東京湾――
海上には、静寂が広がっていた。
間宮トオルの亡骸は波に揺られ、ゆっくりとGENESISの残骸の中へ沈んでいく。
誰も言葉を発しない。
Az最高峰の研究者は、最後まで自らの研究に殉じ、その生涯を終えた。
オールドマンだけが、その亡骸を一瞥した。
「……よく働いてくれました。」
「君の研究は、無駄ではありません。」
その言葉に、グランの拳が震える。
「人を道具としてしか見ないか。」
オールドマンは穏やかに答えた。
「違います。」
「道具には価値があります。」
「価値のない者は、研究にも使えません。」
その一言で、空気が凍りついた。
イレイダが刀を抜く。
「……胸糞悪ぃ野郎だ。」
ネリクマの表情も消えている。
燕はセツナを支えながらオールドマンを睨んだ。
結衣も静かに拳を握る。
誰もが、この男だけは止めなければならないと理解していた。
その時。
デウスが一歩前へ出た。
コツ……
静かな足音。
それだけで周囲の空気が変わる。
オールドマンは小さく笑う。
「ようやくですか。」
「覇者の使徒。」
デウスは答えない。
ただ真っ直ぐ歩く。
その後ろにはアメス。
さらに異空間の裂け目が静かに開く。
ズゥゥゥ……
空間が裂け、七つの光が降り注ぐ。
まるで天から舞い降りるように。
ゼゥテル。
シェフィル。
ネフィ。
マオン。
マコン。
ゲヴォン。
ペルム。
覇者の集い七人が、デウスの背後へ静かに並んだ。
誰一人として殺気を放たない。
しかし、その場に立つだけで東京湾全体が震える。
イレイダが思わず息を呑む。
「……これが。」
フランもハルシオン艦橋から見つめる。
「覇者の集い。」
ベルトが苦笑する。
「一人でも化け物なのに……。」
「七人揃うと笑えないな。」
オールドマンは七人を見渡した。
「全員来ましたか。」
「光栄です。」
ゼゥテルが静かに口を開く。
「光栄ではない。」
「貴様を止めに来た。」
「止める?」
オールドマンは笑う。
「世界はようやく動き始めたのですよ。」
「今さら止められると思いますか。」
アメスが一歩前へ出る。
その柔らかな笑顔は変わらない。
「私は争いを望みません。」
「ですが。」
右手を胸の前で組む。
「世界を壊す者には。」
「審判を下します。」
その瞬間。
空気が変わった。
周囲十メートル。
見えない圧力が広がる。
マランが顔をしかめる。
「これが……。」
デウスが小さく呟く。
「能力を抑えている状態で、この圧か。」
一方。
ソウヤの身体では、依然としてレイが主導権を握っていた。
一仁と向かい合う。
一仁は肩を回しながら笑う。
「よそ見してんじゃねぇ。」
「俺はまだ終わってねぇぞ。」
レイは静かに構える。
(ソウヤ)
『レイ。』
(レイ)
『何だ。』
『オールドマン……。』
『気になる。』
レイは短く答えた。
『俺もだ。』
『だが、一仁を放置すれば全員が危険になる。』
ソウヤは頷く。
『分かった。』
二人の意識は完全に重なっていた。
レイが地面を蹴る。
一仁も同時に動く。
ドォォォォォン!!
拳と崩壊が激突し、東京湾の海面が大きく割れた。
その激震の中。
オールドマンは戦いを見ることもなく、デウスだけを見ていた。
「あなたは変わりませんね。」
デウスも静かに返す。
「貴様もな。」
「数百年経とうと。」
「その思想だけは。」
オールドマンは微笑む。
「世界は完成されるべきです。」
「能力者も。」
「人類も。」
「選別されなければならない。」
その言葉を聞いた瞬間。
グランの赤い瞳が鋭く光る。
「選別だと?」
「誰が決める。」
オールドマンは迷いなく答えた。
「私です。」
ドン――。
その一言だけで、場の空気がさらに重くなる。
しかし次の瞬間。
アメスの瞳が変わった。
穏やかな金色から、燃えるような紅へ。
デウスが横目で見る。
「……アメス。」
アメスは静かに笑った。
「申し訳ありません。」
「少しだけ。」
「腹が立ちました。」
その笑顔とは裏腹に。
周囲十メートルの空間が震え始める。
The Last Judgementer(最終審判)
まだ能力は発動していない。
だが、その場にいる全員が悟った。
もしアメスが「審判」を下せば、この戦場は一瞬で決着がつく可能性があることを。
デウスは静かに右手を上げた。
「まだ裁くな。」
アメスは深呼吸し、紅く染まった瞳をゆっくり閉じる。
「……承知しました。」
しかし、その視線は一度もオールドマンから外れなかった。
一方、オールドマンもまた初めて表情を消す。
「なるほど。」
「あなたが……。」
「最終審判ですか。」
東京湾。
二人の間に、誰も踏み込めない緊張が張り詰める。
そして、その静寂を破るように――
崩壊したGENESISの地下深くから、新たな振動が響き始めた。
誰もまだ知らない。
GENESISが遺したものは、オールドマンだけではないことを。
第111話 完
