Psycer Brain ─ 神に抗え。その力で運命を変えろ。

東京湾――

ゼゥテルの言葉が終わった瞬間。

静まり返っていた世界が、再び音を取り戻した。

吹き止んでいた風が海面を揺らし、崩れかけたGENESISから瓦礫が落ちる。
誰も動かなかった数秒。
その沈黙を最初に破ったのは――
一仁だった。
「ははっ!」
豪快な笑い声が響く。
「いいねぇ!」
「止まってた時間も終わりか!」
一仁が拳を握る。
その周囲の瓦礫が軋み始める。

periculum(崩壊)

レイも静かに拳を構え直した。
ソウヤの意識が問いかける。
(また始まるのか。)
「ああ。」
「まだ決着はついていない。」

グラン
間宮はゆっくりと立ち上がった。
「どうします?」
「まだ続けますか。」
グランは答えない。
視線だけをデウスへ向ける。
デウスは静かに頷いた。
「好きにしろ。」
「ただし。」
「世界そのものを壊すな。」
その一言にグランは鼻で笑う。
「言われなくても分かっている。」
間宮も能力を構える。
「では。」
「研究を再開しましょう。」
二人の戦いも再び始まった。

戦艦ハルシオン・イーゼル
「敵影!」
ベルトが叫ぶ。
「Az残存部隊です!」
レーダーには無数の光点。
GENESISから脱出した無人兵器が一斉に東京湾へ展開していた。
ベルソルトが通信を開く。
『艦長!』
『数が多すぎます!』
フランは即答する。
「イーゼルは右舷。」
「ハルシオンは正面を受け持つ。」
『了解!』
二隻の巨大戦艦が同時に砲門を展開した。
ハルシオン。
イーゼル。
二隻が並び立つ姿は、まるで東京湾を守る巨大な城壁だった。
「全砲門。」
フランが静かに命じる。
「迎撃開始。」
ドォォォォォン!!
二隻から同時に砲撃が放たれる。
Az部隊が次々と爆散していく。

Genesis 第七収容区画
結衣は治療を続けていた。
「次の人!」
Healerの光が傷を癒やす。
しかし、その額には汗が浮かぶ。
「結衣。」
イレイダが肩に手を置く。
「少し休め。」
「でも……。」
「倒れたら誰も助けられない。」
結衣は悔しそうに唇を噛む。
「……分かった。」
その様子を見た燕は静かに頭を下げた。
「ありがとうございます。」
イレイダは照れくさそうに頭を掻く。
「礼は全部終わってからだ。」

名取家
惣一たちは地下祭壇を離れ、GENESIS内部を進んでいた。
夢幻が足を止める。
「……気配。」
刹那も刀へ手を添える。
「近いですね。」
惣一は静かに前を見る。
「隠れる気がない。」
通路の奥。
ゆっくりと一人の人物が歩いてくる。
黒い気配に纏われている。
オールドマンだった。
「ようやくお会いできました。」
惣一の目が細くなる。
「お前が。」
「北条セツナを実験台にした人物か。」
オールドマンは否定しない。
「能力研究とは尊いものです。」
夢幻が殺気を放つ。
「人を道具にしてまでか。」
「もちろん。」
その一言だけで、三人の空気が変わった。

覇者の集い
七柱は依然として海上から戦場を見ていた。
ペルムが腕を組む。
「始まったな。」
ネフィが頷く。
「ええ。」
ゲヴォンだけは無言。
視線はレイへ向いたままだ。
ゼゥテルが静かに言う。
「誰も手を貸すな。」
「彼ら自身が選ぶ戦いだ。」
全員が頷く。
その時だった。
シェフィルが僅かに眉を動かす。
「……。」
マコンが気付く。
「どうしました?」
シェフィルは遥か東の空を見る。
「来る。」
マオンも同じ方向を向いた。
「これは……。」
ゼゥテルの表情が初めて僅かに変わる。
デウスも視線を向ける。
「まさか。」
誰も何も言わない。
だが、その場にいる全員が理解した。
東京湾へ、新たな勢力が近づいている。
その気配は、Azでもない。
GENESISでもない。
惣一でも、グランでもない。
別の存在。
東京湾の空に、新たな波紋が広がる。
戦いは終わらない。

むしろ――
ここからさらに、世界は大きく動き始めようとしていた。

第104話 完