転生したらHP10000だった。


 朱雀領は大陸南部に広がる大きな森。
 先ほどモーリスさんが言っていた通り森と山がほとんど。
 そこに人間の村が点在しており、村人は自給自足の生活をしている。
 鳥系の魔獣が多く、森の中で普通の動物の生態系に魔獣が少々。
 鳥系、イノシシ系、牛系、魚系の魔獣は魔石を抜くと肉が食べられるので、それと畑で事足りるのだそうだ。
 どの村にも番犬、猟犬、猛禽類が入口に放し飼いになっており、日々魔獣と戦う飼い犬たちは体が大きく賢い。
 村に入る前に、その番犬や番鳥たちに頭を下げて挨拶をしないと侵入者として噛み殺されることもあるという。
 まあ、そのくらい危険と隣り合わせなのだ、とモーリスさんは笑っていたけれど。
 馬に乗ってその細道を歩くこと十分。
 村の入口が見えてきた。
 結構近いんだな?
 
「お、ローフ、クレット! 久しぶりだなぁ! 俺のこと覚えているか!?」
「ワン! ワン!」
『オボエテル、オボエテル。モーリス、モーリス。ヒサシブリダナ、ヒサシブリ!』
「しゃべったぁ!」
 
 思わず前のめりになってしまう。
 だって犬はともかく、おっきい鳥が喋ったんだもん!
 すごい! 鳥って喋れるんだ!?
 
「モーリス様、その鳥は……」
「ああ、普通のホークだ。だが、ここ朱雀領だと鳥は朱雀様の加護を得て眷属の扱いになり、どんな鳥でも話せるようになる。犬はローフ。喋っているホークはクレットだ」
「かわいい! かわいい! わんわん、はじめてみた! かわいい!」
『アー? クレットハ? クレットハカワイイ?』
「クレットはカッコいいよ!」
『アー! クレットハカッコイイ! ヤッター』
「嘘だろ……? 一発で会話成立しただと……?」
 
 柵の上に留まったクレットというホークが、嬉しそうに『クレットハカッコイイ』と繰り返す。
 一緒にいて、最初吠えていたローフという大型犬もお座りしてにこにこしている。
 すごく、すごく可愛い!
 この世界にも犬がいて、鳥もいるんだ。
 いや、いるだろうけれどこの世界に生まれて初めて見たもん。
 いいなあ、前世では散歩している犬を眺めることしかできなかったし、一人で歩いている野良猫を羨ましく思ったものだ。
 
「イリヤもわんわんやにゃんにゃんといっしょにくらしたいなぁ……」
「そうかそうか。動物が好きなんだな」
「うん、すき!」
 
 好きというか、憧れている。
 前世の私には野良猫のように一人で生きていく勇気も力もなかった。
 人に飼われる犬のように、家族に大事に愛されることもなかった。
 だから羨ましくて、憧れがあったのだ。
 犬も、野良猫も、前世の私よりも強く幸せそうだったから。
 今世の私は貴族として生まれたし、優しい家族に囲まれている。
 犬を飼ってみたいし、猫も飼ってみたい。
 鳥は考えたことなかった。
 でもこんなふうに意思疎通ができるのなら、鳥さんもカッコいいなぁ。
 それに大きい鳥さんって本当に大きいものなんだ!
 翼を広げたら私よりも大きい!
 
「ん? なんだか今日は人が多いな? 客が来ているのか?」
『ンアー。キテルヨ。スゴイヒトキテル』
「すごい人?」
 
 モーリスさんが愛子さんから下りて、村に入る。
 私とサリィも門をくぐるが、ローフもクレットもなにも言わないから許してもらえたみたい。
 サリィに頼んで馬から下ろしてもらい、ローフに近づく。
 お座りしてベロを出している。
 
「なででもいい?」
「くうん」
 
 鼻を少し鳴らし、ローフが背中を向ける。
 背中なら撫でてもいいってことなのかな?
 背中を撫でると思っていたよりも固い毛並み。
 でも、あったかくて頼もしい背中だ。
 抱き着いてもいい、と聞くと特に反応がない。
 じゃあえい、と抱き着くむしろサリィの方から「お、お嬢様」と声をかけられる。
 ローフ、引き続き無反応。
 なんて懐のデカい犬なのかしら。
 そして、なんてあったかくて安心感のある背中なのだろう。
 いいなあ、お外と犬の匂いがする。
 
「まあ、里の番犬が許している」
「ッ!?」
 
 かなり高い、子どもの声。
 聞こえてきた声の方を見ると、たくさんのおとなに囲まれた私よりも少しだけお姉さんみたいな女の子が近づいてきた。
 白を基調とした着物だ。
 赤い袴と、着物のふちは赤い糸で縫われ、髪は真っ黒。
 お団子に結ってあり、金の(かんざし)をつけている。
 まるで日本人の巫女さんみたい。
 巫女さんだとしたら、かなり着飾っている方だと思うけれど。
 
「あ。はじめまして。イリヤ・オルヴァーニュともうします」
 
 いかんいかん、初対面の人には挨拶をしなきゃ!
 村に来る途中、モーリスさんも村の人には尊敬のナントカをなんとかって言ってた気がするし!
 
「オルヴァーニュ……? アルドの親類か?」
「アルドにいしゃまはイリヤのおにいしゃまです」
「アルドの妹? ……え、ええと……アルドはカルヴァ王国の貴族ではなかったか? その妹ということはそなたも貴族なのでは? なぜこのような場に?」
 
 矢継ぎ早というやつを、初めて経験した。
 女の子はいつの間にか私の目の前まで来て、それ以外にも「使用人が一人? 護衛はモーリスだけ? 当のアルドはどうしたのだ?」と質問が止まらない。
 えっと、えっと。