GENESIS・第七収容区画
崩壊を続ける施設の奥深く。
赤い警告灯だけが、薄暗い通路を一定の間隔で照らしていた。
壁の至る所には亀裂が走り、天井からは細かな瓦礫が絶えず落ち続ける。
遠くからは爆発音。
振動。
そして鉄骨が軋む音が鳴り響いている。
それでも、この場だけは妙な静寂に包まれていた。
その静寂を破ったのは――
「……見事です。」
オールドマンだった。
顔の見えない漆黒の男は、ゆっくりと燕たちへ向き直る。
その声に感情はない。
まるで実験結果を確認する研究者。
そのものだった。
燕は北条セツナを支えながら睨みつける。
「……何が見事なんですか。」
「あなたたちは人を何だと思っている。」
オールドマンは首を僅かに傾けた。
「能力者です。」
「違う!!」
燕の怒号が通路へ響く。
「人間です!!」
「姉さんは研究材料なんかじゃありません!」
オールドマンは少しだけ沈黙した。
「能力者は可能性です。」
「可能性?」
「ええ。」
「世界を変える可能性。」
「神へ届く可能性。」
燕の眉が動く。
「……神?」
オールドマンはそれ以上答えない。
「あなた方には理解できないでしょう。」
「理解なんてしたくもありません!」
燕が叫ぶ。
その横で柚季も拳を握った。
「燕の言う通りよ!」
「能力があるからって、人を好き勝手していい理由にはならない!」
オールドマンは柚季を見る。
「感情。」
「実に非効率です。」
その瞬間だった。
「黙れ。」
低い声。
イレイダだった。
通路の反対側。
崩れた壁を押し退けながら姿を現す。
肩には刀。
身体中には戦闘の傷。
息も荒い。
それでも目だけは全く死んでいなかった。
「イレイダさん!」
結衣も後ろから現れる。
そのさらに後ろにはアリス。
ネリクマ。
救助した能力者たちを安全な場所へ避難させた四人が、ようやく合流したのだ。
イレイダは燕を見る。
「間に合ったか?」
燕は涙を拭き、小さく頷いた。
「はい。」
「姉さんを……助けられました。」
イレイダはセツナを見る。
首元の制御装置は砕け散っている。
「よくやった。」
その一言だけだった。
だが燕は少しだけ笑った。
「ありがとうございます。」
オールドマンは全員を見渡した。
「興味深い。」
「これほど短時間で制御装置を破壊するとは。」
「予想外でした。」
イレイダが刀を肩へ乗せる。
「だったら予定変更だ。」
「ここでお前をぶっ飛ばす。」
オールドマンは動じない。
「できますか?」
「試してみろ。」
イレイダが踏み込む。
床が砕ける。
Physical attacker。
一瞬で距離を詰める。
居合い。
ズバァッ!!
鋭い斬撃が一直線に走る。
しかし。
「……。」
オールドマンは紙一重で避けた。
イレイダの目が細くなる。
「ほう。」
二撃目。
横薙ぎ。
三撃目。
回転斬り。
四撃目。
蹴り。
ドゴォッ!!
衝撃で壁が砕け散る。
だが。
当たらない。
全て避けられる。
「イレイダさんの攻撃を……。」
結衣が息を呑む。
ネリクマも珍しく驚いていた。
「速い。」
いや。
速いだけではない。
最小限の動きだけで避けている。
まるで攻撃が来ることを最初から知っているようだった。
イレイダも気付いていた。
(見えてる。)
(いや……。)
(読まれてる。)
その瞬間。
オールドマンが初めて右手を上げた。
「終わりです。」
何かが動く。
イレイダの本能が叫ぶ。
危険。
即座に飛び退く。
直後。
ズガァァァァァン!!
