―東京湾―
「――審判を下します。」
アメスの声が、静かに東京湾へ響く。
その瞬間。
半径十メートル。
誰にも見えないはずの空間が、まるで透明な球体のように歪んだ。
そこへ侵入したAz無人兵器が、一斉に停止する。
「止まった……?」
ソウヤが驚く。
レイも僅かに目を細めた。
「違う。」
「もう終わっている。」
アメスは右手を静かに下ろした。
「あなたたちは――」
優しい声。
だが、その瞳は興奮で赤く染まり始めていた。
「敗北です。」
The Last Judgementer(最終審判)。
その一言だけだった。
次の瞬間。
ガギギギギギッ!!
Az兵器の装甲が、外側からではない。
内側から押し潰されるように軋み始める。
「なっ……!」
ベルトが思わず立ち上がる。
「攻撃してない!」
ドゴォォォォン!!
一機。
さらに二機。
三機。
十数機ものAz兵器が、まるで"敗北した結果"だけを押し付けられたかのように爆散した。
ハルシオン艦橋。
誰も言葉を失う。
フランだけが静かにアメスを見つめていた。
「結果を書き換えたか。」
「いや……。」
「結果を決めた。」
海面。
アメスはゆっくりと目を閉じた。
「ごめんなさい。」
爆散する兵器へ向かって、小さく頭を下げる。
「これが裁きです。」
しかし。
その声とは裏腹に。
彼女の口元には、僅かな笑みが浮かんでいた。
戦うほど。
裁くほど。
興奮が増していく。
それが彼女自身にも分かっている。
「……ふふ。」
小さな笑い声。
デウスが静かに横へ立つ。
「アメス。」
「分かっています。」
「まだ大丈夫です。」
そう答えながらも。
彼女の瞳の色は少しずつ変化していた。
グランは腕を組む。
「厄介だな。」
マランが頷く。
「あの能力。」
「十メートル以内に入れば終わりか。」
デウスが答えた。
「終わりとは限らん。」
「だが。」
「裁きを受ける。」
グランが鼻で笑う。
「俺には向かない相手だ。」
「近付けば能力。」
「離れれば近付けない。」
Compulsory executor。
The Last Judgementer。
二人とも絶対性を持つ能力。
しかし、その性質は全く違っていた。
一方。
GENESIS外郭
レイと一仁の戦いも止まっていた。
一仁が空を見上げる。
「面白ぇ女だ。」
レイは答えない。
ただ拳を構える。
「他所見をするな。」
「お前の相手は俺だ。」
一仁が笑う。
「そうだったな。」
次の瞬間。
二人が同時に地面を蹴る。
ドゴォォン!!
拳と拳。
崩壊。
衝撃波。
瓦礫が空へ舞い上がる。
千太が叫ぶ。
「また始まった!」
マリアが歯を食いしばる。
「あの二人……!」
バスティーユが笑う。
「見てるだけで胃が痛ぇ。」
マダラは静かに言う。
「だが。」
「あれは誰にも止められん。」
収容区画
結衣が最後の負傷者へ能力を使っていた。
「これで……。」
Healer。
傷口が塞がる。
だが結衣自身の足元がふらつく。
「結衣!」
イレイダが支える。
「もう十分だ。」
「でも……。」
「全員助けたい。」
イレイダは少し笑った。
「その性格。」
「変わらねぇな。」
結衣も微笑む。
「イレイダもね。」
その時だった。
燕がセツナを支えながら合流する。
「イレイダさん!」
「燕!」
結衣も駆け寄る。
「セツナさん!」
燕は頷いた。
「何とか助けられました。」
セツナはまだ意識が朦朧としている。
首元には砕けた制御装置の残骸。
イレイダがそれを見る。
「……本当に壊したのか。」
燕が小さく笑う。
「風紀委員長ですから。」
イレイダも笑った。
「頼もしいじゃねぇか。」
その空気を裂くように。
ドォォォォン!!
