんらしき人たちに、テーブルの上に色々追加の小皿が並んでいく。
牛のそぼろ煮、程よい濃さの甘辛、ご飯に合う!
あさりの佃煮、濃い海鮮出汁、ご飯に合う!
「ごはん、おかわり!」
「あらあら」
「はいよ。どんくらい食える?」
「いっぱい!」
「ははは! いいねいいねぇ!」
店主さんはとても喜んでくれた。
全部美味しくて私も嬉しい。
「しかし、あまり大きい村ではありませんが『巫女様』がどなたなのかわかりませんね。モーリス様は、やはり教えてくださらないのですか」
「それがルールだからな。でもまあ、この様子なら巫女様の方から話しかけてくださるさ」
「そうなのですね。やはりお嬢様の人望でこそなせる御業」
「う……うん? うん……まあ、そう……かも? な?」
ご飯をたくさん食べたので、また挨拶回りに戻る。
東西南北の順番で回っていたから、そろそろ村南部にさしかかる。
そして村は意外と観光地っぽい。
お土産屋さんや、お饅頭屋さんがある。
イオの里の特産品はこのお饅頭で、朱雀様の焼き印が入っていた。
このお饅頭がまた美味しい。
薄皮で、あんこがたっぷり!
まさか転生先にもお饅頭があるなんて思わなかった。
神様の采配に感謝が止まらない。
「サリィさんは大丈夫かい? 嬢ちゃんが加護で疲れ知らずなのは知っているが、あんたは普通のメイドだろう?」
「わたくしはお嬢様のお世話を任されている専属の侍女です。メイドと一緒にしないでくださいませ」
「あ、ああ、そういうもんなのか。悪いな、俺はメイドと侍女の違いがわからなくて」
「なんでわからないのですか? 勉強してください」
サリィ、辛辣。
なんかモーリスさん相手にどんどん口悪くなっているような気がするけど……いや、気のせいかな?
あれだよね、喧嘩するほど仲がいいってやつ。
「イリヤ、たくさんの人に挨拶をしたのだな」
「あ、シーニャンおねぇしゃま」
「んふふふふふ」
なんか気のせいかもしれないけれど、私が「お姉さま」と呼ぶ度に喜んでないか?
しかし後ろに六人くらい侍女を連れているシーニャンって、朱雀領の貴族令嬢なのかな?
後ろの侍女を凝視していたせいか、シーニャンさんに「後ろの者たちが気になるのか?」と聞かれてこくん、と頷く。
「シーニャンおねーしゃまもきぞくなの?」
「ん? 貴族……ああ、そうか。使用人を連れているのを外の世界では『貴族』と呼ぶのか。私は……そうだな、それに近い者なのは間違いないかな。どう呼ぶのが適切なのか、外の世界のことに疎い私にはよくわからないが」
「ううん。それっぽいっておもえばかいけつ!」
「はははは! 確かにそうだな! でも、私はそんな感じでそこそこ偉い! 困ったことがあったらお姉さまになんでも相談するがよいぞ」
「うん! イリヤおにいしゃましかいないから、おねーしゃまができてうれしい!」
「ん、んふふふふふふ、んふ、んふ」
笑い方がだいぶ怪しくなってきたな。
でもまあ、嬉しいならいいか。
「今日宿に帰るのなら一緒に帰るか? 私も今日は宿に帰るつもりなのだ」
「うん! おねーしゃまといっしょ、かえる」
「んふふふぅ」
手を差し出されたので、それを握る。
いいなあ、お姉ちゃん。
前世で――妹がいた気はするんだ。
でも、産まれたあと会ったことがない気がする。
顔を見た記憶がない。
二階で育てられていたんだっけ?
二階、上がるの禁止になっていたから。
ああ、やめよ、思い出すの。
お姉ちゃんっぽいことしたことないけれど、お姉ちゃんがいたら……こんな感じなのかな?
「シーニャン様、こんにちは」
「シーニャン様、こちら新作のお饅頭なんですよ。お連れのお嬢様も一緒にいかがですか?」
「イリヤ、この二人にはもう挨拶したのか?」
「はじめましてのひとたち! イリヤ・オルヴァーニュともうします」
「初めまして。旅の方でしょうか?」
「試練の最中なのだ」
「そうなのですね。よき旅となりますように」
シーニャンさんと一緒だと初めましての人にたくさん話しかけてもらえる。
これなら試練、すぐ終わるかな?
でも結局巫女様が誰なのかわからないな……。
