Psycer Brain ─ 神に抗え。その力で運命を変えろ。

朝。

目が覚めた瞬間、違和感があった。

「……」

天井はいつも通り。

部屋も変わらない。

なのに――

(……なんだ、この感じ)

空気が違う。

うまく言葉にできない、微かなズレ。

コンコン、とノック。

「ソウヤ、起きてる?」

結衣の声。

「……起きてる」

「ご飯できてるよ」

「今行く」

いつも通りのやり取り。

なのに、どこか引っかかる。

リビング。

「はい、トースト」

「ありがと」

受け取る。

座る。

結衣はいつも通りだ。

(……普通だよな)

見た目も、態度も。

何も変わっていない。

「どうしたの?」

結衣が聞く。

「ぼーっとしてる」

「……いや、別に」

そう答えた瞬間。

結衣の手が、わずかに光った。

「……は?」

パンを持ったまま、ソウヤの動きが止まる。

ほんの一瞬。

柔らかい光。

そしてすぐ消える。

結衣は気づいていない。

(今の……何だ?)

「ソウヤ?」

「……今、なんかした?」

「何が?」

普通の返答。

違和感が増す。

(見間違い……?)

そう思おうとする。

でも。

(違う)

確かに見た。



登校。



結衣と並んで歩く。

いつも通り。

でも、ソウヤの視線はずっと結衣に向いていた。

「さっきから何」

「……いや」

言えない。

言葉にできない。

そのとき。

前を歩いていた男子が、転びそうになる。

「あっぶね」

その瞬間。

体が、ふわっと浮いた。

ほんの数センチ。

そのまま着地する。

何事もなかったように。

周囲も、誰も気にしていない。

「……」

ソウヤだけが立ち止まる。

(今の……)

現実感が、崩れる。



教室。



ざわつき。

でも。

(……普通に、受け入れてる)

誰も驚かない。

何も起きていないかのように。

「ソウヤ」

タジが声をかける。

「顔やばいぞ」

「……なあ」

ソウヤは少しだけ声を落とす。

「今朝から、なんかおかしくないか」

タジは一瞬だけ止まる。

それから。

「……は?」

本気で分かっていない顔。

「何が?」

「いや、だから――」

言葉が詰まる。

何をどう説明すればいいか分からない。

「お前、熱でもあんの?」

軽く額に手を当ててくる。

「……ない」

手を払う。

タジは肩をすくめる。

「なら気のせいじゃね」

(……違う)

確信がある。



昼休み。



屋上。



一人になる。

「……なんなんだよ」

頭を押さえる。

理解できない。

そのとき。

「やっぱ来てるわね」

後ろから声がした。

振り向く。

柚季がいた。

「……お前」

「その顔」

腕を組む。

「やっと気づいたんだ」

「……何にだよ」

柚季は、あっさり言った。

「能力」

その一言。

ソウヤの思考が止まる。

「……は?」

「だから」

淡々と。

「この世界、能力者ばっかだって話」

「……ふざけんな」

即答だった。

でも。

「じゃあ、今朝の見たでしょ?」

言葉に詰まる。

結衣の光。

浮いた体。

全部、思い出す。

「……あれ、普通じゃないのかよ」

「普通でしょ」

即答。

価値観が、完全に違う。



「一之瀬」

柚季は一歩近づく。

「一つ聞くけど」

真っ直ぐ見る。

「昨日まで、知らなかったの?」

ソウヤは黙る。

それが答えだった。

柚季の表情が、わずかに変わる。

「……ありえない」

小さく呟く。

そのとき。

頭の奥に、あの感覚。

――見つけた。

ソウヤの体がわずかに揺れる。

柚季の目が鋭くなる。

「……今の何」

「……知らねえよ」



でも。



確実に分かる。



これは――

(俺の中の“何か”が、動いてる)