GENESIS全体が激しく揺れた。
「なに!?」
天井から瓦礫が落ちる。
タジの通信が入る。
『イレイダ!』
「タジ!」
『外郭の崩壊が施設全体へ広がってる!』
『一仁の能力だ!』
イレイダが天井を見る。
「ソウヤのところか。」
『このままだと施設全部が崩れる!』
イレイダが刀を握る。
「結衣。」
「燕。」
「柚季。」
「小雨。」
全員を見る。
「先に避難しろ。」
結衣が首を振る。
「イレイダは?」
「私はソウヤを援護する。」
「無茶だよ!」
「無茶じゃねぇ。」
イレイダが笑う。
「仲間を助けに行くだけだ。」
そう言って歩き出そうとした、その時。
フランから通信が入る。
『イレイダ。』
「フラン。」
『行くな。』
「は?」
『今向かえば、お前も崩壊へ巻き込まれる。』
「でも!」
『レイは一人で戦える。』
『今、お前には守るべき人間がいる。』
イレイダは振り返る。
結衣。
燕。
セツナ。
柚季。
小雨。
誰もが疲弊している。
イレイダは静かに刀を下ろした。
「……悪い。」
「分かった。」
東京湾
アメスは再び海を見渡していた。
Az兵器はまだ残っている。
しかし。
もう彼女へ近付こうとする個体はいない。
本能的に理解したのだ。
近付けば。
裁かれる。
アメスは小さく息を吐いた。
「ようやく静かになりますね。」
その時。
ゼゥテルが前へ出る。
「いや。」
「まだだ。」
シェフィルも空を見る。
「もう一つ。」
「気配があります。」
ネフィが静かに目を閉じた。
「……来ます。」
デウスも振り返る。
「そうか。」
アメスが不思議そうに尋ねる。
「まだ誰か?」
デウスは短く答えた。
「ああ。」
「もう一つの舞台が。」
「動き始める。」
その視線の先――。
崩壊するGENESIS最深部。
誰にも気付かれぬ地下深くで。
ゆっくりと。
重い扉が軋む音だけが響いていた。
第106話 完
「――審判を下します。」
アメスの声が、静かに東京湾へ響く。
その瞬間。
半径十メートル。
誰にも見えないはずの空間が、まるで透明な球体のように歪んだ。
そこへ侵入したAz無人兵器が、一斉に停止する。
「止まった……?」
ソウヤが驚く。
レイも僅かに目を細めた。
「違う。」
「もう終わっている。」
アメスは右手を静かに下ろした。
「あなたたちは――」
優しい声。
だが、その瞳は興奮で赤く染まり始めていた。
「敗北です。」
The Last Judgementer(最終審判)。
その一言だけだった。
次の瞬間。
ガギギギギギッ!!
Az兵器の装甲が、外側からではない。
内側から押し潰されるように軋み始める。
「なっ……!」
ベルトが思わず立ち上がる。
「攻撃してない!」
ドゴォォォォン!!
一機。
さらに二機。
三機。
十数機ものAz兵器が、まるで"敗北した結果"だけを押し付けられたかのように爆散した。
ハルシオン艦橋。
誰も言葉を失う。
フランだけが静かにアメスを見つめていた。
「結果を書き換えたか。」
「いや……。」
「結果を決めた。」
海面。
アメスはゆっくりと目を閉じた。
「ごめんなさい。」
爆散する兵器へ向かって、小さく頭を下げる。
「これが裁きです。」
しかし。
その声とは裏腹に。
彼女の口元には、僅かな笑みが浮かんでいた。
戦うほど。
裁くほど。
興奮が増していく。
それが彼女自身にも分かっている。
「……ふふ。」
小さな笑い声。
デウスが静かに横へ立つ。
「アメス。」
「分かっています。」
「まだ大丈夫です。」
そう答えながらも。
彼女の瞳の色は少しずつ変化していた。
グランは腕を組む。
「厄介だな。」
マランが頷く。
「あの能力。」
「十メートル以内に入れば終わりか。」
デウスが答えた。
「終わりとは限らん。」
「だが。」
「裁きを受ける。」
グランが鼻で笑う。
「俺には向かない相手だ。」
「近付けば能力。」
「離れれば近付けない。」
Compulsory executor。
The Last Judgementer。
二人とも絶対性を持つ能力。
しかし、その性質は全く違っていた。
一方。
GENESIS外郭
レイと一仁の戦いも止まっていた。
一仁が空を見上げる。
「面白ぇ女だ。」
レイは答えない。
ただ拳を構える。
「他所見をするな。」
「お前の相手は俺だ。」
一仁が笑う。
「そうだったな。」
次の瞬間。
二人が同時に地面を蹴る。
ドゴォォン!!
