ゴォォォォォォォン――――。
GENESIS最深部から響く重低音は、一度きりでは終わらなかった。
鼓動のように。
まるで巨大な心臓が脈打つように、一定の間隔で施設全体を震わせる。
ドクン――。
ドクン――。
天井から細かな砂埃が舞い落ちる。
燕が思わず辺りを見回した。
「この音……。」
柚季も顔をしかめる。
「さっきまでこんなの鳴ってなかった。」
結衣は胸元を押さえる。
理由は分からない。
それでも、本能が警鐘を鳴らしていた。
「嫌な感じがする……。」
ネリクマも珍しく無表情のまま奥を見つめる。
「……いる。」
イレイダが振り返る。
「何がだ。」
ネリクマはゆっくり首を横へ振った。
「分からない。」
「でも。」
「すごく嫌。」
その一言で、この場にいる全員の空気が張り詰めた。
ネリクマがここまで警戒する相手は滅多にいない。
オールドマンはそんな彼らを見ながら、静かに目を閉じる。
「まだ、その時ではありません。」
「……?」
燕が眉をひそめる。
「何の話ですか。」
「あなた方が知る必要はありません。」
イレイダが刀を肩へ担ぎ直す。
「だったら黙って倒されろ。」
一歩踏み込もうとした、その時だった。
通信機から激しいノイズが流れる。
『――ザザッ……!』
『イレイダ!』
タジだった。
息を切らしながら叫んでいる。
『地下全部がヤバい!』
『崩壊速度が一気に上がった!』
『このままじゃGENESISそのものが沈む!』
イレイダは舌打ちする。
「どれくらい持つ。」
『正確には分からない!』
『でも長くはない!』
結衣の顔色が変わる。
「まだ救助できてない人もいるのに……。」
燕もセツナを見つめた。
今は姉を助けられた。
だが、他にも助けを待つ能力者がいる。
オールドマンは静かに後ろを向いた。
「目的は達しました。」
イレイダが目を細める。
「逃げる気か。」
「違います。」
「ここで戦う意味がなくなっただけです。」
「待て!」
イレイダが駆け出す。
Physical attacker。
爆発的な加速。
しかし、その瞬間。
ズズズズズズッ!!
巨大な隔壁が一斉に降下した。
ガァァァン!!
イレイダの目前で完全に閉鎖される。
「ちっ!」
すぐさま刀を振り下ろす。
ズガァァァン!!
厚い隔壁に亀裂が走る。
しかし貫通しない。
ネリクマも手を触れる。
「壊す。」
strāgēs(破壊)。
ピシッ。
亀裂は広がる。
だが途中で止まった。
「……?」
ネリクマが珍しく驚く。
「壊れない。」
イレイダが振り返る。
「どうした。」
「構造が変わってる。」
その言葉にフランの姿が脳裏をよぎる。
だが違う。
これは外から構造を変えているのではない。
GENESISそのものが、自律的に隔壁を組み替えているのだ。
タジの声が通信から響く。
『地下全部の構造がリアルタイムで変化してる!』
『地図が役に立たない!』
『みんな迷うぞ!』
燕が唇を噛む。
「そんな……。」
その時。
隔壁の向こうから、オールドマンの声だけが静かに聞こえてきた。
「北条燕。」
燕が顔を上げる。
「あなたは強くなりました。」
「二度も姉を取り返した。」
「その執念だけは賞賛に値します。」
燕は怒りを抑えきれない。
「二度と私たちの前に現れないでください!」
数秒の沈黙。
そして。
「……いずれ、また会うことになります。」
「その時には。」
「あなた方も、この世界の真実へ近づいているでしょう。」
それだけ言い残し、気配は完全に消えた。
イレイダは刀を納めず、隔壁を睨み続ける。
「逃がしたか。」
悔しさを滲ませる声。
アリスが隣へ来る。
「追う?」
イレイダは首を横に振った。
「いや。」
「今は違う。」
結衣を見る。
燕を見る。
セツナを見る。
そして救助した能力者たちを見る。
「まず全員を生きて帰す。」
「それが先だ。」
燕は深く頷いた。
「はい。」
セツナもまだふらつきながら立ち上がる。
「燕。」
「帰ろう。」
「うん。」
燕は姉の手をしっかり握った。
今度は離さない。
二度と。
その誓いを胸に。
一方――
GENESIS中央制御区画
デウスは静かに目を閉じていた。
その背後ではレイと一仁の激突が続き、轟音が絶え間なく響いている。
しかしデウスの意識は、その戦いには向いていなかった。
「……始まったか。」
誰にも聞こえないほど小さな声。
その視線はGENESISではなく、さらに遠く。
誰にも知られていない場所へ向けられていた。
「ムメイ様。そして...覇者の集い。」
その名を静かに口にする。
「そろそろ、こちらも動く時だ。」
そして。
遥か彼方。
誰の目にも届かない空間で、一筋の光が静かに瞬いた。
まだ誰も知らない。
この戦いが、覇者の集いへと繋がっていくことを――。
