GENESIS・中央制御室
黒点が動いている。
世界地図上に残された、たった一つの異常反応。
それはゆっくりと――確実に東京湾へ近づいていた。
「……化け物が、こっちに来る。」
未来を見た千太の声には、いつもの余裕がない。
マリアが千太を見る。
「何が見えたの?」
「分からない。」
「分からない?」
「ああ。」
千太は額を押さえた。
Foresighter(先見の明)。
一年先までの事象を見抜く能力。
その千太が――見えない。
「姿を見ようとすると未来が潰れる。」
マダラが眉を寄せる。
「どういう意味だ。」
「未来がないんじゃない。」
千太の瞳が震える。
「多すぎるんだ。」
数千。
数万。
数え切れない未来が一瞬で発生し――
次の瞬間には消滅する。
そして最後には必ず、
一つの結末へ収束する。
千太がデウスを見る。
「……あんた、知ってるだろ。」
覇者の使徒。
デウス。
デウスは黒点を見つめたまま答えない。
ソウヤが一歩前へ出た。
「デウス。」
今は人格転移が解除され、ソウヤ自身が身体の主導権を取り戻している。
「説明してくれ。」
「お前は何を知ってる。」
沈黙。
やがてデウスが口を開いた。
「知る必要はない。」
「は?」
「今のお前ではな。」
ソウヤの拳が強く握られる。
(レイ。)
「……。」
(こいつ、ムカつく。)
「奇遇だな。」
(お前もかよ。)
「昔からそういう男だ。」
ソウヤが止まった。
(……昔から?)
レイは――それ以上答えなかった。
NWO
突然。
ズズズズズ……!
中央制御室が揺れる。
タジが端末を見る。
「また防衛システムです!」
壁面が開く。
今度は機械兵ではない。
無数の小型端末が空中へ展開される。
マリアが身構える。
「何、あれ。」
「GENESISの自律修復装置です!」
破壊された中央システムが――
自分自身を修復し始めている。
切断された配線が接続。
破壊された制御盤が再起動。
「まずい!」
タジが叫ぶ。
「また外部への信号が復活します!」
マダラが飛び出そうとする。
だが――
「待って。」
マリアが前へ出た。
千太が見る。
「マリア?」
「壊す必要はありません。」
マリアが床へ手を触れる。
「壊れているのなら――」
能力が発動する。
Complete repaire(完全修復)。
「私の領分。」
完全修復
光が床を走る。
しかしマリアが修復するのはGENESISそのものではない。
「タジ!」
「はい!?」
「さっき切断した外部回線、どれ!?」
タジが即座に指差す。
「中央から右!黒いケーブル群です!」
「はい!」
マリアの能力が広がる。
Azの自律修復装置より先に――
タジたちが破壊した状態を基準として、周辺構造を完全な状態へ組み直していく。
ただ直すのではない。
「外部回線を外した状態で――」
配線。
端子。
制御装置。
「中央制御系だけを完成させる!」
ガコン!!
GENESIS内部制御だけが復旧。
一方で外部への通信経路は物理的に隔離されたまま固定される。
タジが目を見開く。
「すげぇ……!」
マリアが立ち上がる。
「これで?」
タジが確認。
「外部信号……停止!」
マリアが笑う。
「良かった。」
千太も笑う。
「さすが。」
「もっと褒めてもらってもいいのですよ。」
「あとでな。」
自己犠牲爆弾
だが。
天井が大きく膨らんだ。
「上!!」
千太が叫ぶ。
ズガァァァン!!
