「トイレトイレトイレトイレ」
なんなら、前の休み時間から薄っすらトイレに行きたかった。
だが、まだいける気がして行かなかった。
もう限界はすぐそこ。
教室に戻ると、俺の席に颯太が座っている。
仕方なく机に腰を下ろした。
「深月って昔っから限界が近づくとトイレ連呼しながらトイレに行くよねっ」
「だって、限界超えたら人として終わるじゃん」
「俺、小学生の時に深月みたいにトイレ連呼する子に会ったことあるわ」
「小学生なら結構いるだろうね。高校生にもなって言ってるのは呂久村くんくらいなものだろうけど」
「一言余計なんだよ、柳」
明翔の話の腰を折るんじゃない。
「小一の時にさ、いとこの小学校の運動会に応援に行ったの。そんで、トイレに行きたくなったんだけど場所が分かんないから我慢しててさ」
「逆だろ、明翔。分かんないなら早めに動かねえと」
「次がいとこの出番って時に、いよいよ限界を迎えて母親に言ったら、一人で行ってこいって言われて」
「なかなか強気な親御さんだね。もらされても困るだろうに」
「もう半泣きでトイレ探してたらさ、トイレトイレ連呼しながら走ってる子がいて、この子絶対トイレ行くよなと思ってついていったら事なきを得たんだよね」
「ほら、トイレ連呼は小一を救うんだよ」
「小学生になったら絶対にもらさないぞ、ってプライドあるよねっ」
「そうそう!」
明翔、運動会の応援行くようないとこがいるんだ。
男なら野球やれって言うじいちゃんもいて……いいな。
本日から、体育はバスケットボールが始まる。
「二人一組でパス練習!」
二人一組か。
となれば。
「深月! 一緒にやろうぜ!」
「おう!」
身体能力オバケの明翔が相手なら、適当にやってもさばいてくれるだろう。体育を本気でやる気はない。
しかし、こういう時って教師というものは奇数か偶数か気にしていない。
うちのクラスの男子は奇数らしい。
小柄でもやしのように細っこい男子が一人、ポツーンである。
「パス練習なら、三人でもできるよね。いい?」
「いいよ」
明翔、あのもやしっ子を入れる気かな。
案の定、もやしっ子と俺と明翔、三人でトライアングルを形どる。
「君、なんて名前?」
「あの、黒岩です」
「黒岩くん、バスケ得意?」
そうには見えないだろ。
黒岩くんはオドオドと伏し目がちである。
「僕、運動全般が苦手で」
「大丈夫大丈夫! 俺大得意だよ」
何が大丈夫だと言うのだ。
明翔は笑いながら、黒岩くんにパスを出す。
さすが大得意と言うだけあって、手を出しさえすればキャッチできるゆるい球。
「い、いきます」
「どぞー」
黒岩くんは見たことないフォームでボールを横投げした。
「おわっ」
どうせ投げられないだろうと距離を詰めてはいたものの、予想しようがない変化球にダッシュアンドジャンプしてボールを取る。
「おー! よく取ったね」
「笑ってんじゃねえ!」
お前も走らせてやる!
