Psycer Brain ─ 神に抗え。その力で運命を変えろ。

GENESIS最深部

ギギギギギギギ……
崩壊が施設全体へ広がる中、その区画だけは妙な静寂に包まれていた。
天井から瓦礫が落ちる。
警報は鳴り続ける。
だが――
一つの巨大な扉だけは、ゆっくりと開いていく。

《EMERGENCY LOCK――FAILED》
《FINAL SECURITY――OFFLINE》
《GENESIS CORE AREA》

重い金属音が地下へ響いた。
その振動を、東京湾にいるデウスは静かに感じ取っていた。
「……始まったか。」
ゼゥテルも目を閉じる。
「やはり。」
マオンが小さく息を吐く。
「これも運命か。」
覇者の集い七人は誰も動かない。
ただ、その地下を見つめていた。

一方。

GENESIS外郭
レイと一仁の戦いはさらに激しさを増していた。
「はぁぁぁぁぁっ!!」
レイの拳。
ドゴォォォォン!!
一仁が腕で受け止める。
しかし衝撃は受け切れない。
そのまま十数メートル吹き飛ばされる。
「やっぱり強ぇな!」
一仁が笑う。
瓦礫を踏み砕きながら立ち上がる。
「だが――」
右手を前へ。

periculum(崩壊)

地面だけではない。
空気。
壁。
残された鉄骨。
あらゆる構造が崩れ始める。
レイは舌打ちした。
「面倒だ。」
身体を捻る。
崩壊を紙一重で避ける。
さらに跳躍。
空中で回転。
踵落とし。
ズドォォン!!
一仁が両腕を交差させ受け止める。
そのまま二人が海面へ落下する。
巨大な水柱。
マリアが叫ぶ。
「海に!」
千太が未来を見る。
「違う!」
「まだ終わってない!」
ドォォォォン!!
次の瞬間。
海面を突き破って二人が再び飛び上がる。
その激突だけで波が割れた。

ハルシオン艦橋
ベルトが苦笑する。
「もう人間ではない。」
副官も頷くしかなかった。
「艦長。」
「あれは、本当に能力者同士の戦いですか?」
「知らん。」
ベルトはため息をつく。
「私にも分からん。」
フランだけは静かだった。
「一之瀬ソウヤはまだ本気ではない。」
「え?」
ベルトが振り返る。
「まだ人格転移したばかりだ。」
「身体が完全には馴染んでいない。」
「本来なら、もっと速い。」
その言葉にベルトが絶句した。
「……冗談では。」

その頃。

イレイダたちは地下から脱出を続けていた。
「急ぎましょう!」
燕がセツナを支える。
結衣も治療を続けながら走る。
柚季が小雨を背負っている。
イレイダだけが最後尾。
崩れる天井を刀で斬り払いながら仲間を守る。
ズガァン!!
巨大な瓦礫。
「邪魔だ!」
斬皇破断――
カイザーインパルス!!
一閃。
巨大な岩塊が真っ二つに割れる。
その反動でイレイダの膝が沈んだ。
「……っ。」
結衣が振り返る。
「イレイダ!」
「止まるな!」
「でも!」
「全員外へ出るのが先だ!」
誰も反論できなかった。

東京湾
アメスは静かに目を閉じていた。
「……。」
デウスが隣へ立つ。
「珍しいな。」
「何がです?」
「戦いへ加わらない。」
アメスは微笑む。
「私は裁く者です。」
「争いを作る者ではありません。」
デウスは頷いた。
「変わらんな。」
「ええ。」
「ですが。」
アメスの瞳が少しだけ赤く染まる。
「もし誰かが。」
「この場で越えてはならない一線を越えるなら。」
「私は。」
笑みが深くなる。
「裁きを下します。」
その空気だけで。
間宮は背筋に冷たい汗を流した。
「……化け物。」
思わず漏れた本音。
グランが鼻で笑う。
「今さら気付いたか。」
その時だった。
ドォォォォォォォン!!
GENESIS中央部が大爆発を起こした。
巨大な火柱。
黒煙。
施設全体が崩れ始める。
「まずい!」
タジが叫ぶ。
『中央部が保たない!』
『全員退避!!』
「イレイダ!」
『急げ!』
フランが静かに命じる。
「ハルシオン。」
「GENESIS周辺へ接近。」
ベルトが通信を返す。
『イーゼルも続く!』
二隻の戦艦が東京湾を滑るように進み始める。
覇者の集いはその様子を静かに見守っていた。
ゼゥテルが呟く。
「助けるのか。」
フランは通信越しに答えた。
「当然だ。」
「仲間がいる。」
その一言だけだった。
アメスはその言葉を聞き、小さく笑った。
「仲間。」
「いい言葉ですね。」
しかし。
その笑顔が次の瞬間、凍りつく。
デウスも同時に顔を上げた。

ゼゥテル。
シェフィル。
ネフィ。
マオン。
マコン。
ゲヴォン。
ペルム。

覇者の集い七人全員が、同じ方向を見る。

GENESIS地下
その奥底。
何かが動いた。
デウスの表情から、完全に笑みが消えた。
「違う。」
「これは。」
アメスも初めて真剣な表情になる。
「こんな気配……。」
誰も知らない。
誰も見たことがない。
それでも全員が理解した。
「何か」が。
目を覚まそうとしている。
その直後。
崩壊するGENESIS地下から――
一筋の黒い光が、
天へ向かって突き抜けた。
東京湾全域が、その異常な光に包まれる。
そして、デウスは低く呟いた。

「……間に合わなかったか。」

第107話 完