巨大な防衛機が落下する。
先ほどまでの機体とは明らかに違う。
重装甲。
中央制御室そのものを破壊し、侵入者ごと消し飛ばすための機体。
タジが青ざめる。
「自爆型……!」
機体中央に高エネルギー反応。
「ここで爆発したら全員終わります!」
バスティーユが前へ出る。
「止める!」
だが。
その肩を鬱星が掴んだ。
「私が行く。」
「鬱星?」
鬱星は静かに巨大機を見る。
Self-sacrificing bomber(自己犠牲爆弾)。
千太の表情が変わる。
「待て。」
「千太。」
「その能力は――」
「分かっている。」
鬱星が一歩進む。
千太が未来を見る。
爆発。
炎。
崩壊。
その中心――
鬱星。
「やめろ!」
千太が腕を掴む。
「別の方法を探す!」
鬱星は千太を見る。
「未来は?」
「……。」
「私が行かなかった未来は?」
千太が答えない。
それが答えだった。
鬱星が腕を振りほどく。
「なら決まりだ。」
しかし――
「勝手に決めるな。」
低い声。
マダラだった。
鬱星が振り返る。
「マダラ。」
「NWOは個人の自殺を認めるために集まった組織じゃない。」
「しかし――」
「方法は一つとは限らない。」
バスティーユが巨大機を見る。
「だったら俺も混ぜろ。」
NWOの切り札
バスティーユが前へ出る。
本名――
バーディウス・セントラル・バスティーユ。
NWOの切り札。
「鬱星。」
「爆発させるなら、俺が中心を作る。」
鬱星が目を細める。
「……できるのか?」
「誰に聞いてんだ。」
バスティーユが胸へ拳を当てる。
systema centrale(自己中枢)。
空気が変わった。
ソウヤが振り返る。
「何だ……?」
タジも端末を見る。
「エネルギー反応が……バスティーユさんに集中してる?」
バスティーユを中心として、戦場そのものの流れが変化する。
巨大防衛機。
その自己エネルギー。
周囲の機構。
すべての中心点を――
自分へ引き寄せる。
「鬱星!」
「分かった。」
鬱星が走る。
巨大機へ接近。
「千太!」
「三秒後、装甲が開く!」
二秒。
一秒。
ガシュン!!
冷却のため胸部装甲が展開。
「今!」
鬱星が飛び込む。
掌を内部へ。
Self-sacrificing bomber。
爆発。
だが――
無差別ではない。
バスティーユが形成した中枢へ爆発の力が集中する。
ドッ――!!
一瞬。
巨大機の内部だけが白く光った。
次の瞬間。
ズガァァァァァン!!!
装甲が内側から吹き飛ぶ。
巨大機が停止。
鬱星が爆風で投げ出される。
「鬱星!」
マダラが飛び込み、受け止めた。
「……無茶をする。」
鬱星が薄く笑う。
「お互い様。」
NWO。
千太だけではない。
マリア。
鬱星。
マダラ。
バスティーユ。
それぞれが――
自分の能力で戦っている。
ハルシオン
東京湾上空。
戦艦ハルシオンの周囲には、無数のAz兵器の残骸が漂っていた。
艦橋。
フランが静かに立っている。
胸には先ほど受けた傷。
それでも倒れない。
ベルトが報告する。
「敵部隊、七割以上壊滅。」
「しかし――」
フランが先に答える。
「来るな。」
ベルトが顔を上げる。
レーダー。
遥か遠方。
巨大な反応。
「何だ……これは。」
フランの視線が鋭くなる。
「全艦、陣形変更。」
「ハルシオンを中心に防御陣形。」
ベルトが驚く。
「防御?」
これまで攻撃を続けていたフランが――守りを選んだ。
「艦長、敵の正体は?」
「知らん。」
「ならどうして――」
「嫌な予感がする。」
フランが右手を上げる。
structūra imperium(構造物制御)。
ハルシオン。
周辺艦艇。
砲塔。
装甲。
推進機構。
全てが一斉に動く。
巨大艦隊が一つの生命体のように陣形を変える。
「ベルト。」
「はい。」
「全員に伝えろ。」
フランの表情から余裕が消える。
「これより――」
「ハルシオンは最大戦闘態勢に移行する。」
グランVS間宮トオル
海上。
間宮は膝をついたまま動けない。
グランが宣言した命令。
Compulsory executor(強制執行)。
――跪け。
その宣言が撤回されない限り、間宮は立ち上がれない。
間宮は苦しそうに笑った。
「恐ろしい能力ですね……。」
グランが歩いてくる。
「知っていたはずだ。」
「ええ。」
「だからこそ興味深い。」
間宮が能力を解析する。
宣言。
対象指定。
継続。
そして反動。
「あなたが命令を重ねるほど――」
「あなた自身が壊れていく。」
グランが止まる。
「それがどうした。」
「なら試しましょう。」
間宮が指を動かす。
海中から大量のAz兵器が浮上する。
一体。
十体。
五十体。
グランを包囲。
マランが遠方から気づく。
「グラン!」
ペインも振り返る。
「おいおい、増えすぎじゃね?」
グランは周囲を見る。
五十体。
間宮が笑う。
「個別に倒しますか?」
「それとも――」
「能力を使いますか?」
グランの赤い片目が細くなる。
「くだらん。」
能力発動。
空気が重くなる。
対象――
Az兵器五十体。
グランが宣言した。
「――停止しろ。」
瞬間。
ガクン!!
