転生したらHP10000だった。


 異世界ブロントズウェール。
 六つの大陸からなる、ファンタジーな世界。
 私が生まれたのは、中央大陸と呼ばれる一番大きな大陸の、一番大きな国の公爵家オルヴァーニュ。
 そこの長女、イリヤ。
 それが今世の私の名前。
 上に四人の男児がいるため跡取り問題はなく、長男のブロッサ兄様が跡継ぎとして決まっているし私とは十二歳も離れている。
 だから私は、ただただ愛でられる存在として爆誕。
 両親は当然仲が良く、お兄様たちも私の顔を身に屋敷に頻繁に帰ってくるようになったらしい。
 そのくらい、大事に大事に育ててもらって早五年。
 気づいてしまった。
 
(全ッッッ然眠れなーーーーーい)
 
 元々寝つきが死ぬほど悪くて、ほとんど起きて過ごしていた。
 理由は明快。
 体力が有り余っているからだ!
 女神様が『痛くて苦しくないように』と私になにか加護のようなものを与えてくれたのだとはわかっている。
 でも元気すぎてまったく眠れないのには困った。
 誰も相手をしてもらえない。
 公爵令嬢っていうか、貴族って子どもは子ども部屋で勉強して過ごすのがデフォらしく、五歳児も普通に自室で寝起きをするように躾けられる。
 おかげで家族は仲良しだけれど、家族と過ごす時間の長さは前世と変わらない気がする。
 いや、もちろん殴られたり家事を強要されることもないから、前世と比べるまでもなく今の方が幸せなのだけれど……遊んでも勉強してもまったく疲れないので眠れない。
 眠れないのはあまりにも退屈!
 仕方がないからカーテンを開けて月明かりを頼りに絵本を読む。
 こんな深夜に外へ出る勇気はまだない。
 だってこの世界は前世とあまりにも違うんだもの。
 
「お嬢様」
「ひえ!」
「どうかされたのですか? 外の警備のものが、お嬢様のお部屋のカーテンが開いていると……」
 
 ノックが二回。
 絵本を持ってきて開いているところに、私のお世話をしてくれているメイドのサリィが明りを持って入ってきた。
 それでもめっちゃ驚いたわ。
 ああ、でも外の巡回している警備兵にバレたのか。
 ぐぬぬ、さすがお貴族様。
 些細な変化も見逃されない。
 いや、ある意味安心安全ではあるけれど。
 
「ねむれないから、えほんをよもうとおもったの」
「まあ。今夜も眠れないのですか。ちゃんと寝ないと大きくなれませんよ」
「だってねむれないんだもん」
 
 絵本を見せて、仕事に戻ってもらおうと思ったのにサリィは寝室に入ってくる。
 別にいいのに。
 俯いて絵本を抱える。
 私の前まで来たサリィはしゃがんで私の目線に合わせて「サリィが読みましょうか」と言ってくれた。
 この世界は、私が前世で憧れたものが詰まっている。
 
「いいの……?」
「そのかわり、ベッドの中に入って目を閉じてくださいませ」
「うん」
 
 寝かしつけの絵本の読み聞かせ。
 そんなの、前世でお父さんとお母さんが離婚する前までしか記憶がない。
 ああ、でもそれって前世の私が今の年齢の頃だ。
 まあ、今世の両親は仲が良すぎて私が生まれちゃったんだもん。
 離婚とは程遠い。
 サリィに言われるままベッドに向かう。
 サリィは私が開けたカーテンを閉めて、枕元のチェストの上にランプを置く。
 その時、ランプの中が火ではなくオレンジに煌めくジャガイモのような石だと気がついた。
 
「いしがひかってう」
「ああ、お嬢様は魔石をご覧になるのは初めてですか。あまり目に触れる場所にはありませんものね」
「ませき」
「そうですよ。魔獣から採れる、魔力の塊。それが魔石です。お嬢様がもっと大きくなれば触る機会も増えるでしょう」
「さわってもいい?」
「お嬢様くらいの年齢は魔力がどのくらいあるかわからないので、触らない方がいいですわ。扱いなれないと暴発してしまいます」
「ぼうはちゅ」
「爆発してしまうんです」
「あぶない」
「その通りです」
 
 意図せずボンっていくってこと!? ヤバすぎィ!
 触る前に確認してよかったぁ!
 でも、魔石だなんて……この世界、もしかして私が思っているよりもとんでもない?
 
「では、読みますよ。いつでも寝ていいですからね」
「うん」
 
 布団に入れられ、しっかりと被せられる。
 寝かしつける気満々だなぁ。
 果たしてサリィは私を無事に寝かしつけることができるかな?
 私の寝つけなさは強敵だぞう?
 
「この世界、ブロントズウェールはちいさな女神様によって作られました。女神様は世界を作って、でも遊んでくれる生き物がいなくて、寂しくて泣いてしまいました。何年も何年も、独りぼっちで泣いていました。そして泣きつかれて、寝てしまいます。何年も何年も、独りぼっちで眠りました。寝坊をした女神様が目を覚ますと、なんと水には魚が泳ぎ、お空には鳥が飛び、大地には動物がたくさん生きていました。泣いている女神様を可哀想に思って、八つのお星様が贈り物をしてくれたのです。しかし、小さな女神様はお話ができる生き物がいないことでまた泣いてしまいました。たくさん泣いて、泣いて、その涙が魔石となって四つの生き物の体に入ってしまいました。四つの生き物は四神という神獣となり、泣く女神のために人間を作りました。人間は瞬く間に増えて、女神様を信仰し始めます。こうして小さな女神様は孤独から解放され、寂しくなくなりました」
 
 めでたしめでたし。
 そう締めくくるサリィ。
 枕もとの私の方を見て、あからさまにギョッとしたのを見逃さなかった。
 
「べつなおはなしもききたい」
「か、かしこまりました」