「んじゃあ、いよいよ行くか」
「おー」
別れを一時間くらい惜しんだアルド兄様を見送って、おトイレを済ませて表に出る。
サリィと私の乗ってきた馬はしっかりと休んだようで、私たちの顔を見ると嬉しそうに鼻を鳴らす。
「紹介しておくぜ、俺の愛馬の愛子ちゃんだ!」
「あいこちゃん!」
デッッッッカ!?
え、デカいな? 私たちが乗ってきたお馬さんよりも一回りくらいデッカイよ?
ん!? よく見ると足も八本あるよ!? え!?
「この馬は……魔獣ですか?」
「そ」
「まじゅう!? まじゅう、って、あのまじゅう!? まじゅう、おそわないの!?」
「これはな、『テイム』というアーツ魔法だ」
「これがテイム、ですか」
アーツ魔法。
ということは、モーリスさんも誰かから加護をもらったってこと?
「俺の場合は生まれつき魔獣に好かれやすい体質でな。心を通わせた魔獣とはこうして『テイム』という形で『契約』する。契約した魔獣は人を襲うことはなくなるんだぜ」
「ええ……!? いいなぁ!?」
「んん? い、いい、か? 羨ましがられたのは初めてだなぁ」
「うん! だって、まじゅうこわい子もいるけど、かわいい子もいるんでしょ」
「可愛い子……うーん、どうだろうなぁ? そのへんの感性は人による」
でも普通に動物を飼うの憧れるんだよね。
このお馬さんもオルヴァーニュ公爵家の持ち物。
私は私のペットがほしい。
ペットがほしいな、と思えるくらいに、私に余裕ができたってことだけれど。
「まあ、でもそうだな。魔獣と友達になりたいなんて思ってくれるようなヤツは嬢ちゃんが初めてだ。興味があるなら嬢ちゃんがもうちょいでっかくなったらやり方を教えてやるよ! まあ、それでもうまくできるかはわからんぞ。魔獣ってのは人間の敵だからな」
「ほんとう!? やったー!」
「は、はあ……お嬢様……」
頭を抱えるサリィ。
おや? 私また変なこと言った?
でも、魔獣とも友達になれるならなりたいな。
見た目お馬さんとはやっぱり違うけれど、愛子さんはとても賢い。
大男のモーリスさんを乗せてもびくともしない。
むしろ、私とサリィの乗るお馬さんと対比がおかしいことになっているような。
いや、それよりもようやくだ。
「んじゃ、出発するぜ。この大門を潜ると朱雀領だ。朱雀領は七割が森。二割山。残りが人間の住む村だ。村はそれぞれ『里』と呼ばれる。これから行く最初の村、イオ村も朱雀領の人間は『イオの里』と呼ばれているんだぜ。外の人間似た外の呼び方に合わせてイオ村と呼んでくれているがな。村の人間と仲良くなりたいなら現地の言葉を覚えて話すといいと思うぜ。朱雀様に対して尊敬の念を持って接すれば、朱雀領の人間はよくしてくれる。この領に住む人間は朱雀様の眷属を自称している。実際に眷属なのは巫女さんらしいが」
「なかよくなったらすざくさまにあえる?」
「ああ、嬢ちゃんは面白いしアルドの妹だからすぐ大巫女に会わせてもらえるだろうさ」
だいみこ?
巫女さんの強い版?
その人に会わないといけないの?
「モーリス様、お嬢様は朱雀領に入ったらまずどうしたらよいのでしょうか? 朱雀様にお会いするために」
「まずはイオ村の巫女に会って、次の巫女に会う。巫女を辿り、大巫女に会ってから試練を課せられる。アルドに聞いているだろうが」
「朱雀領に現れるという、巨大な魔獣、でございますか」
「そうだ。その魔獣を倒し、その褒美として朱雀様にお目通りが叶う……ってのが一般的だな。だが、巫女を何人経由するか、試練とする魔獣の大きさや強さは朱雀様と大巫女の匙加減。会いに来た人間次第、って言われている」
そうなんだ。
じゃあ、早く大巫女様に会えた方がいいってことか。
「イリヤ、いろんなみこしゃまとおはなししてみたいけどな~」
「ははははははははは!! 巫女たちもそれを聞いたら嬢ちゃんの味方しちゃうだろうなぁ! こりゃあ可愛がられるぞ~」
「この領の方々にもお嬢様の愛らしさが伝わるのですね」
「ん!? ん、んん----。まあ、そうだな!」
サリィ、呆れられてない?
確かに私は前世よりも可愛く生まれたとは思うけれど。
それでもサリィがここまで私を可愛がってくれるのはなんでだろう?
「気を取り直して。イオ村はこっちの道だぜ。まあ、普通に一本道だから迷うことはないだろう。朱雀領は関所門からイオ村までは一本道だが、イオ村からは道が二本、先の村からは三本、と言ったように道が増えていき結構迷いやすい。森の中を通ってもいいがそこかしらに魔獣がうろついている。デカいのがな」
「確か、朱雀領の魔獣は大きいのですよね?」
「そうだぜ。っていうか、四神領の魔獣はどこもデカい。でも封印されているヤツらはその比じゃねえ。旅の途中で魔獣は見たか?」
「ボア系、ウルフ系、サラマンダー系、昆虫系、バード系の何種類かは……」
「その三倍がこの辺りの魔獣の”通常”だ。森の中は迷いの術がかけられているから迷うし、そんな魔獣がうろついているから道を通るのが一番安全だな」
サリィの表情がどんどん不安そうになる。
確かに森の細道って感じだ。
馬車が一台、やっと通れる広さ。
ここを少しでも逸れて森に入ると、迷子になってしまうらしい。
