Psycer Brain ─ 神に抗え。その力で運命を変えろ。

GENESIS・中央制御室

「――覇者に至る戦いが始まる。」

デウスの言葉が、静まり返った中央制御室に残った。

世界地図上にただ一つ残された黒い光点。

千太は額から流れる血を拭いながら、その点を睨んでいた。

ソウヤの身体はいまだレイに主導権を握られている。

「デウス。」

レイが低く呼ぶ。

「お前は何を知っている。」

デウスは視線だけを向けた。

「知りたいのか?」

「質問に答えろ。」

「昔から変わらんな。」

レイの殺気が膨れ上がる。

その瞬間――

内側からソウヤが叫んだ。

(レイ!)

レイの動きが止まる。

(今はそいつと戦ってる場合じゃない!)

「……。」

(GENESISは終わってないんだろ!?)

数秒の沈黙。

やがてレイは拳を下ろした。

「……分かっている。」

デウスが僅かに笑う。

「その少年には従うのか。」

「黙れ。」

そのやり取りを聞いていた千太が目を細める。

何かがおかしい。

デウスとレイ。

二人は明らかに――

以前から互いを知っている。

だが、今は問いただしている場合ではなかった。

タジが端末を見る。

「ソウヤ!」

「GENESISの第二段階、まだシステムが生きています!」

「何!?」

「さっきのカウントダウンは選別終了までの時間だった!」

「施設そのものは停止してない!」



直後――



警報。

《外部海域に大規模攻撃反応》

タジが画面を切り替える。

そこに映ったのは――

ハルシオン。



東京湾上空

巨大な艦隊が東京湾を覆っていた。

中央。

戦艦ハルシオン。

その周囲に展開する艦艇群。

だが――

海中から無数のAz無人兵器が浮上する。

さらにGENESIS外郭から砲撃装置が展開。

狙いは一つ。

ハルシオン艦隊。

艦橋。

オペレーターが叫ぶ。

「敵性反応、急増!」

「数――百を超えます!」

ベルトがモニターを見る。

「フラン。」

フラン――

フラガラッハFミストルティンは静かに立ち上がった。

「分かっている。」

「通常操艦を解除しろ。」

艦橋が静まる。

「全艦?」

「ああ。」

ベルトがフランを見る。

そして理解した。

「……やるのか。」

フランは窓の向こうに広がる敵軍を見た。

「久しぶりにな。」



structūra imperium

フランが右手を上げる。

指先が僅かに動く。

「――structūra imperium。」

構造物制御。

瞬間。

ゴォォォォォォン――!!

ハルシオン艦隊全体が震えた。

警報ではない。

故障でもない。

まるで――

巨大な生物が目を覚ましたように。

「全艦、操艦系統切断!」

「ですが――!」

「問題ない。」

フランが指を動かす。

同時に。

ハルシオンの主砲が動く。

一門ではない。

二門。

十門。

数十門。

さらに艦体側面の副砲。

迎撃砲。

ミサイル発射管。

周囲を航行していた艦艇まで――

一斉にフランの意思へ従った。

ベルトが静かに呟く。

「始まったか。」

一人で操る艦隊

Az無人兵器が散開する。

通常なら、それぞれの敵へ照準を合わせるだけでも複数の人員が必要になる。

だがフランには必要ない。

敵を視認。

それだけ。

右手の人差し指を動かす。

ドォン!!

一隻の副砲。

左手を開く。

ズドドドドドッ!!

別艦の迎撃砲。

腕を横へ振る。

艦隊そのものが左右へ展開する。

まるで――

フランが自分の指を動かしているだけ。

「右舷三十二度。」

フランが呟く。

艦体が傾く。

敵砲撃が海面を抉る。

「第二艦、上昇。」

巨大な艦が動く。

「第三、第四――挟め。」

二隻がAz部隊を左右から包囲。

そして。

「撃て。」

ズドォォォォォォン!!!!