五十体全ての動きが止まった。
砲撃も。
飛行も。
照準も。
完全停止。
間宮の笑みが消える。
「……集団指定。」
グランがさらに口を開こうとする。
だが。
ズキン!!
「……っ。」
頭部へ激痛。
視界が二重になる。
誰かの声。
過去の記憶。
両親。
拒絶。
憎悪。
そして――
自分が誰なのか、一瞬だけ曖昧になる。
「グラン!」
マランが駆け寄ろうとする。
グランが手で制した。
「来るな。」
「でも――」
「命令だ。」
マランが止まる。
グランは間宮を睨む。
まだ正気を保っている。
しかし確実に――
Compulsory executorはグラン自身を蝕んでいた。
間宮が呟く。
「いつまで正気でいられますかね。」
グランの表情が消える。
「試すか?」
間宮の顔から笑みが消えた。
収容区画
「次!」
結衣が叫ぶ。
解放された能力者たちが次々と運び出される。
結衣は負傷者へ手を当てる。
Healer(回復)。
傷が塞がっていく。
だが同時に――
結衣自身の呼吸が荒くなる。
「はぁ……はぁ……。」
アリスが気づく。
「結衣、休んで!」
「でめ、まだこんなに。」
「しかし 体力が!」
「まだ助けられる人がいるから。」
その横。
イレイダが刀を杖代わりにして立っていた。
身体内部には、カイザーインパルスの反動が残っている。
ネリクマが見る。
「イレイダも休んだ方がいい。」
「お前まで言うな。」
「身体、痛いでしょ。」
「……。」
「図星。」
「うるせぇ。」
その時。
ネリクマの表情が変わった。
「……?」
遠くを見る。
「どうした?」
イレイダが尋ねる。
「分からない。」
ネリクマが胸元を押さえる。
「なんか……嫌な予感がする。」
そして。
同じ瞬間――
マラン
マランも胸を押さえた。
「……。」
ペインが見る。
「マラン?」
返事がない。
マランは遠方を見ている。
何かを感じている。
ネリクマとマラン。
二人だけが――
同時に同じ方向を見た。
まだ誰も知らない。
二人の間にある関係も。
そしてデウスが二人に怒りを抱いている理由も。
GENESIS・デウス
「……来たか。」
デウスが呟く。
ソウヤが振り返る。
「何がだよ!」
デウスは黒点を見る。
反応が急加速している。
東京湾まで――
もう遠くない。
千太が再び未来を見る。
「っ……!」
今度は見えた。
黒い空。
海上。
グラン。
ハルシオン。
マラン。
ネリクマ。
そして――
デウス。
だが。
その未来にソウヤはいない。
「……え?」
千太が未来を探す。
ない。
別の未来。
ない。
さらに先。
「ソウヤ……。」
「どうした?」
千太が青ざめる。
「お前が――」
その瞬間。
デウスが千太を見る。
「それ以上見るな。」
「……!」
「死ぬぞ。」
千太の先見が強制的に途切れた。
「何しやがった!」
ソウヤがデウスへ向く。
デウスは静かに答える。
「救っただけだ。」
「千太は見てはいけない領域へ踏み込もうとした。」
「見てはいけない領域?」
デウスがソウヤへ歩く。
そして――
初めて真正面からソウヤ本人を見る。
「一之瀬ソウヤ。」
「お前はまだ知らない。」
「君の中に何がいるのか。」
ソウヤの瞳が揺れる。
レイが叫ぶ。
「デウス!」
デウスが止まる。
「安心しろ。」
「まだ言わん。」
レイの殺気が消えない。
デウスは小さく笑った。
「だが――」
「時間は来る。」
世界結論
突然。
ドォォォォォォン!!!!