先ほどまでイレイダが立っていた床が消し飛んだ。
「……!」
煙が舞う。
誰も何が起きたのか分からない。
能力。
攻撃。
何一つ見えなかった。
イレイダが静かに構える。
「今の……。」
オールドマンは答えない。
代わりに言った。
「あなた方は優秀です。」
「だからこそ価値がある。」
「全員、生きたまま確保します。」
その言葉と同時に。
施設全体へ警報が鳴り響いた。
《EMERGENCY》
《GENESIS DEFENSE SYSTEM》
《RESTART》
タジの声が通信へ響く。
『イレイダ!』
『まずい!』
『中央制御室を停止させても地下の独立防衛システムが起動した!』
イレイダが通信機を押さえる。
「数は?」
『分からない!』
『反応が多すぎる!』
その瞬間。
通路の奥。
天井。
壁。
床。
あらゆる場所が開き始める。
ガコン。
ガコン。
ガコン。
赤い光。
無数の砲口。
そして――
数十体を超えるAz防衛兵器が姿を現した。
燕が息を呑む。
「こんな数……!」
イレイダが刀を握り直す。
「……いい。」
口元が僅かに笑う。
「まとめて来い。」
その殺気だけで、周囲の空気が一変した――。
第88話 完
崩壊を続ける施設の奥深く。
赤い警告灯だけが、薄暗い通路を一定の間隔で照らしていた。
壁の至る所には亀裂が走り、天井からは細かな瓦礫が絶えず落ち続ける。
遠くからは爆発音。
振動。
そして鉄骨が軋む音が鳴り響いている。
それでも、この場だけは妙な静寂に包まれていた。
その静寂を破ったのは――
「……見事です。」
オールドマンだった。
顔の見えない漆黒の男は、ゆっくりと燕たちへ向き直る。
その声に感情はない。
まるで実験結果を確認する研究者。
そのものだった。
燕は北条セツナを支えながら睨みつける。
「……何が見事なんですか。」
「あなたたちは人を何だと思っている。」
オールドマンは首を僅かに傾けた。
「能力者です。」
「違う!!」
燕の怒号が通路へ響く。
「人間です!!」
「姉さんは研究材料なんかじゃありません!」
オールドマンは少しだけ沈黙した。
「能力者は可能性です。」
「可能性?」
「ええ。」
「世界を変える可能性。」
「神へ届く可能性。」
燕の眉が動く。
「……神?」
オールドマンはそれ以上答えない。
「あなた方には理解できないでしょう。」
「理解なんてしたくもありません!」
燕が叫ぶ。
その横で柚季も拳を握った。
「燕の言う通りよ!」
「能力があるからって、人を好き勝手していい理由にはならない!」
オールドマンは柚季を見る。
「感情。」
「実に非効率です。」
その瞬間だった。
「黙れ。」
低い声。
イレイダだった。
通路の反対側。
崩れた壁を押し退けながら姿を現す。
肩には刀。
身体中には戦闘の傷。
息も荒い。
それでも目だけは全く死んでいなかった。
「イレイダさん!」
結衣も後ろから現れる。
そのさらに後ろにはアリス。
ネリクマ。
救助した能力者たちを安全な場所へ避難させた四人が、ようやく合流したのだ。
イレイダは燕を見る。
「間に合ったか?」
燕は涙を拭き、小さく頷いた。
「はい。」
「姉さんを……助けられました。」
イレイダはセツナを見る。
首元の制御装置は砕け散っている。
「よくやった。」
その一言だけだった。
だが燕は少しだけ笑った。
「ありがとうございます。」
オールドマンは全員を見渡した。
「興味深い。」
「これほど短時間で制御装置を破壊するとは。」
「予想外でした。」
イレイダが刀を肩へ乗せる。
「だったら予定変更だ。」
「ここでお前をぶっ飛ばす。」
オールドマンは動じない。
「できますか?」
「試してみろ。」
イレイダが踏み込む。
床が砕ける。
Physical attacker。
一瞬で距離を詰める。
居合い。
ズバァッ!!
鋭い斬撃が一直線に走る。
しかし。
「……。」
オールドマンは紙一重で避けた。
イレイダの目が細くなる。
「ほう。」
二撃目。
横薙ぎ。
三撃目。
回転斬り。
四撃目。
蹴り。
ドゴォッ!!
衝撃で壁が砕け散る。
だが。
当たらない。
全て避けられる。
「イレイダさんの攻撃を……。」
結衣が息を呑む。
ネリクマも珍しく驚いていた。
「速い。」
いや。
速いだけではない。
最小限の動きだけで避けている。
まるで攻撃が来ることを最初から知っているようだった。
イレイダも気付いていた。
(見えてる。)
(いや……。)
(読まれてる。)
その瞬間。
オールドマンが初めて右手を上げた。
「終わりです。」
何かが動く。
イレイダの本能が叫ぶ。
危険。
即座に飛び退く。
直後。
ズガァァァァァン!!
先ほどまでイレイダが立っていた床が消し飛んだ。
「……!」
煙が舞う。
誰も何が起きたのか分からない。
能力。
攻撃。
何一つ見えなかった。
イレイダが静かに構える。
「今の……。」
オールドマンは答えない。
代わりに言った。
「あなた方は優秀です。」
「だからこそ価値がある。」
「全員、生きたまま確保します。」
その言葉と同時に。
施設全体へ警報が鳴り響いた。
《EMERGENCY》
《GENESIS DEFENSE SYSTEM》
《RESTART》
タジの声が通信へ響く。
『イレイダ!』
『まずい!』
『中央制御室を停止させても地下の独立防衛システムが起動した!』
イレイダが通信機を押さえる。
「数は?」
『分からない!』
『反応が多すぎる!』
その瞬間。
通路の奥。
天井。
壁。
床。
あらゆる場所が開き始める。
ガコン。
ガコン。
ガコン。
赤い光。
無数の砲口。
そして――
数十体を超えるAz防衛兵器が姿を現した。
燕が息を呑む。
「こんな数……!」
イレイダが刀を握り直す。
「……いい。」
口元が僅かに笑う。
「まとめて来い。」
その殺気だけで、周囲の空気が一変した――。
第88話 完
