Psycer Brain ─ 神に抗え。その力で運命を変えろ。

黒い光柱

それはGENESIS最深部を貫き、夜空へ一直線に伸びていく。
ドォォォォォォン――。
東京湾全体が震えた。
海面が大きくうねり、砕けたGENESISの瓦礫が次々と海へ沈んでいく。

GENESIS外郭
レイと一仁も戦いを止めていた。
一仁は初めて笑みを消す。
「面白い。」
「俺じゃねぇ。」
「もっとヤバい奴がいる。」
レイは拳を下ろさない。
「だからどうした。」
「戦いは終わってない。」
一仁が肩を回す。
「そうだな。」
「だが今は――」
黒い光を見上げる。
「嫌な予感しかしねぇ。」

ハルシオン
艦橋では警報が鳴り止まない。

《UNKNOWN ENERGY》
《UNKNOWN ENERGY》
《UNKNOWN ENERGY》

解析不能。
繰り返される表示。
ベルトがモニターを叩く。
「解析できないのか!」
「駄目です!」
「能力データに一致しません!」
フランは静かに光柱を見つめる。
「……能力ではない。」
その一言に艦橋が静まり返る。

イーゼル
「全艦停止!」
ベルトの命令が飛ぶ。
「ハルシオンとの距離を維持!」
「勝手に突っ込むな!」
副官である「ヴァフズルーズ・ニル・ベルヴェルク」が驚く。
「援護しないのですか!」
「今飛び込めば。」
ベルトは歯を食いしばる。
「全滅する。」
その判断はフランも同じだった。

東京湾
覇者の集い。
七人は誰も動かない。
ゼゥテルが静かに目を閉じる。
「……。」
マオンが呟く。
「予定より早い。」
シェフィルも頷く。
「世界が動き始めています。」
ゲヴォンは腕を組んだまま光柱を見ている。
ペルムは珍しく笑わなかった。
マコンは静かに息を吐く。
ネフィだけが目を閉じたまま祈るように手を組んでいた。
アメスが小さく尋ねる。
「ゼゥテル様。」
「介入されますか?」
ゼゥテルは首を横へ振る。
「まだだ。」
「人類の戦いは。」
「まだ終わっていない。」
デウス
デウスだけが一歩前へ出る。
「……。」
その瞳は黒い光柱だけを見つめていた。
アメスが隣へ並ぶ。
「知っているのですか。」
「少しだけな。」
「敵ですか。」
デウスは答えない。
代わりに静かに言った。
「もし。」
「今ここで目覚めれば。」
「世界はもう一度やり直しになる。」
アメスの表情が僅かに曇る。
「そこまで……。」
デウスは頷いた。
グラン
「フッ。」
グランが笑う。
「ようやく退屈しなくなった。」
マランが横を見る。
「笑ってる場合か。」
「怖いか?」
「……。」
マランは答えなかった。
怖くない。
だが。
あの黒い光だけは、本能が危険だと告げている。
ペインも珍しく口数が少ない。
「グラン。」
「撤退も考えろ。」
「断る。」
即答だった。
「面白い戦場から逃げる趣味はない。」

ネリクマ
「……。」
ネリクマだけが胸を押さえていた。
「どうした?」
イレイダが尋ねる。
「分からない。」
「でも。」
「泣きそう。」
その言葉にマランも反応した。
「……。」
同じだった。
理由は分からない。
なのに胸が締め付けられる。
デウスが二人を見る。
「やはり。」
「始まったか。」
それ以上は語らない。
まだ話す時ではない。
燕たち
結衣はセツナを診察していた。
「命に別状はありません。」
燕は安堵する。
「良かった……。」
セツナは静かに眠っている。
支配は解けた。
もうAzの命令は届かない。
柚季が空を見る。
「まだ終わってないのね。」
小雨が眠そうに呟く。
「帰りたい……。」
イレイダは苦笑した。
「全員同じ気持ちだ。」
その瞬間。

ドクン。

黒い光柱が脈打つ。

一度。
二度。
三度。

まるで巨大な心臓が鼓動するように。
デウスの瞳が鋭くなる。
「……来る。」
アメスも構えた。
「審判の準備を。」
「まだだ。」
デウスが止める。
「まだ裁くな。」
「しかし。」
「今は見届けろ。」
アメスは静かに頷く。
「承知しました。」
黒い光柱がゆっくりと縮んでいく。
誰も動けない。
誰も言葉を発しない。

東京湾にいる全能力者が、その一点だけを見つめていた。

そして。
光柱の中心から。
一つの"影"が見えた。
まだ輪郭しか分からない。
何者なのかも分からない。
しかし、その存在が一歩踏み出しただけで。
東京湾全体の空気が変わった。
デウスが低く呟く。

「……いよいよか。」

ゼゥテルは静かに目を開く。

第108話 完