海上には、静寂が広がっていた。
間宮トオルの亡骸は波に揺られ、ゆっくりとGENESISの残骸の中へ沈んでいく。
誰も言葉を発しない。
Az最高峰の研究者は、最後まで自らの研究に殉じ、その生涯を終えた。
オールドマンだけが、その亡骸を一瞥した。
「……よく働いてくれました。」
「君の研究は、無駄ではありません。」
その言葉に、グランの拳が震える。
「人を道具としてしか見ないか。」
オールドマンは穏やかに答えた。
「違います。」
「道具には価値があります。」
「価値のない者は、研究にも使えません。」
その一言で、空気が凍りついた。
イレイダが刀を抜く。
「……胸糞悪ぃ野郎だ。」
ネリクマの表情も消えている。
燕はセツナを支えながらオールドマンを睨んだ。
結衣も静かに拳を握る。
誰もが、この男だけは止めなければならないと理解していた。
その時。
デウスが一歩前へ出た。
コツ……
静かな足音。
それだけで周囲の空気が変わる。
オールドマンは小さく笑う。
「ようやくですか。」
「覇者の使徒。」
デウスは答えない。
ただ真っ直ぐ歩く。
その後ろにはアメス。
さらに異空間の裂け目が静かに開く。
ズゥゥゥ……
空間が裂け、七つの光が降り注ぐ。
まるで天から舞い降りるように。
ゼゥテル。
シェフィル。
ネフィ。
マオン。
マコン。
ゲヴォン。
ペルム。
覇者の集い七人が、デウスの背後へ静かに並んだ。
誰一人として殺気を放たない。
しかし、その場に立つだけで東京湾全体が震える。
イレイダが思わず息を呑む。
「……これが。」
フランもハルシオン艦橋から見つめる。
「覇者の集い。」
ベルトが苦笑する。
「一人でも化け物なのに……。」
「七人揃うと笑えないな。」
オールドマンは七人を見渡した。
「全員来ましたか。」
「光栄です。」
ゼゥテルが静かに口を開く。
「光栄ではない。」
「貴様を止めに来た。」
「止める?」
オールドマンは笑う。
「世界はようやく動き始めたのですよ。」
「今さら止められると思いますか。」
アメスが一歩前へ出る。
その柔らかな笑顔は変わらない。
「私は争いを望みません。」
「ですが。」
右手を胸の前で組む。
「世界を壊す者には。」
「審判を下します。」
その瞬間。
空気が変わった。
周囲十メートル。
見えない圧力が広がる。
マランが顔をしかめる。
「これが……。」
デウスが小さく呟く。
「能力を抑えている状態で、この圧か。」
一方。
ソウヤの身体では、依然としてレイが主導権を握っていた。
一仁と向かい合う。
一仁は肩を回しながら笑う。
「よそ見してんじゃねぇ。」
「俺はまだ終わってねぇぞ。」
レイは静かに構える。
(ソウヤ)
『レイ。』
(レイ)
『何だ。』
『オールドマン……。』
『気になる。』
レイは短く答えた。
『俺もだ。』
『だが、一仁を放置すれば全員が危険になる。』
ソウヤは頷く。
『分かった。』
二人の意識は完全に重なっていた。
レイが地面を蹴る。
一仁も同時に動く。
ドォォォォォン!!
拳と崩壊が激突し、東京湾の海面が大きく割れた。
その激震の中。
オールドマンは戦いを見ることもなく、デウスだけを見ていた。
「あなたは変わりませんね。」
デウスも静かに返す。
「貴様もな。」
「数百年経とうと。」
「その思想だけは。」
オールドマンは微笑む。
「世界は完成されるべきです。」
「能力者も。」
「人類も。」
「選別されなければならない。」
その言葉を聞いた瞬間。
グランの赤い瞳が鋭く光る。
「選別だと?」
「誰が決める。」
オールドマンは迷いなく答えた。
「私です。」
ドン――。
その一言だけで、場の空気がさらに重くなる。
しかし次の瞬間。
アメスの瞳が変わった。
穏やかな金色から、燃えるような紅へ。
デウスが横目で見る。
「……アメス。」
アメスは静かに笑った。
「申し訳ありません。」
「少しだけ。」
「腹が立ちました。」
その笑顔とは裏腹に。
周囲十メートルの空間が震え始める。
The Last Judgementer(最終審判)
まだ能力は発動していない。
だが、その場にいる全員が悟った。
もしアメスが「審判」を下せば、この戦場は一瞬で決着がつく可能性があることを。
デウスは静かに右手を上げた。
「まだ裁くな。」
アメスは深呼吸し、紅く染まった瞳をゆっくり閉じる。
「……承知しました。」
しかし、その視線は一度もオールドマンから外れなかった。
一方、オールドマンもまた初めて表情を消す。
「なるほど。」
「あなたが……。」
「最終審判ですか。」
東京湾。
二人の間に、誰も踏み込めない緊張が張り詰める。
そして、その静寂を破るように――
崩壊したGENESISの地下深くから、新たな振動が響き始めた。
誰もまだ知らない。
GENESISが遺したものは、オールドマンだけではないことを。
第111話 完