第91話 完
GENESIS最深部から響く重低音は、一度きりでは終わらなかった。
鼓動のように。
まるで巨大な心臓が脈打つように、一定の間隔で施設全体を震わせる。
ドクン――。
ドクン――。
天井から細かな砂埃が舞い落ちる。
燕が思わず辺りを見回した。
「この音……。」
柚季も顔をしかめる。
「さっきまでこんなの鳴ってなかった。」
結衣は胸元を押さえる。
理由は分からない。
それでも、本能が警鐘を鳴らしていた。
「嫌な感じがする……。」
ネリクマも珍しく無表情のまま奥を見つめる。
「……いる。」
イレイダが振り返る。
「何がだ。」
ネリクマはゆっくり首を横へ振った。
「分からない。」
「でも。」
「すごく嫌。」
その一言で、この場にいる全員の空気が張り詰めた。
ネリクマがここまで警戒する相手は滅多にいない。
オールドマンはそんな彼らを見ながら、静かに目を閉じる。
「まだ、その時ではありません。」
「……?」
燕が眉をひそめる。
「何の話ですか。」
「あなた方が知る必要はありません。」
イレイダが刀を肩へ担ぎ直す。
「だったら黙って倒されろ。」
一歩踏み込もうとした、その時だった。
通信機から激しいノイズが流れる。
『――ザザッ……!』
『イレイダ!』
タジだった。
息を切らしながら叫んでいる。
『地下全部がヤバい!』
『崩壊速度が一気に上がった!』
『このままじゃGENESISそのものが沈む!』
イレイダは舌打ちする。
「どれくらい持つ。」
『正確には分からない!』
『でも長くはない!』
結衣の顔色が変わる。
「まだ救助できてない人もいるのに……。」
燕もセツナを見つめた。
今は姉を助けられた。
だが、他にも助けを待つ能力者がいる。
オールドマンは静かに後ろを向いた。
「目的は達しました。」
イレイダが目を細める。
「逃げる気か。」
「違います。」
「ここで戦う意味がなくなっただけです。」
「待て!」
イレイダが駆け出す。
Physical attacker。
爆発的な加速。
しかし、その瞬間。
ズズズズズズッ!!
巨大な隔壁が一斉に降下した。
ガァァァン!!
イレイダの目前で完全に閉鎖される。
「ちっ!」
すぐさま刀を振り下ろす。
ズガァァァン!!
厚い隔壁に亀裂が走る。
しかし貫通しない。
ネリクマも手を触れる。
「壊す。」
strāgēs(破壊)。
ピシッ。
亀裂は広がる。
だが途中で止まった。
「……?」
ネリクマが珍しく驚く。
「壊れない。」
イレイダが振り返る。
「どうした。」
「構造が変わってる。」
その言葉にフランの姿が脳裏をよぎる。
だが違う。
これは外から構造を変えているのではない。
GENESISそのものが、自律的に隔壁を組み替えているのだ。
タジの声が通信から響く。
『地下全部の構造がリアルタイムで変化してる!』
『地図が役に立たない!』
『みんな迷うぞ!』
燕が唇を噛む。
「そんな……。」
その時。
隔壁の向こうから、オールドマンの声だけが静かに聞こえてきた。
「北条燕。」
燕が顔を上げる。
「あなたは強くなりました。」
「二度も姉を取り返した。」
「その執念だけは賞賛に値します。」
燕は怒りを抑えきれない。
「二度と私たちの前に現れないでください!」
数秒の沈黙。
そして。
「……いずれ、また会うことになります。」
「その時には。」
「あなた方も、この世界の真実へ近づいているでしょう。」
それだけ言い残し、気配は完全に消えた。
イレイダは刀を納めず、隔壁を睨み続ける。
「逃がしたか。」
悔しさを滲ませる声。
アリスが隣へ来る。
「追う?」
イレイダは首を横に振った。
「いや。」
「今は違う。」
結衣を見る。
燕を見る。
セツナを見る。
そして救助した能力者たちを見る。
「まず全員を生きて帰す。」
「それが先だ。」
燕は深く頷いた。
「はい。」
セツナもまだふらつきながら立ち上がる。
「燕。」
「帰ろう。」
「うん。」
燕は姉の手をしっかり握った。
今度は離さない。
二度と。
その誓いを胸に。
一方――
GENESIS中央制御区画
デウスは静かに目を閉じていた。
その背後ではレイと一仁の激突が続き、轟音が絶え間なく響いている。
しかしデウスの意識は、その戦いには向いていなかった。
「……始まったか。」
誰にも聞こえないほど小さな声。
その視線はGENESISではなく、さらに遠く。
誰にも知られていない場所へ向けられていた。
「ムメイ様。そして...覇者の集い。」
その名を静かに口にする。
「そろそろ、こちらも動く時だ。」
そして。
遥か彼方。
誰の目にも届かない空間で、一筋の光が静かに瞬いた。
まだ誰も知らない。
この戦いが、覇者の集いへと繋がっていくことを――。
第91話 完