GENESIS全体が激震。
タジが叫ぶ。
「黒点が消えました!」
「何!?」
「違う!」
タジが画面を拡大。
「反応が消えたんじゃない!」
「観測範囲から――」
その瞬間。
東京湾上空。
空間そのものが歪んだ。
ハルシオン艦橋。
警報。
ベルトが叫ぶ。
「艦長!!」
フランが空を見る。
グランも。
間宮も。
マランも。
ペインも。
イレイダも。
ネリクマも。
全員が――
同じ空を見上げた。
そしてデウスだけが静かに目を閉じる。
「仕方ない。」
ソウヤが見る。
「デウス?」
「まだここで終わらせるわけにはいかん。」
デウスが一歩前へ出る。
空気が変わる。
レイが反応した。
「……!」
初めて。
デウスが能力を発動する。
Conclusion the world order――世界結論。
千太が息を呑む。
世界が――静かになる。
風が止まる。
波が止まる。
落下していた瓦礫すら空中で停止。
アリスの時間停止とは違う。
時間を止めたのではない。
世界そのものが、デウスの言葉を待っている。
デウスが空を見上げる。
そして告げた。
「――まだ、ここへ来るな。」
瞬間。
ズン――!!
空間を歪ませていた巨大な反応が――
消えた。
フランが目を見開く。
間宮の表情も凍る。
グランすら無言で空を見ていた。
千太は震えている。
「……嘘だろ。」
世界規模の異常を――
たった一言で退けた。
ソウヤがデウスを見る。
「これが……。」
レイが静かに答える。
「そうだ。」
「これが――デウスだ。」
デウスは振り返る。
しかし。
その視線はソウヤではない。
マラン。
そして――
ネリクマ。
遠く離れた二人を見ているかのように。
「だが。」
デウスの目から温度が消えた。
「その前に――」
「片付けなければならない問題がある。」
収容区画。
ネリクマが突然、身体を強張らせる。
「……。」
イレイダが気づく。
「ネリクマ?」
同時刻。
東京湾。
マランも顔を上げる。
二人の脳裏へ――
同じ声が響いた。
『マラン。』
『練熊レン。』
二人の表情が変わる。
デウスが静かに告げた。
「――話がある。」
レイだけが、その言葉の意味を理解したように目を細める。
そしてソウヤはまだ知らない。
マランとネリクマ。
この二人の関係が――
これからの未来そのものを大きく変えることを。
第84話 完
黒点が動いている。
世界地図上に残された、たった一つの異常反応。
それはゆっくりと――確実に東京湾へ近づいていた。
「……化け物が、こっちに来る。」
未来を見た千太の声には、いつもの余裕がない。
マリアが千太を見る。
「何が見えたの?」
「分からない。」
「分からない?」
「ああ。」
千太は額を押さえた。
Foresighter(先見の明)。
一年先までの事象を見抜く能力。
その千太が――見えない。
「姿を見ようとすると未来が潰れる。」
マダラが眉を寄せる。
「どういう意味だ。」
「未来がないんじゃない。」
千太の瞳が震える。
「多すぎるんだ。」
数千。
数万。
数え切れない未来が一瞬で発生し――
次の瞬間には消滅する。
そして最後には必ず、
一つの結末へ収束する。
千太がデウスを見る。
「……あんた、知ってるだろ。」
覇者の使徒。
デウス。
デウスは黒点を見つめたまま答えない。
ソウヤが一歩前へ出た。
「デウス。」
今は人格転移が解除され、ソウヤ自身が身体の主導権を取り戻している。
「説明してくれ。」
「お前は何を知ってる。」
沈黙。
やがてデウスが口を開いた。
「知る必要はない。」
「は?」
「今のお前ではな。」
ソウヤの拳が強く握られる。
(レイ。)
「……。」
(こいつ、ムカつく。)
「奇遇だな。」
(お前もかよ。)
「昔からそういう男だ。」
ソウヤが止まった。
(……昔から?)
レイは――それ以上答えなかった。
NWO
突然。
ズズズズズ……!
