Psycer Brain ─ 神に抗え。その力で運命を変えろ。

ドゴォォォォォン――――ッ!!

GENESIS全体を揺るがす轟音。
天井を支えていた鉄骨が悲鳴を上げ、大量のコンクリート片が降り注ぐ。
「きゃっ!」
結衣が咄嗟に避難していた能力者たちを庇う。
燕もセツナを抱き寄せ、落下する瓦礫から守った。
イレイダは崩れ落ちる天井を見上げ、小さく舌打ちする。
「……外も派手にやってるな。」
オールドマンだけは微動だにしない。
まるで、この崩壊すら計算の内だと言わんばかりだった。
「施設の限界です。」
「あなた方が暴れすぎました。」
イレイダは鼻で笑う。
「違うな。」
刀を肩へ担ぐ。
「お前らが好き勝手しすぎたツケだ。」
オールドマンは否定もしない。
肯定もしない。
ただ静かに右手を上げた。
その瞬間。
ガコン――。
通路奥の巨大隔壁がゆっくり開き始める。
全員がそちらを見る。
燕が息を呑んだ。
「まだ……?」
さらに防衛兵器が現れるのか。
そう思った次の瞬間。
中から姿を現したのは兵器ではなかった。
巨大な円柱状のカプセル。
その数は十。
二十。
いや、それ以上。
無数に並んでいる。
内部には人影。
能力者たちだった。
結衣の表情が変わる。
「まだ……こんなに……。」
ネリクマも黙ってカプセルを見つめる。
「閉じ込められてる。」
オールドマンが振り返る。
「能力とは、人類の進化。」
「そして進化には犠牲が必要です。」
「ふざけるな!」
燕が叫ぶ。
「姉さんだけじゃなかった……!」
「こんなにたくさん……!」
オールドマンは静かに答える。
「彼らは選ばれた存在です。」
「能力の可能性を最大限まで引き出す。」
「そのための礎。」
結衣が涙を浮かべる。
「そんなの……。」
「誰も望んでない……!」
その言葉を聞いたオールドマンは、ほんのわずかに視線を動かした。
「望む必要はありません。」
「結果だけが重要です。」
イレイダの殺気が一段階増した。
「……もういい。」
刀を握る音が響く。
「お前とは一生分かり合えねぇ。」
一歩踏み込む。
床が砕ける。
「だから。」
イレイダの姿が消えた。
超加速。
オールドマンの懐へ一瞬で入り込む。
「叩き斬る!」
ズバァァァン!!
横薙ぎ。
オールドマンは紙一重で避ける。
その瞬間。
イレイダの左拳。
ドゴォッ!!
腹部へ直撃――
したはずだった。
しかし。
「……!」
拳が止まる。
まるで見えない壁に阻まれたように。
イレイダが目を見開く。
「何……?」
オールドマンは拳を受け止めてもいない。
触れてすらいない。
それなのに。
攻撃だけが届かなかった。
「解析完了。」
静かな声。
次の瞬間。
ドンッ!!
衝撃。
イレイダの身体が真横へ吹き飛ぶ。
壁を三枚突き破り、ようやく止まる。
「イレイダッ!!」
アリスが叫ぶ。
柚季も青ざめる。
「今度も見えなかった……!」
イレイダは壁にもたれながら立ち上がる。
口元の血を拭う。
「……厄介だ。」
その瞳から闘志は消えていない。
むしろ強くなっている。
「面白ぇ。」
「本当に強ぇ奴だ。」
オールドマンは初めて僅かに目を細めた。
「あなたも。」
「十分、異常ですよ。」
「普通の能力者なら二度目で戦闘不能です。」
イレイダは笑う。
「私は普通じゃねぇ。」
「知ってる。」
そのやり取りを見ながら、燕はセツナの身体を支えていた。
セツナの呼吸はまだ乱れている。
「姉さん。」
「大丈夫?」
セツナは小さく頷く。
「……ごめん。」
「燕...また、心配かけたね。」
燕は首を振る。
「もう謝らないで。」
「帰ってからいっぱい話しましょう。」
セツナは涙ぐみながら微笑んだ。
「……うん。」
その穏やかな光景を見つめるオールドマン。
「興味深い。」
「制御装置を破壊しただけで、ここまで人格が戻るとは。」
燕が睨む。
「二度と姉さんに触らせません。」
「そうですか。」
オールドマンは淡々と答える。
「では。」
「もう一人、実験対象を増やしましょう。」
その瞬間。
彼の視線がゆっくりと結衣へ向く。
結衣は思わず身体を震わせた。
「……私?」
「Healer。」
「希少な能力です。」
「研究価値があります。」
燕が結衣の前へ立つ。
「結衣さんには指一本触れさせません!」
柚季も飛び出す。
「私たち全員いるんだから!」
アリスが右目に手を添える。
ネリクマも静かに前へ出る。
イレイダは刀を構え直した。
「だったら。」
「全員まとめて相手してやる。」
その瞬間。
オールドマンの口元が、初めてわずかに笑った。
「……ええ。」
「それを待っていました。」

次の瞬間。

GENESIS最深部から、今までとは明らかに異なる重低音が響き渡る。
ゴォォォォォォォン――。
空気が震える。
床が揺れる。
デウスがいる中央制御区画でさえ感じるほどの、異様な気配。
オールドマンはその方向を見て、小さく呟いた。
「予定より……少し早いですね。」
その一言に、イレイダは鋭く反応した。
「……何が始まる。」
オールドマンは答えない。

ただ静かに、GENESISのさらに奥を見つめていた。

第90話