無数の砲撃。

夜空が昼間のように輝く。

Az無人兵器が次々と爆散する。

ハルシオンへの集中砲火

だが。

GENESISが即座に戦術を変更。

《TARGET――HALCYON》

全砲台。

全無人兵器。

一斉にハルシオンへ照準。

ベルトが叫ぶ。

「フラン!」

「見えている。」

数百の光。

一斉射撃。

轟――!!

逃げ場はない。

その瞬間。

フランが拳を握った。

ハルシオン外装が――

動いた。

「な……!」

艦体表面の構造そのものが変形。

装甲板が次々と移動し、一点へ集中。

即席の巨大防壁。

ドドドドドドドドォォォン!!!

集中砲火が直撃。

艦橋が激しく揺れる。

「うわっ!」

ベルトが手すりを掴む。

だが――

フランだけは動かない。

砲煙が晴れる。

ハルシオン。

健在。

フランが呟く。

「私の艦を――」

目が鋭くなる。

「勝手に壊すな。」

フランの身体

その時。

一機の高速型Az兵器が防御を突破。

艦橋へ突入する。

ガシャァァン!!

「侵入!」

ベルトが構える。

だが敵は真っ直ぐフランへ。

刃。

ズバッ!!

フランの胸を貫いた。

「フラン!!」

血が落ちる。

Az兵器が刃を引き抜く。

フランの身体が倒れ――

ない。

「……?」

機械兵が停止する。

フランは自分の胸を見る。

大きな傷。

本来なら致命傷。

それでも。

「なるほど。」

フランが顔を上げる。

「私を殺せば艦隊が止まると思ったか。」

機械兵が再び刃を振り上げる。

フランは避けない。

「無意味だ。」

刃が振り下ろされる。

その直前。

艦橋の床が変形。

ガギィン!!

金属構造が機械兵の腕を拘束。

続いて壁。

天井。

床。

全てが動く。

機械兵の四肢を固定する。

「ここはハルシオンだ。」

フランが静かに歩く。

「つまり――」

艦橋そのものが機械兵を締め上げる。

バキバキバキバキッ!!

「ここでは、私と戦っているんじゃない。」

フランが機械兵の前に立つ。

「この艦そのものと戦っている。」

拳を握る。

グシャッ!!

構造物に押し潰され、機械兵が停止した。

ベルトがフランへ駆け寄る。

「艦長!?」

「放っておけ。」

「しかし――」

「私の心臓はここにはない。」

フランが胸元の血を拭う。

そして艦橋の床へ手を置く。

「私の命は――」

ハルシオン艦隊を見渡す。



「この艦隊の中にある。」



不沈

GENESIS中央制御室。

映像を見ていたソウヤが息を呑む。

人格の主導権が戻り始める。

「……フランとは、こんな奴だったのか。」

レイが内側から答える。

「構造物を支配する能力者。」

「あいつと戦うなら、人間を相手にしていると思うな。」

ソウヤが画面を見る。

ハルシオン。

そして周囲の艦隊。

「まさか……。」

「そうだ。」

レイの声。

「フランを倒したければ――」

ハルシオンの全砲門が開く。

「まず、あの艦隊を沈める必要がある。」



グラン

その光景を――

東京湾の別地点からグランも見ていた。

間宮トオルとの戦闘。

その最中。

遠方でハルシオンが一斉砲撃を開始する。

ドォォォォォォォン!!

空を埋め尽くす光。

間宮が呟く。

「フラガラッハFミストルティン……。」

グランの赤い片目が細くなる。

「構造物制御か。」

間宮がグランを見る。

「興味がありますか?」

「ない。」

グランは即答した。

「今はお前を殺す。」

間宮が障壁を展開。

「Ability Research。」

グランの能力。

動作。

癖。

宣言。

これまでの戦闘情報を解析する。

「あなたのCompulsory executorには重大な代償がある。」

グランが止まる。

「……。」

「使えば使うほど、精神を破壊する。」

間宮は笑う。

「だから先ほどから能力を使わず、身体能力だけで私を追い詰めている。」

沈黙。

間宮の笑みが深くなる。

「違いますか?」

グランがゆっくり顔を上げる。

「よく調べた。」

「光栄です。」

「だが――」

グランの声が低くなる。

間宮の表情から笑みが消えた。

空気が変わる。

グランが能力を発動する。

Compulsory executor――強制執行。

グランはただ一言。

宣言した。

「――跪け。」

「……!」

間宮の身体が――

強制的に動いた。

膝が海面へ叩きつけられる。

バシャァァン!!