中央制御室が揺れる。
タジが端末を見る。
「また防衛システムです!」
壁面が開く。
今度は機械兵ではない。
無数の小型端末が空中へ展開される。
マリアが身構える。
「何、あれ。」
「GENESISの自律修復装置です!」
破壊された中央システムが――
自分自身を修復し始めている。
切断された配線が接続。
破壊された制御盤が再起動。
「まずい!」
タジが叫ぶ。
「また外部への信号が復活します!」
マダラが飛び出そうとする。
だが――
「待って。」
マリアが前へ出た。
千太が見る。
「マリア?」
「壊す必要はありません。」
マリアが床へ手を触れる。
「壊れているのなら――」
能力が発動する。
Complete repaire(完全修復)。
「私の領分。」
完全修復
光が床を走る。
しかしマリアが修復するのはGENESISそのものではない。
「タジ!」
「はい!?」
「さっき切断した外部回線、どれ!?」
タジが即座に指差す。
「中央から右!黒いケーブル群です!」
「はい!」
マリアの能力が広がる。
Azの自律修復装置より先に――
タジたちが破壊した状態を基準として、周辺構造を完全な状態へ組み直していく。
ただ直すのではない。
「外部回線を外した状態で――」
配線。
端子。
制御装置。
「中央制御系だけを完成させる!」
ガコン!!
GENESIS内部制御だけが復旧。
一方で外部への通信経路は物理的に隔離されたまま固定される。
タジが目を見開く。
「すげぇ……!」
マリアが立ち上がる。
「これで?」
タジが確認。
「外部信号……停止!」
マリアが笑う。
「良かった。」
千太も笑う。
「さすが。」
「もっと褒めてもらってもいいのですよ。」
「あとでな。」
自己犠牲爆弾
だが。
天井が大きく膨らんだ。
「上!!」
千太が叫ぶ。
ズガァァァン!!
巨大な防衛機が落下する。
先ほどまでの機体とは明らかに違う。
重装甲。
中央制御室そのものを破壊し、侵入者ごと消し飛ばすための機体。
タジが青ざめる。
「自爆型……!」
機体中央に高エネルギー反応。
「ここで爆発したら全員終わります!」
バスティーユが前へ出る。
「止める!」
だが。
その肩を鬱星が掴んだ。
「私が行く。」
「鬱星?」
鬱星は静かに巨大機を見る。
Self-sacrificing bomber(自己犠牲爆弾)。
千太の表情が変わる。
「待て。」
「千太。」
「その能力は――」
「分かっている。」
鬱星が一歩進む。
千太が未来を見る。
爆発。
炎。
崩壊。
その中心――
鬱星。
「やめろ!」
千太が腕を掴む。
「別の方法を探す!」
鬱星は千太を見る。
「未来は?」
「……。」
「私が行かなかった未来は?」
千太が答えない。
それが答えだった。
鬱星が腕を振りほどく。
「なら決まりだ。」
しかし――
「勝手に決めるな。」
低い声。
マダラだった。
鬱星が振り返る。
「マダラ。」
「NWOは個人の自殺を認めるために集まった組織じゃない。」
「しかし――」
「方法は一つとは限らない。」
バスティーユが巨大機を見る。
「だったら俺も混ぜろ。」
NWOの切り札
バスティーユが前へ出る。
本名――
バーディウス・セントラル・バスティーユ。
NWOの切り札。
「鬱星。」
「爆発させるなら、俺が中心を作る。」
鬱星が目を細める。
「……できるのか?」
「誰に聞いてんだ。」
バスティーユが胸へ拳を当てる。
systema centrale(自己中枢)。
空気が変わった。
ソウヤが振り返る。
「何だ……?」
タジも端末を見る。
「エネルギー反応が……バスティーユさんに集中してる?」
バスティーユを中心として、戦場そのものの流れが変化する。
巨大防衛機。
その自己エネルギー。
周囲の機構。
すべての中心点を――
自分へ引き寄せる。
「鬱星!」
「分かった。」
鬱星が走る。
巨大機へ接近。
「千太!」
「三秒後、装甲が開く!」
二秒。
一秒。
ガシュン!!
冷却のため胸部装甲が展開。
「今!」
鬱星が飛び込む。
掌を内部へ。
Self-sacrificing bomber。
爆発。
だが――
無差別ではない。
バスティーユが形成した中枢へ爆発の力が集中する。
ドッ――!!
一瞬。
巨大機の内部だけが白く光った。
次の瞬間。
ズガァァァァァン!!!
