赤い警告灯が絶え間なく明滅する。
《GENESIS DEFENSE SYSTEM RESTART》
無機質なアナウンスが何度も施設内へ響いた。
ガコン。
ガコン。
ガコン。
壁。
天井。
床。
至る所が開き、次々とAz防衛兵器が姿を現す。
二十。
三十。
五十――。
その数はなお増え続けていた。
柚季が思わず息を呑む。
「冗談でしょ……。」
結衣も青ざめる。
「こんな数……。」
だが。
イレイダだけは静かだった。
刀を肩へ担ぎ、ゆっくり前へ出る。
「燕。」
「はい。」
「姉さんを守れ。」
「……!」
「お前がここまで助けた命だ。」
燕はセツナを見つめる。
セツナもまだ完全には回復していない。
首元の制御装置は壊れたとはいえ、長期間の支配による負荷は大きい。
燕は強く頷いた。
「必ず。」
「任せました。」
イレイダは小さく笑う。
「それでいい。」
その横へアリスが並ぶ。
「私も前に出る。」
「無理するな。」
「誰に言ってるの?」
アリスは頬を膨らませた。
「あなた一人に戦わせるくらいなら、私も怒られる方を選ぶ。」
イレイダは苦笑する。
「相変わらずだな。」
「褒め言葉?」
「好きに取れ。」
ネリクマも無言で前へ出た。
「私も。」
イレイダが横目で見る。
「壊しすぎるなよ。」
「努力する。」
「信用できねぇ。」
「イレイダも。」
「……それはそう。」
その短いやり取りに、ほんの僅かだけ空気が和らぐ。
しかし。
オールドマンは一切表情を変えない。
「面白い。」
「死地にあっても笑う。」
「能力者とは実に興味深い。」
イレイダが刀を構える。
「研究者ってのは全員そうなのか?」
「違います。」
「では?」
「私は研究者ではありません。」
「研究を管理する者です。」
その返答に結衣が眉をひそめる。
「管理……?」
オールドマンはそれ以上答えない。
代わりに右手をゆっくりと上げた。
「排除しなさい。」
命令。
その瞬間だった。
ズドドドドドドドッ!!
無数の砲撃が一斉に放たれる。
「散れッ!!」
イレイダの怒声。
全員が左右へ飛び散る。
爆発。
爆発。
爆発。
通路が炎に包まれる。
燕はセツナを抱え、瓦礫の陰へ飛び込む。
結衣も能力者たちを庇いながら身を伏せた。
イレイダだけは違う。
真正面へ突っ込む。
「邪魔だッ!!」
Physical attacker (物理攻撃)
床が陥没するほどの踏み込み。
一瞬で先頭の防衛兵器へ肉薄する。
ズガァァァン!!
拳。
装甲が砕け散る。
続けて回し蹴り。
二機目が壁へ叩きつけられる。
さらに刀を抜く。
一閃。
三機まとめて真っ二つ。
「まだまだぁッ!!」
戦場の中央を一直線に駆け抜ける。
しかし。
ドガガガガガ!!
左右から集中砲火。
イレイダは跳ぶ。
天井を蹴る。
壁を蹴る。
常人ではあり得ない軌道で弾幕を潜り抜ける。
アリスが右目を開いた。
「止まれ!」
Space-time Operator
前方五機の動きが一瞬だけ停止する。
「イレイダ!」
「分かってる!」
停止した兵器の上へ飛び乗る。
空中で身体を回転。
刀を振り抜く。
「斬皇破断――」
蒼白い軌跡。
「カイザーインパルス!!」
ズガァァァァァァン!!
一直線。
五機まとめて両断。
衝撃波が通路を駆け抜ける。
爆炎。
瓦礫。
金属片。
それらを突き破ってネリクマが前へ出た。
「邪魔。」
strāgēs(破壊)
掌を軽く兵器へ触れる。
ピシッ――
小さな亀裂。
次の瞬間。
バギギギギギギギッ!!
内部から崩壊。
一体。
二体。
三体。
触れた兵器だけが音を立てて崩れていく。
柚季が思わず呟く。
「相変わらず反則……。」
ネリクマは首を傾げる。
「褒めてる?」
「褒めてない!」
その時。
オールドマンが初めて一歩踏み出した。
「破壊。」
「時空。」
「超身体能力。」
「興味深い能力ばかりですね。」
イレイダが睨む。
「だからどうした。」
「記録を更新しましょう。」
その瞬間。
オールドマンの姿が消えた。
「!!」
イレイダの本能が叫ぶ。
危険。
咄嗟に刀を横へ構える。
ガギィィィィン!!