「ぐっ……!?」

Ability Researchで理解している。

能力の仕組みも。

代償も。

しかし。

理解していることと、防げることは別。

グランが間宮へ歩く。

一歩。

二歩。

その瞬間。

グランの頭に激痛。

「……っ!」

視界が一瞬だけ歪む。

記憶が飛ぶ。

自分が今、どこにいるのか。

ほんの一秒だけ――分からなくなる。

「……。」

マランが遠方から気づく。

「グラン……?」

だがグランはすぐに正気へ戻った。

「問題ない。」

マランはまだ疑わない。

グランもまだ――

マランを仲間だと信じている。



名取家・地下

祭壇。

古い石板。

名取惣一が文字を読み続ける。

刹那と夢幻が周囲を警戒する。

だが。

「……夢幻。」

刹那が呟く。

「ああ。」

黒い影がまた集まり始めている。

今度は数十ではない。

祭壇全体を覆うほど。

夢幻が前へ出る。

「惣一さん。」

「少し時間をくれませんか。」

「どれくらい。」

「それは。」

夢幻が笑う。

「一番困る答えだな。」

刹那が隣へ並ぶ。

刀を抜く。

「なら、終わるまで守りましょう。」

夢幻も構える。

hallucinatio gladius――幻剣。

exsecratio Carmen――呪詛。

二つの能力が同時に立ち上がる。

名取家三人だけの戦場。

その核心もまた――

目前まで迫っていた。



ハルシオン・全砲門開放

フランが艦橋中央へ戻る。

胸にはまだ傷が残っている。

それでも指揮に一切の乱れはない。

ベルトが敵反応を見る。

「残存敵、四十八!」

「GENESIS外郭砲台、二十三!」

フランが前を見る。

「十分だ。」

両腕を広げる。

structūra imperiumの支配が――

艦隊全域へ拡大。

主砲。

副砲。

迎撃砲。

ミサイル。

艦載兵器。

装甲。

推進機構。

艦隊を構成するあらゆる構造物が、フランの意思と一体化していく。

まるで一人の人間が、

巨大な鋼鉄の怪物へ変貌していくように。

「照準。」

数百の砲門が一斉に動く。

「固定。」

敵全てが照準内へ入る。

フランの瞳が鋭くなる。

「ハルシオン――」

腕を振り下ろす。

「全砲門、撃て。」

一瞬。

東京湾の夜が――

白く染まった。

ズドォォォォォォォォォォォン!!!!

無数の光条が空を走る。

Az兵器。

GENESIS外郭砲台。

接近する無人艦。

次々と撃ち抜かれていく。

その光景を見上げながら――

デウスが静かに呟いた。

「役者が揃い始めたな。」

ソウヤが振り返る。

「どういう意味だ。」

デウスは答えない。

ただ、黒く染まった世界地図上の一点を見る。

そして――

その黒点が、

ゆっくりと移動を始めた。

千太の顔色が変わる。

「……待て。」

「こいつ――」

未来を見る。

東京湾。

ハルシオン。

グラン。

イレイダ。

ソウヤ。

マラン。

NWO。

そして――

その全てを飲み込む巨大な影。

千太が震える声で告げる。

「こっちに来る。」

ソウヤが画面を見る。

「何が?」

千太は答える。

「それは――」

一瞬。

未来の中で。

デウスすら、その存在へ顔を向けていた。

「……化け物だ。」

第83話 完