Psycer Brain ─ 神に抗え。その力で運命を変えろ。

GENESIS外郭

崩壊した地面の中央。

瓦礫を押し退け、一人の男が姿を現した。

一 仁 (にのまえ じん)。

――「ヴァルカマンの悪魔」。

その周囲では、触れてすらいない建造物が音を立てて崩れていく。

崩壊。

タジの端末に警告が連続表示される。

「能力反応、急上昇!」

千太が叫ぶ。

「全員離れろ!」

直後。

バキッ――

一仁の足元から亀裂が走った。

「来るぞ!」

ドゴゴゴゴゴゴゴ!!

大地が崩れる。

GENESIS外壁が砕け、巨大な構造物が次々と落下する。

「うわっ!」

ソウヤが飛び退く。

マリア、鬱星、マダラ、バスティーユも散開。

だが一仁は追わない。

ただ――

ソウヤだけを見ていた。

「……。」

ソウヤも一を睨む。

「なんだよ。」

「さっきから俺ばっか見やがって。」

一仁が初めて口を開いた。

「お前……。」

一歩。

周囲の地面が崩れる。

「何者だ。」

「こっちの台詞だ!」

ソウヤが構える。

その内側。

レイは妙に静かだった。

(レイ?)

「……。」

(どうした。)

「気を抜くな。」

それだけだった。



一仁 VS ソウヤ

一仁が右手を上げる。

瞬間。

千太が叫ぶ。

「ソウヤ、右だ!」

「!」

右へ跳ぶ。

直後――

先ほどまで立っていた地面が崩壊した。

ズガァァァン!!

「触ってねぇぞ……!」

一仁が再び手を向ける。

千太のForesighter(先見の明)が未来を捉える。

「三歩後ろ!」

ソウヤが下がる。

バキバキバキッ!!

前方が崩れる。

「左!」

回避。

「跳べ!」

跳躍。

足元消失。

一仁の崩壊が連続してソウヤを追う。

千太が未来を読み――

ソウヤがその僅かな隙間を走る。

「そこだ!」

ソウヤが一気に懐へ入った。

拳。

だが――

一仁がソウヤを見る。

「遅い。」

崩壊。

「ソウヤ!!」

ソウヤの足元が消えた。

身体が落ちる。

その瞬間。

「捕まれ!」

バスティーユが腕を伸ばす。

ソウヤの手首を掴んだ。

「っ……!」

「上がれ!」

強引に引き上げる。

ソウヤが着地。

「助かった!」

「礼は後だ!」

デウス

その戦いを――

デウスは動かず見ていた。

マランが睨む。

「お前、止めないのか。」

「必要ない。」

「一仁の崩壊が広がれば、ここにいる全員が巻き込まれるぞ。」

「ならば防げ。」

マランの目が鋭くなる。

「……何っ!?」

デウスがマランを見る。

「お前なら可能だろう。」



excidium(壊滅)。



全能力者の中でも超越するレベルとされる力。

しかしマランは発動しない。

「俺の能力を軽々しく使わせるな。」

「ほう。」

「ここで解放すればどうなるか……お前なら分かってるはずだ。」

デウスの表情が僅かに変わった。

「だからこそだ。」

その横。

ネリクマが二人を見る。

デウスはネリクマへ視線を移した。

「練熊レン。」

「……ネリクマでいい。」

「相変わらずか。」

「その名前で呼ばないで。」

ソウヤが戦いながら、その会話を聞いていた。

(デウスはネリクマのことまで昔から知ってる……?)