装甲が内側から吹き飛ぶ。
巨大機が停止。
鬱星が爆風で投げ出される。
「鬱星!」
マダラが飛び込み、受け止めた。
「……無茶をする。」
鬱星が薄く笑う。
「お互い様。」
NWO。
千太だけではない。
マリア。
鬱星。
マダラ。
バスティーユ。
それぞれが――
自分の能力で戦っている。
ハルシオン
東京湾上空。
戦艦ハルシオンの周囲には、無数のAz兵器の残骸が漂っていた。
艦橋。
フランが静かに立っている。
胸には先ほど受けた傷。
それでも倒れない。
ベルトが報告する。
「敵部隊、七割以上壊滅。」
「しかし――」
フランが先に答える。
「来るな。」
ベルトが顔を上げる。
レーダー。
遥か遠方。
巨大な反応。
「何だ……これは。」
フランの視線が鋭くなる。
「全艦、陣形変更。」
「ハルシオンを中心に防御陣形。」
ベルトが驚く。
「防御?」
これまで攻撃を続けていたフランが――守りを選んだ。
「艦長、敵の正体は?」
「知らん。」
「ならどうして――」
「嫌な予感がする。」
フランが右手を上げる。
structūra imperium(構造物制御)。
ハルシオン。
周辺艦艇。
砲塔。
装甲。
推進機構。
全てが一斉に動く。
巨大艦隊が一つの生命体のように陣形を変える。
「ベルト。」
「はい。」
「全員に伝えろ。」
フランの表情から余裕が消える。
「これより――」
「ハルシオンは最大戦闘態勢に移行する。」
グランVS間宮トオル
海上。
間宮は膝をついたまま動けない。
グランが宣言した命令。
Compulsory executor(強制執行)。
――跪け。
その宣言が撤回されない限り、間宮は立ち上がれない。
間宮は苦しそうに笑った。
「恐ろしい能力ですね……。」
グランが歩いてくる。
「知っていたはずだ。」
「ええ。」
「だからこそ興味深い。」
間宮が能力を解析する。
宣言。
対象指定。
継続。
そして反動。
「あなたが命令を重ねるほど――」
「あなた自身が壊れていく。」
グランが止まる。
「それがどうした。」
「なら試しましょう。」
間宮が指を動かす。
海中から大量のAz兵器が浮上する。
一体。
十体。
五十体。
グランを包囲。
マランが遠方から気づく。
「グラン!」
ペインも振り返る。
「おいおい、増えすぎじゃね?」
グランは周囲を見る。
五十体。
間宮が笑う。
「個別に倒しますか?」
「それとも――」
「能力を使いますか?」
グランの赤い片目が細くなる。
「くだらん。」
能力発動。
空気が重くなる。
対象――
Az兵器五十体。
グランが宣言した。
「――停止しろ。」
瞬間。
ガクン!!
五十体全ての動きが止まった。
砲撃も。
飛行も。
照準も。
完全停止。
間宮の笑みが消える。
「……集団指定。」
グランがさらに口を開こうとする。
だが。
ズキン!!
「……っ。」
頭部へ激痛。
視界が二重になる。
誰かの声。
過去の記憶。
両親。
拒絶。
憎悪。
そして――
自分が誰なのか、一瞬だけ曖昧になる。
「グラン!」
マランが駆け寄ろうとする。
グランが手で制した。
「来るな。」
「でも――」
「命令だ。」
マランが止まる。
グランは間宮を睨む。
まだ正気を保っている。
しかし確実に――
Compulsory executorはグラン自身を蝕んでいた。
間宮が呟く。
「いつまで正気でいられますかね。」
グランの表情が消える。
「試すか?」
間宮の顔から笑みが消えた。
収容区画
「次!」
結衣が叫ぶ。
解放された能力者たちが次々と運び出される。
結衣は負傷者へ手を当てる。
Healer(回復)。
傷が塞がっていく。
だが同時に――
結衣自身の呼吸が荒くなる。
「はぁ……はぁ……。」
アリスが気づく。
「結衣、休んで!」
「でめ、まだこんなに。」
「しかし 体力が!」
「まだ助けられる人がいるから。」
その横。
イレイダが刀を杖代わりにして立っていた。
身体内部には、カイザーインパルスの反動が残っている。
ネリクマが見る。
「イレイダも休んだ方がいい。」
「お前まで言うな。」
「身体、痛いでしょ。」
「……。」
「図星。」
「うるせぇ。」
その時。
ネリクマの表情が変わった。
「……?」
遠くを見る。
