転生したらHP10000だった。


「相手はカルヴァ王国、王家そのものってか」
「はい。もしも宮司の言っていることが事実なら、イリヤには『心の力で加護を与えた者の願いを叶える』『ローゼクリス様の加護を持つ者が叶えられる願いの数に上限はなく、ただしなにか条件がある』らしいのです。王家がイリヤのこの加護の力を利用しない手はないと考えるのは、当然だと思います。すでに子のことは耳に入っているでしょう。条件について朱雀様にお聞きしたいのです。もしも現実的に不可能なのであれば、王家の加護からイリヤを庇いながら普通の令嬢として過ごすことはできるかもしれませんし……」
「なるほどな……。だが、嬢ちゃんはもう王子様の婚約者になっちまったんだろう?」
 
 ん? 私?
 私の方をジッと見つめてくる兄様とモーリスさん。
 王子様の婚約者。
 王子様……グレン王子のことだよね?
 
「はい! イリヤがおうじさまをしあわせにしてあげるの!」
 
 と、答えるとモーリスさんは目を真ん丸にした。
 私の答えってそんなにおかしいのかなぁ?
 一拍の間の沈黙。
 それから突然、モーリスさんが大きく口を開けて笑い出した。
 
「がはははははははははははは! こりゃあとんでもねえ! お前の妹なんつー器のデカさだよ! 『世界一呪われている』と言われているカルヴァ王家の王子様を! 『幸せにしてあげる』か! こいつぁスッゲー女がいたもんだ!! わははははははははは!」
「なんでわらうの? イリヤ、へんなこといってないよ」
「ああ、悪い悪い。そうだな! お前さんは正しい!」
 
 またもすごい音を立ててモーリスさんは自分の膝を叩く。
 でもまだ笑っている。
 なにがそんなに面白いのぉ?
 
「いいな! お前の妹! おもしれー女だ!」
「人の妹を面白い女認定しないでくださいよ。面白いんじゃなくて可愛いでしょう!」
「ああ、うんまあ、それでいいわ」
 
 なんか適当だな。
 
「しかし、星の精霊かぁ。俺も戦いに関係ない加護については詳しくねぇからなぁ。だが、朱雀様たち四神と同格かそれ以上の神か。確かにそれは朱雀様に直接お聞きした方がいいな」
「は、はい。そうですよね」
 
 その後も喉の奥で笑いをかみ殺すように笑っていたモーリスさんだが、突然ものすごく真剣な眼差しで口許に指をあてがい考え込む。
 さっきまでの人とは別人みたい。
 
「……だが、そうだな。お前の不安もわかるが、今の話を聞く限り王家の反応も至極当然とも思う」
「え? どういうこと、ですか?」
「東の島国、ブロードが船でカルヴァ王国本土の一部に工作員を送っているってよ。アグレド王国が潤沢な資金でブロードを焚きつけているっぽい」
「――どういうことです?」
「戦争の準備だよ。元々アグレドもブロードも土地が狭いわりに態度のデカい国だっただろう? そこが手を組んで、上から下からカルヴァ王国の土地を狙っていた。なにがきっかけか知らねぇが、最近その動きが活発化している。あと何年もしないうちに戦争になるんじゃねぇかと言われているぐらいにはな」
「せ、戦争……!? そんな……!?」
「そんな状況で王都からあまり朱雀様の加護をいただいているお前を長期間留守にさせたくないんだろう。カルヴァ王国は『金の大槌(ウチ)』みてぇな大手冒険者パーティーも持ってねぇからな。ま、だとしても『金の大槌(ウチ)』はアグレドの味方もしねぇ。これは旦那がきっぱり宣言している。当然だな、うちの旦那はアグレドに恨みこそあれ、味方する理由は一つもねぇ。なんなら敵に回りたいくらいだ。これはきっちり明言している」
 
 空気が重くなった。
 兄様もサリィも、顔色が悪くなっている。
 ……聞き間違いでなければ、戦争、って言ってた。
 カルヴァ王国が戦争に巻き込まれるってこと……?
 まさか?
 
「国内事情に構っていられるほど、お前んところの王様は余裕がある状態じゃねぇはずだ。とにかく今は情報と裏切らない戦力がほしくて必死だろう。お前の場合はマジでそれに合致する。遠くに放したくないんだ。妹の護衛から引き離したいってわけじゃない。ただ不安だから王都に置いておきたいってだけだろう」
「お、王国にも、優秀な騎士は、多いのに……」
「それでも朱雀様に認められ、加護をいただいている者はいない。お前だけだ。だいぶテンパってんな、お前の国の王は。ま、戦いに関わってこなかった王なら無理もないだろうが」
「ッ……」
 
 サリィの顔も、急に曇ってそのままになる。
 難しい話をしているからよくわからないけれど、つまり王様は今、怖がっているんだ。
 怖いから……兄様に戻ってきてほしい、ってこと?
 
「それなら、にいしゃまはおーとにかえったほーがいい?」
「なにを言うんだ、イリヤ。確かにその話を聞けば、王家の言い分も少しはわかるけれど……戦争はそんなにすぐ起こるものではないよ」
「でも……」
「嬢ちゃんの言う通り、お前は戻った方がいいかもな」
「モーリスさん!」
「それで王家がおとなしくなるなら、その方が妹のためにもいいだろう?」
「うっ。で、でも、それではイリヤを守る人が……」
「ばーか! そこで俺だろう!」 
 
 またも兄様がものすごい勢いで背中を叩かれる。
 でっかい音。
 兄様もびっくりした顔をしている。
 
「い、いいんですか……!?」
「その代わり、護衛料は弾めよな」
「あ、ありがとうございます!」