凄まじい衝撃。
イレイダの身体が十数メートル吹き飛ぶ。
壁へ激突。
「イレイダ!!」
アリスが叫ぶ。
煙が晴れる。
イレイダは壁へ刀を突き立て、辛うじて止まっていた。
口元から血が流れる。
「……見えなかった。」
初めてだった。
イレイダが攻撃そのものを視認できなかったのは。
オールドマンは静かに立っている。
「反応は優秀です。」
「ですが。」
「まだ足りません。」
イレイダが血を拭う。
そして笑った。
「そうかよ。」
刀を握り直す。
瞳が鋭くなる。
「だったら。」
「見えるまで何度でもやるだけだ。」
その瞬間――。
遠く離れた中央制御区画から、これまで以上の巨大な爆発音がGENESIS全体を揺らした。
天井に亀裂が走る。
施設そのものが悲鳴を上げる。
オールドマンだけが、その振動にゆっくりと顔を上げた。
「……始まりましたか。」
その一言には、今までになかった僅かな意味深さが込められていた。
第89話 完
《GENESIS DEFENSE SYSTEM RESTART》
無機質なアナウンスが何度も施設内へ響いた。
ガコン。
ガコン。
ガコン。
壁。
天井。
床。
至る所が開き、次々とAz防衛兵器が姿を現す。
二十。
三十。
五十――。
その数はなお増え続けていた。
柚季が思わず息を呑む。
「冗談でしょ……。」
結衣も青ざめる。
「こんな数……。」
だが。
イレイダだけは静かだった。
刀を肩へ担ぎ、ゆっくり前へ出る。
「燕。」
「はい。」
「姉さんを守れ。」
「……!」
「お前がここまで助けた命だ。」
燕はセツナを見つめる。
セツナもまだ完全には回復していない。
首元の制御装置は壊れたとはいえ、長期間の支配による負荷は大きい。
燕は強く頷いた。
「必ず。」
「任せました。」
イレイダは小さく笑う。
「それでいい。」
その横へアリスが並ぶ。
「私も前に出る。」
「無理するな。」
「誰に言ってるの?」
アリスは頬を膨らませた。
「あなた一人に戦わせるくらいなら、私も怒られる方を選ぶ。」
イレイダは苦笑する。
「相変わらずだな。」
「褒め言葉?」
「好きに取れ。」
ネリクマも無言で前へ出た。
「私も。」
イレイダが横目で見る。
「壊しすぎるなよ。」
「努力する。」
「信用できねぇ。」
「イレイダも。」
「……それはそう。」
その短いやり取りに、ほんの僅かだけ空気が和らぐ。
しかし。
オールドマンは一切表情を変えない。
「面白い。」
「死地にあっても笑う。」
「能力者とは実に興味深い。」
イレイダが刀を構える。
「研究者ってのは全員そうなのか?」
「違います。」
「では?」
「私は研究者ではありません。」
「研究を管理する者です。」
その返答に結衣が眉をひそめる。
「管理……?」
オールドマンはそれ以上答えない。
代わりに右手をゆっくりと上げた。
「排除しなさい。」
命令。
その瞬間だった。
ズドドドドドドドッ!!
無数の砲撃が一斉に放たれる。
「散れッ!!」
イレイダの怒声。
全員が左右へ飛び散る。
爆発。
爆発。
爆発。
通路が炎に包まれる。
燕はセツナを抱え、瓦礫の陰へ飛び込む。
結衣も能力者たちを庇いながら身を伏せた。
イレイダだけは違う。
真正面へ突っ込む。
「邪魔だッ!!」
Physical attacker (物理攻撃)
床が陥没するほどの踏み込み。
一瞬で先頭の防衛兵器へ肉薄する。
ズガァァァン!!
拳。
装甲が砕け散る。
続けて回し蹴り。
二機目が壁へ叩きつけられる。
さらに刀を抜く。
一閃。
三機まとめて真っ二つ。
「まだまだぁッ!!」
戦場の中央を一直線に駆け抜ける。
しかし。
ドガガガガガ!!
左右から集中砲火。
イレイダは跳ぶ。
天井を蹴る。
壁を蹴る。
常人ではあり得ない軌道で弾幕を潜り抜ける。
アリスが右目を開いた。
「止まれ!」
Space-time Operator
前方五機の動きが一瞬だけ停止する。
「イレイダ!」
「分かってる!」
停止した兵器の上へ飛び乗る。
空中で身体を回転。
刀を振り抜く。
「斬皇破断――」
蒼白い軌跡。
「カイザーインパルス!!」
ズガァァァァァァン!!
一直線。
五機まとめて両断。
衝撃波が通路を駆け抜ける。
爆炎。
瓦礫。
金属片。
それらを突き破ってネリクマが前へ出た。
「邪魔。」
strāgēs(破壊)
掌を軽く兵器へ触れる。
ピシッ――
小さな亀裂。
次の瞬間。
バギギギギギギギッ!!
内部から崩壊。
一体。
二体。
三体。
触れた兵器だけが音を立てて崩れていく。
柚季が思わず呟く。
「相変わらず反則……。」
ネリクマは首を傾げる。
「褒めてる?」
「褒めてない!」
その時。
オールドマンが初めて一歩踏み出した。
「破壊。」
「時空。」
「超身体能力。」
「興味深い能力ばかりですね。」
イレイダが睨む。
「だからどうした。」
「記録を更新しましょう。」
その瞬間。
オールドマンの姿が消えた。
「!!」
イレイダの本能が叫ぶ。
危険。
咄嗟に刀を横へ構える。
ガギィィィィン!!
凄まじい衝撃。
イレイダの身体が十数メートル吹き飛ぶ。
壁へ激突。
「イレイダ!!」
アリスが叫ぶ。
煙が晴れる。
イレイダは壁へ刀を突き立て、辛うじて止まっていた。
口元から血が流れる。
「……見えなかった。」
初めてだった。
イレイダが攻撃そのものを視認できなかったのは。
オールドマンは静かに立っている。
「反応は優秀です。」
「ですが。」
「まだ足りません。」
イレイダが血を拭う。
そして笑った。
「そうかよ。」
刀を握り直す。
瞳が鋭くなる。
「だったら。」
「見えるまで何度でもやるだけだ。」
その瞬間――。
遠く離れた中央制御区画から、これまで以上の巨大な爆発音がGENESIS全体を揺らした。
天井に亀裂が走る。
施設そのものが悲鳴を上げる。
オールドマンだけが、その振動にゆっくりと顔を上げた。
「……始まりましたか。」
その一言には、今までになかった僅かな意味深さが込められていた。
第89話 完