「どうした?」
イレイダが尋ねる。
「分からない。」
ネリクマが胸元を押さえる。
「なんか……嫌な予感がする。」
そして。
同じ瞬間――
マラン
マランも胸を押さえた。
「……。」
ペインが見る。
「マラン?」
返事がない。
マランは遠方を見ている。
何かを感じている。
ネリクマとマラン。
二人だけが――
同時に同じ方向を見た。
まだ誰も知らない。
二人の間にある関係も。
そしてデウスが二人に怒りを抱いている理由も。
GENESIS・デウス
「……来たか。」
デウスが呟く。
ソウヤが振り返る。
「何がだよ!」
デウスは黒点を見る。
反応が急加速している。
東京湾まで――
もう遠くない。
千太が再び未来を見る。
「っ……!」
今度は見えた。
黒い空。
海上。
グラン。
ハルシオン。
マラン。
ネリクマ。
そして――
デウス。
だが。
その未来にソウヤはいない。
「……え?」
千太が未来を探す。
ない。
別の未来。
ない。
さらに先。
「ソウヤ……。」
「どうした?」
千太が青ざめる。
「お前が――」
その瞬間。
デウスが千太を見る。
「それ以上見るな。」
「……!」
「死ぬぞ。」
千太の先見が強制的に途切れた。
「何しやがった!」
ソウヤがデウスへ向く。
デウスは静かに答える。
「救っただけだ。」
「千太は見てはいけない領域へ踏み込もうとした。」
「見てはいけない領域?」
デウスがソウヤへ歩く。
そして――
初めて真正面からソウヤ本人を見る。
「一之瀬ソウヤ。」
「お前はまだ知らない。」
「君の中に何がいるのか。」
ソウヤの瞳が揺れる。
レイが叫ぶ。
「デウス!」
デウスが止まる。
「安心しろ。」
「まだ言わん。」
レイの殺気が消えない。
デウスは小さく笑った。
「だが――」
「時間は来る。」
世界結論
突然。
ドォォォォォォン!!!!
GENESIS全体が激震。
タジが叫ぶ。
「黒点が消えました!」
「何!?」
「違う!」
タジが画面を拡大。
「反応が消えたんじゃない!」
「観測範囲から――」
その瞬間。
東京湾上空。
空間そのものが歪んだ。
ハルシオン艦橋。
警報。
ベルトが叫ぶ。
「艦長!!」
フランが空を見る。
グランも。
間宮も。
マランも。
ペインも。
イレイダも。
ネリクマも。
全員が――
同じ空を見上げた。
そしてデウスだけが静かに目を閉じる。
「仕方ない。」
ソウヤが見る。
「デウス?」
「まだここで終わらせるわけにはいかん。」
デウスが一歩前へ出る。
空気が変わる。
レイが反応した。
「……!」
初めて。
デウスが能力を発動する。
Conclusion the world order――世界結論。
千太が息を呑む。
世界が――静かになる。
風が止まる。
波が止まる。
落下していた瓦礫すら空中で停止。
アリスの時間停止とは違う。
時間を止めたのではない。
世界そのものが、デウスの言葉を待っている。
デウスが空を見上げる。
そして告げた。
「――まだ、ここへ来るな。」
瞬間。
ズン――!!
空間を歪ませていた巨大な反応が――
消えた。
フランが目を見開く。
間宮の表情も凍る。
グランすら無言で空を見ていた。
千太は震えている。
「……嘘だろ。」
世界規模の異常を――
たった一言で退けた。
ソウヤがデウスを見る。
「これが……。」
レイが静かに答える。
「そうだ。」
「これが――デウスだ。」
デウスは振り返る。
しかし。
その視線はソウヤではない。
マラン。
そして――
ネリクマ。
遠く離れた二人を見ているかのように。
「だが。」
デウスの目から温度が消えた。
「その前に――」
「片付けなければならない問題がある。」
収容区画。
ネリクマが突然、身体を強張らせる。
「……。」
イレイダが気づく。
「ネリクマ?」
同時刻。
東京湾。
マランも顔を上げる。
二人の脳裏へ――
同じ声が響いた。
『マラン。』
『練熊レン。』
二人の表情が変わる。
デウスが静かに告げた。
「――話がある。」
レイだけが、その言葉の意味を理解したように目を細める。
そしてソウヤはまだ知らない。
マランとネリクマ。
この二人の関係が――
これからの未来そのものを大きく変えることを。
第84話 完
