Psycer Brain ─ 神に抗え。その力で運命を変えろ。

GENESIS――地下施設

オールドマンが姿を消したあとも、施設全体は激しく揺れ続けていた。
赤い警告灯が点滅し、崩壊を知らせるサイレンが鳴り響く。

《WARNING》
《STRUCTURE COLLAPSE》
《EMERGENCY EVACUATION》

天井から瓦礫が落ちる。
床には無数の亀裂。
燕はセツナの肩を支えながら歩いていた。
「姉さん、大丈夫?」
セツナは苦しそうに息を吐きながらも、小さく笑う。
「私は平気……。」
しかし、その身体は明らかに限界だった。
長期間の拘束。
能力の酷使。
そして制御装置による精神への負荷。
すぐに元通りになる状態ではない。
結衣がそっと手を添える。
「少しだけ我慢してください。」
Healer(回復)。
淡い光がセツナを包む。
傷はゆっくりと癒えていく。
だが結衣の額には汗が滲んだ。
「はぁ……。」
イレイダが気付く。
「無理するな。」
「でも……。」
「まだ助けなきゃいけない人がいます。」
イレイダは少しだけ笑う。
「相変わらずだな。」
「そういうところ。」
「お前らしいな。」
結衣も少しだけ笑った。

その頃。

GENESIS外郭。

轟音が響く。
ドゴォォォォォン!!

レイと一仁。

二人の激突はさらに激しさを増していた。
一仁が右手を振る。

periculum(崩壊)

周囲数十メートルの地面が一斉に崩れ落ちる。
レイは瓦礫を蹴り上げる。
さらに空中で身体を捻る。
崩壊を紙一重でかわし、一仁の目前へ。
「甘い。」
拳。
ドゴォッ!!
一仁の腹部へめり込む。
しかし一仁も倒れない。
「いい拳だ。」
口元の血を拭う。
「だが。」
地面へ掌を置く。
「終わりだ。」
瞬間。
半径百メートル以上の大地が悲鳴を上げた。
バキバキバキバキッ!!
ソウヤたちが立っている場所まで崩壊が迫る。
「まずい!」
千太が叫ぶ。
「全員離れろ!」
マリアが能力者たちを誘導する。
バスティーユが崩れた瓦礫を拳で砕き、退路を作る。
マダラと鬱星も最後尾で援護を続けた。
しかし。
レイだけは動かない。
真正面から一仁を見据えていた。
「終わりか?」
静かな声。
一仁が笑う。
「まだ始まりだ。」

東京湾
グランと間宮の戦いも終盤へ近づいていた。
間宮は満身創痍。
それでも笑みを崩さない。
「あなたの能力。」
「本当に興味深い。」
グランは無言だった。

Compulsory executor(強制執行)。

既に複数の命令を維持し続けている。
その代償は確実に精神を蝕んでいた。
ズキッ……
頭痛。
視界が歪む。
一瞬だけ、自分が誰なのか分からなくなる。
それでも。
「まだ終わらん。」
グランは拳を握る。
間宮が静かに言った。
「そこまでして戦う理由は何です?」
「……。」
「あなたほどの力なら。」
「世界を支配することもできる。」
グランはゆっくり顔を上げた。
「興味がない。」
「俺が欲しいのは支配じゃない。」
「絶対だ。」
間宮の笑みが消える。
「絶対……。」
「誰にも覆せない力。」
「それだけだ。」
そう言い終えた瞬間。
グランが一気に距離を詰めた。

「終わりだッッッ!!」

ドゴォォォォン!!
拳が炸裂する。
間宮は障壁を展開する。
しかし。
ヒビ。
バキィッ!!
障壁が砕け散る。
間宮は海面へ叩きつけられた。

ハルシオン
艦橋。
ベルトがレーダーを見つめる。
「艦長。」
「地下施設の崩壊が加速しています。」
フランは静かにGENESISを見つめていた。
「分かっている。」
「助けに行きますか?」
「いや。」
フランは首を横へ振る。
「今は行けんを。」
「敵がまだ残っている。」
海上にはAz残存兵器。
そして各地へ散った無人兵器。
艦隊を離れるわけにはいかなかった。
「だが。」
フランの瞳が鋭くなる。
「中の連中なら生きて帰る。必ず。」
「信じているさ。」
ベルトは小さく頷いた。
「……はい。」

GENESIS地下
イレイダたちは避難を続けていた。
しかし。
ネリクマだけが立ち止まる。
「……。」
「どうした?」
イレイダが尋ねる。
ネリクマは奥を見つめたまま動かない。
「何かいる。」
「まだ?」
「うん。」
燕も表情を引き締める。
「Azですか?」
ネリクマは首を横へ振った。
「違う。」
「すごく遠い。」
「でも。」
「誰かが……見てる。」
その瞬間。
ゾクリ、と全員の背筋に寒気が走った。
イレイダはゆっくり刀へ手を添える。
「……気のせいじゃなさそうだな。」
遠く離れた中央制御区画でも、デウスが静かに目を開いていた。
「...。」

その正体をこの場で知る者は、まだ誰もいなかった。

第92話 完