疑問は増える。

だが――

答えを聞く余裕はなかった。



GENESIS内部・別ルート

その頃。

崩壊によって開いた別通路を進む三人がいた。

逢坂柚季。

醒ヶ井小雨。

そして――

北条燕。

「外、すごい音だけど……。」

柚季が天井を見る。

燕は足を止めない。

「今は進みましょう。」

小雨が眼帯を押さえながら呟く。

「……帰りたい。」

「ここまで来てそれ言う?」

「ずっと言ってる。」

柚季が呆れる。

だが。

燕だけは会話に入らなかった。

先ほどから胸騒ぎがする。

「燕?」

「……何でもありません。」

その瞬間。

施設内放送。

《ABILITY SUBJECT RELEASE》

三人が止まった。

さらに。

ガコン。

通路の照明が赤へ変わる。

燕の表情が険しくなる。

「何か来ます。」

再会

通路奥。

巨大な隔壁。

その向こうから――

足音。

コツ。

コツ。

コツ。

柚季が身構える。

「小雨。」

「うん。」

小雨が眼帯へ手をかける。

燕も前へ。

だが。

隔壁が開いた瞬間――

彼女だけが動きを止めた。

「……え?」

一人の女性。

長い収容生活を思わせる姿。

腕にはAzの拘束装置。

首元にも制御機器。

そして――

燕とよく似た面影。

燕の瞳が大きく開く。

「……姉さん?」

柚季が燕を見る。

「え?」

女性が顔を上げる。

北条セツナ。

燕の実姉。

一度――

助け出したはずの姉。

「どうして……。」

燕の声が震える。

「どうしてここにいるんですか……?」

セツナは答えない。

「姉さん……!」

燕が駆け寄ろうとする。

「待って!」

柚季が腕を掴んだ。

「様子がおかしい!」

「離してください!」

「燕さん!」

「姉さんは一度助けたんです!」

燕が柚季を振りほどこうとする。

「あの時、確かに――!」

声が詰まる。

「確かに戻ってきたんです……!」

だからこそ。

理解できない。

なぜ再びAzにいる。

なぜ拘束されている。

なぜ――

こちらを見ても何も反応しない。

「姉さん……?」

セツナの瞳が燕を捉えた。

そして。

無表情のまま口を開いた。

「――止まりなさい。」

燕の身体が止まった。

「……!」

「燕!?」

動かない。

いや――

動けない。

タジもいない。

解析する者もいない。

だが燕には分かった。

姉の能力。

支配。

「姉……さん……。」

セツナが歩いてくる。

「それ以上、近づかないで。」

燕の身体は命令に従ったまま。

柚季が前へ出る。

「セツナさん!」

反応なし。

「燕のこと分からないの!?」

セツナが柚季を見る。

「黙りなさい。」

「っ……!」

柚季の口が強制的に閉じる。

「……!」

小雨が眼帯へ手をかける。

セツナが即座に視線を向けた。

「その眼帯を外さないで。」

小雨の手が――止まった。

三人とも動けない。

燕の顔から血の気が引く。

「……Az。」

「姉さんに……何をしたんですか……。」



Az・監視区画

その様子を、複数のモニターが映していた。

無人の制御室。

画面には――

SUBJECT:HOJO SETSUNA

その下。

過去の記録。

《第一次収容》

《対象消失》

《救出確認》

そして――

新しい記録。

《第二次収容》

《再確保完了》

《能力再調整》

燕の認識は間違っていなかった。

セツナは確かに一度救出されていた。

その後――

Azは再び彼女を攫った。

そして今。

彼女は再び能力研究の対象としてGENESISへ戻されていた。

北条姉妹

「姉さん。」

燕は動けない身体で、それでも声を絞り出す。

「覚えていないんですか。」

セツナが止まる。

「私です。」

「燕です。」

「……。」

「一度買ってきたじゃないですか。」

セツナの瞳が僅かに揺れた。

「姉さん……。」

「私たち――」

その瞬間。

セツナが頭を押さえた。

「……っ!」

「姉さん!?」

「……燕……?」

ほんの一瞬。

確かに――

名前を呼んだ。

燕の目が見開かれる。

「姉さん!!」

しかし。

首元のAz制御装置が発光。

バチッ!!

「うっ……!」

セツナの瞳から感情が消える。

再び無表情。

「対象を排除します。」

「待って!」

燕は叫ぶ。

「姉さん!!」



ハルシオン

同時刻。

フランが目を細める。

ハルシオン内部の構造を通じ、戦場全体を把握している。

「……地下で動きがある。」

ベルトが振り返る。

「GENESIS?」

「ああ。」

フランが手を上げる。



structūra imperium(構造物制御)。



「地下施設も構造物だ。」

ベルトの表情が変わる。

「まさか――」

フランが遠く離れたGENESISを見る。

「私の支配範囲へ入れば――」

指を僅かに曲げる。

GENESIS内部。

燕たちのいる通路の壁が――

ギギギ……

僅かに動いた。

セツナが振り返る。

燕も驚く。

「壁が……?」

フランの声。

「ハルシオンだけが私の武器だと思うな。」



一仁

外では戦闘が激化していた。

「千太!」

「四秒後、正面が崩れる!」

ソウヤが走る。

一仁が追う。

「どうして避けられる。」

「こっちには未来が見える奴がいるんでな!」

だが――

千太の表情が変わる。

「ソウヤ!」

未来。

一仁の攻撃ではない。

別方向。

グラン。

間宮。



そして――



Compulsory executor。



グランが間宮を見下ろしている。

「終わりだ。」

間宮が笑う。

「では――最後の研究といきましょう。」

何かを起動する。

GENESIS。

一仁。

セツナ。

その目的とは。



グランVS間宮

間宮の手に握られた起動装置。

グランはそれを見る。

「何をした。」

「それは言えません。」

間宮が笑う。

「能力者は――」

「研究すればするほど面白い。」

グランの表情が完全に消えた。

「……そうか。」

Compulsory executorが発動する。

間宮が笑みを浮かべたまま問いかける。

「また能力を使いますか?」

グランの頭には既に反動が蓄積している。

精神。

記憶。

自己知性。

それでも――

グランは躊躇しなかった。

対象。

間宮トオル。

宣言。

「――お前は、もう何も起動するな。」

「……!」

間宮の指が停止する。

起動装置を押そうとしても――

押せない。

グランがゆっくり近づく。



「研究は終わりだ。」



同時に。

北条セツナの首元の装置へ、新たな命令が送られた。

《ORDER:HOJO TSUBAME――CAPTURE》

セツナの目が開く。

「……。」

燕が姉を見る。

「姉さん。」

セツナが静かに手を伸ばす。

「燕。」

その声だけは――

昔の姉と同じだった。

「一緒に来て。」

燕の瞳が揺れる。

そして。

その直後。

支配が発動した。

燕の足が――

自分の意思に反して、

姉の方へ一歩進んだ。

「……っ!」

柚季が叫ぼうとする。

しかし声を封じられている。

小雨も眼帯へ触れることすらできない。

もう一歩。

燕が進む。

「姉……さん……。」

涙が頬を伝う。

「今度は――」

「私が姉さんを助けます!」

その言葉を聞いた瞬間。



セツナの瞳が――

再び、ほんの僅かに揺れた。



第85話 完