拳と拳。
崩壊。
衝撃波。
瓦礫が空へ舞い上がる。
千太が叫ぶ。
「また始まった!」
マリアが歯を食いしばる。
「あの二人……!」
バスティーユが笑う。
「見てるだけで胃が痛ぇ。」
マダラは静かに言う。
「だが。」
「あれは誰にも止められん。」
収容区画
結衣が最後の負傷者へ能力を使っていた。
「これで……。」
Healer。
傷口が塞がる。
だが結衣自身の足元がふらつく。
「結衣!」
イレイダが支える。
「もう十分だ。」
「でも……。」
「全員助けたい。」
イレイダは少し笑った。
「その性格。」
「変わらねぇな。」
結衣も微笑む。
「イレイダもね。」
その時だった。
燕がセツナを支えながら合流する。
「イレイダさん!」
「燕!」
結衣も駆け寄る。
「セツナさん!」
燕は頷いた。
「何とか助けられました。」
セツナはまだ意識が朦朧としている。
首元には砕けた制御装置の残骸。
イレイダがそれを見る。
「……本当に壊したのか。」
燕が小さく笑う。
「風紀委員長ですから。」
イレイダも笑った。
「頼もしいじゃねぇか。」
その空気を裂くように。
ドォォォォン!!
GENESIS全体が激しく揺れた。
「なに!?」
天井から瓦礫が落ちる。
タジの通信が入る。
『イレイダ!』
「タジ!」
『外郭の崩壊が施設全体へ広がってる!』
『一仁の能力だ!』
イレイダが天井を見る。
「ソウヤのところか。」
『このままだと施設全部が崩れる!』
イレイダが刀を握る。
「結衣。」
「燕。」
「柚季。」
「小雨。」
全員を見る。
「先に避難しろ。」
結衣が首を振る。
「イレイダは?」
「私はソウヤを援護する。」
「無茶だよ!」
「無茶じゃねぇ。」
イレイダが笑う。
「仲間を助けに行くだけだ。」
そう言って歩き出そうとした、その時。
フランから通信が入る。
『イレイダ。』
「フラン。」
『行くな。』
「は?」
『今向かえば、お前も崩壊へ巻き込まれる。』
「でも!」
『レイは一人で戦える。』
『今、お前には守るべき人間がいる。』
イレイダは振り返る。
結衣。
燕。
セツナ。
柚季。
小雨。
誰もが疲弊している。
イレイダは静かに刀を下ろした。
「……悪い。」
「分かった。」
東京湾
アメスは再び海を見渡していた。
Az兵器はまだ残っている。
しかし。
もう彼女へ近付こうとする個体はいない。
本能的に理解したのだ。
近付けば。
裁かれる。
アメスは小さく息を吐いた。
「ようやく静かになりますね。」
その時。
ゼゥテルが前へ出る。
「いや。」
「まだだ。」
シェフィルも空を見る。
「もう一つ。」
「気配があります。」
ネフィが静かに目を閉じた。
「……来ます。」
デウスも振り返る。
「そうか。」
アメスが不思議そうに尋ねる。
「まだ誰か?」
デウスは短く答えた。
「ああ。」
「もう一つの舞台が。」
「動き始める。」
その視線の先――。
崩壊するGENESIS最深部。
誰にも気付かれぬ地下深くで。
ゆっくりと。
重い扉が軋む音だけが響いていた。
第106話 完
