Psycer Brain ─ 神に抗え。その力で運命を変えろ。

放課後。屋上。

風が強い。

フェンスの向こう、夕焼けが滲んでいる。

「……だから言ってるでしょ」

柚季の声。

腕を組んだまま、ソウヤを睨む。

「今のあんた、普通じゃない」

「だから知らねえって言ってんだろ」

苛立ちが混じる。

理解できないものを押し付けられる感覚。

そのとき。

「ソウヤ!」

結衣が扉を開けて入ってくる。

息を切らしている。

「大丈夫!?」

「……なんで来た」

「顔やばいからに決まってるでしょ」

距離を詰めてくる。

その瞬間。

――ズレた。

世界の“ピント”が、外れる。

「……っ」

ソウヤの視界が歪む。

音が遠のく。

風の音だけが、異様に大きくなる。

ドクン。

心臓の音。

ドクン。

もう一度。

その音に合わせて、

視界の色が、わずかに変わる。

赤と青。

世界が二層に分かれる。

「ソウヤ?」

結衣の声が、遅れて聞こえる。

遠い。

まるで、水の中から聞いているみたいに。

(……なんだ、これ)

思考がまとまらない。

でも。

“もう一つの思考”が、混ざる。

――遅い。

(……は?)

自分の声じゃない。

でも、確かに“内側”から聞こえる。

その瞬間。

ソウヤの体が、微かに傾く。

バランスが崩れる。

結衣が手を伸ばす。

「危な――」

触れる、その直前。

バチンッ。

空気が弾けた。

見えない衝撃が、周囲に広がる。

結衣の体が弾き飛ばされる。

「っ――!?」

フェンスに叩きつけられる寸前、

ふわっと止まる。

(……今の)

結衣の能力が無意識に発動している。

でも。

それどころじゃない。

「……何、これ」

柚季の声が低くなる。

目が鋭く細まる。

ソウヤの周囲。

空間が歪んでいる。

陽炎のように揺れる。

でも、それは熱じゃない。

“圧”だ。

ドクン。

また心臓。

その音と同時に、

ソウヤの瞳の色が、わずかに変わる。

片方が深く沈むように暗くなる。

(……やめろ)

ソウヤの意思。

でも。

――遅いって言ってる。

別の“何か”。

冷静で、無機質な判断。

次の瞬間。

ソウヤの体が、消えた。

「……っ!?」

柚季の目が見開かれる。

一瞬。

本当に、消えた。

次のフレーム。

柚季の目の前に、ソウヤがいる。

「――ッ!」

反応が遅れる。

速すぎる。

認識が追いつかない。

空気が裂ける音。

ソウヤの腕が振り抜かれる。

だが。

直前で止まる。

数センチ手前。

まるで“見えない壁”に阻まれたように。

ギィィィ……ッ

空間が軋む。

見えない何かが押し合っている。

柚季の額に汗が滲む。

(……やばい)

直感。

これは受けたら終わる。

「ソウヤ!!」

結衣の叫び。

その声。

一瞬だけ。

ほんの一瞬だけ。

ソウヤの目が揺れる。

(……やめろ)

自分の声。

押し返す。

バチンッ!!

衝撃が爆ぜる。

ソウヤの体が弾かれる。

後方へ吹き飛ぶ。

床を転がり、止まる。

静寂。

風の音だけが戻る。

「……はぁ……っ」

ソウヤは荒く息をする。

視界が戻る。

色も、音も、元に戻る。

「……今の、なんだよ」

手を見る。

震えている。

結衣が駆け寄る。

「大丈夫!?」

「……ああ」

でも、声に力がない。

柚季は動かない。

ただ、じっと見ている。

そして、静かに言った。

「……やっぱり」

一拍。

「あんた、危険だわ」

ソウヤは何も言えない。

ただ一つ、分かる。

さっきのは――

(……俺じゃない)

でも、確実に“自分の中”から出た。

夕焼けが、ゆっくり沈んでいく。

その光の中で。

ソウヤの影が、わずかに“二重に揺れた”。