「それにしても、イリヤは本当に頭がいいね。子どもとは思えないぐらい理解力がある」
「えっへん。いっぱいべんきょーしてるから!」
「偉いねぇ」
褒められて胸を張る。
兄様に褒められると普通に嬉しい。
しかし、雑談と授業はここまで。
大きな門が見えてきた。
「おっきいもん!」
「そう。これがカルヴァ国の国境門。ここから先は朱雀様の領域で、『朱雀領』というんだ。人間の世界ではないから、ルールと常識は朱雀様の定めた者に従わなければいけないんだよ。わかるかな」
「うん、わかる!」
「じゃあ、行こうか」
「うん!」
すごいワクワクする!
でも、サリィは複雑そう。
「サリィ、大丈夫?」
「サリィ、どーしたの?」
「い、いいえ。あ、あの、朱雀様のルールというのは……どのようなものなのでしょうか? 人間に対して理不尽なものなのでしょうか?」
あー、確かに。
事前のルール確認は大切か。
私も知りたい、と言ったら兄様が頷く。
「朱雀様の領地には特殊な魔獣が出るんだ。人間の国に出る魔獣は魔石を持っているんだけれど、朱雀様の領地の魔獣は朱雀様の神気を吸って巨大化している。朱雀様としても魔獣は敵だから、倒して構わない。むしろ、積極的に倒してほしいから人間を領地に受け入れているんだって。で、やってはいけないことは各地に置いてある『要石』というドーナツみたい形の意思が置いてあるんだ。それは触れてはいけないし、壊してもいけない。壊すと封じられている神気を吸った巨大な魔獣が蘇る。俺のように朱雀様が人間に加護をお与えくださるのは、巨大化した魔獣を倒すため。そして、アーツ魔法として朱雀様の加護をいただく時の試練として使われる。なにも知らない上、なんの覚悟もなく要石を壊してしまうとまず間違いなく死者が出るから『触れてはいけない』と言われている」
「要石、ですか」
「ほかにもあるー?」
「うん。朱雀領にも行くルカ村があって、人が住んでいる場所があるんだけれど、そこではそこに住んでいる人の忠告をよく聞くこと。特に巫女と呼ばれる女性の言うことは絶対に聞くべき」
「巫女様ですか?」
「そう。年齢は様々だったよ。若いお姉さんもいれば、おばあさんもいた。みんな朱雀様に加護をいただいていて、強くてかっこいい人ばかりだったよ」
兄様は朱雀領を色々見て回っているんだね。
巫女さんかあ。
私のイメージだと赤い袴のお姉さんって感じだけれど。
「まずは最初の村、イオ村に行こう。……まあ、無事に門を出ていければの話だけれど」
「そうですわね……」
もしかしたら王家が先に手を回して、私たちを国から出さないようにさせるってこと?
さすがに考えすぎじゃないかなぁ?
「しばらくお待ちください」
「いつまで待てばいいでしょうか」
「少々の確認が必要なのです。ずいぶん幼いお子が同行していらっしゃるようですので」
サリィとアルド様が顔を見合わせる。
門を潜ろうとしたところ、門の脇にある小さい扉から兵士が出てきて私たちを詰所の中に誘った。
ついていくと広い一室に通される。
ふかふかのソファー。
これは応接室ってやつ?
メイドがお茶を持ってきて、テーブルに並べていく。
兵士に兄様が質問するけれど、兵士はあいまいに濁して部屋から出ていってしまった。
おおん、もしかして兄様とサリィが心配していた通りになったん?
「はあ……いやな予感が的中したかもね」
「いかがいたしましょうか」
「とりあえず様子を見よう。ここで暴れても仕方ない。それに、イリヤも一晩くらい大きなベッドで寝て貴族らしい食事をしないとマナーを忘れてしまうかもしれないもんね」
「わすれないもん!」
多分。
頬を膨らまして拗ねて見せるのに、兄様もサリィもにっこにっこ!
なんでにっこにっこなの!?
でも、そんなことを話していたら突然出入口の扉が勢いよく開く。
バアン! というすごい勢い。
「アルド! よく来た!」
「え!? モーリスさん!? ええええ!? お久しぶりです!」
兄様が突然入ってきた大男に嬉しそうな顔をして立ち上がり、その大男のところに駆け寄る。
え? 知り合い……?
「いやー、すまんすまん! お前に手配が来ていたから、どーせなら足止めしててくれと頼んだんだ! びっくりさせてわるかったな! わははははは!」
体だけじゃなく声もでかい。
な、なんなんだこの人。
頭をボリボリ掻きながら、兄様と共にソファーにやってくる。
どかん、と勢いよく座るから、一人がけソファーがミシッといった。
だ、大丈夫かな……?
「アルド様、そちらの方は?」
「うおおお! すげぇ別嬪さんじゃあねぇか! アルド、紹介してくれ! この美女のお名前は!?」
「サ、サリィです。妹の護衛侍女で……。え、ええと、サリィ、イリヤ、この人はモーリスさん。銀級の冒険者で、俺が朱雀領に来た時、一緒に冒険してくれた人なんだ。冒険者のことを色々教えてくれた師匠のような人だよ」
「そ、そうなのですね。わたくしはサリィ・イーズと申します」
「はじめまして、モーリスしゃま。わたくしはイリヤ・オルヴァーニュともうします。いごおみしりおきください」
「おっ」