「読み通り!」
「くっそ! 読まれてたか! 今度こそ!」
「甘い!」
「むっきー!」
「あはは! がんばって、呂久村くん!」
いつの間にか、黒岩くんの声が大きい。
明翔はすごいな。こんなド陰キャまで明るくしてしまうポジティブパワー。
俺も、こんな夢中で体育したの何年振りだろ。
女子の着替えは女子更衣室。一方、男子の着替えは教室である。
覗こうと思えば覗き放題。マジなんなん。
「明翔っていい筋肉してるよな。どんなトレーニングしてんの?」
「俺、筋肉つきやすすぎて困ってんの。野球やってる時なんか、ボディビルダー目指してる? って言われたくらい」
「もしかして、落としてこれ?」
今の明翔がボディビルダーを目指してるようには見えない。
ちょうどいい細マッチョだ。
「いただきまーす」
明翔が手を合わせ、唐揚げマヨおにぎりを頬張る。
「足りない……」
明翔が切なげに腹をさする。
そこへ、女子たちが教室に入ってきた。
「柚葉! 莉羅! なんか食うもんない?」
「おばあちゃんにもらったお団子持ってきてるよ。あげるー」
「ありがとう!」
うれしそうに笑って大きな口を開け、団子を頬張る。
明翔って、男子でも女子でもまるで対応が変わらない。
おにぎりは、さっき同じように声をかけた淀橋からもらったものだった。
俺には明確にボーダーラインがあって、俺が話す女子は安心安全なゆりくらい。
男子女子で変わらないってか、誰に対しても明翔って明翔なんだよな。
誰にでも気軽に声をかけて、誰とでもすぐお友達になってしまう。
「高崎くん、良かったらこれ食べて」
「いいの?! 購買で一番高いカツサンドじゃん!」
黒岩くんが頬を赤らめつつ、カツサンドを差し出す。
もはや貢ぎ物じゃね。
だが黒岩くん、俺は親友だから。
いくら貢いだとて、ボーダーレスの明翔にとって、ただの友達は他人と同義だから。
てか、この休み時間だけでどんだけ食うんだよ。
「明翔もしかして、野球やってた時と食う量変わってねえんじゃね?」
「変わってないねえ」
「明らか食いすぎだよ!」
「だって腹が減るんだもん」
「家でもこのペースで食ってんの?」
「家帰ってまず食って、晩メシ作りながら食って、風呂上りに夜食食ってる」
「さすがに太るぞ! てか、明翔がメシ作ってんだ? 偉いね」
「へへっ。深月は? ママが作ってくれるの?」
「俺んち、父親いなくて母親と二人なんだけど」
「お! 俺も俺も! おっそろー」
へーい、と明翔とハイタッチする。
「なんだけど、母親が去年の秋から単身赴任しててさ。家に俺だけなの」
「そうなんだ。メシどうしてんの?」
「帰りにコンビニで弁当買ってる」
「毎日コンビニ弁当? 飽きない?」
「飽きたらルート変えてコンビニ変えてる」
「まじか。じゃー、俺が作りに行く!」
「え」
まじか。
俺の財力でこの食のバケモノが満足いくだけの食材を買えるだろうか。
なんなら、前の休み時間から薄っすらトイレに行きたかった。
だが、まだいける気がして行かなかった。
もう限界はすぐそこ。
教室に戻ると、俺の席に颯太が座っている。
仕方なく机に腰を下ろした。
「深月って昔っから限界が近づくとトイレ連呼しながらトイレに行くよねっ」
「だって、限界超えたら人として終わるじゃん」
「俺、小学生の時に深月みたいにトイレ連呼する子に会ったことあるわ」
「小学生なら結構いるだろうね。高校生にもなって言ってるのは呂久村くんくらいなものだろうけど」
「一言余計なんだよ、柳」
明翔の話の腰を折るんじゃない。
「小一の時にさ、いとこの小学校の運動会に応援に行ったの。そんで、トイレに行きたくなったんだけど場所が分かんないから我慢しててさ」
「逆だろ、明翔。分かんないなら早めに動かねえと」
「次がいとこの出番って時に、いよいよ限界を迎えて母親に言ったら、一人で行ってこいって言われて」
「なかなか強気な親御さんだね。もらされても困るだろうに」
「もう半泣きでトイレ探してたらさ、トイレトイレ連呼しながら走ってる子がいて、この子絶対トイレ行くよなと思ってついていったら事なきを得たんだよね」
「ほら、トイレ連呼は小一を救うんだよ」
「小学生になったら絶対にもらさないぞ、ってプライドあるよねっ」
「そうそう!」
明翔、運動会の応援行くようないとこがいるんだ。
男なら野球やれって言うじいちゃんもいて……いいな。
本日から、体育はバスケットボールが始まる。
「二人一組でパス練習!」
二人一組か。
となれば。
「深月! 一緒にやろうぜ!」
「おう!」
身体能力オバケの明翔が相手なら、適当にやってもさばいてくれるだろう。体育を本気でやる気はない。
しかし、こういう時って教師というものは奇数か偶数か気にしていない。
うちのクラスの男子は奇数らしい。
小柄でもやしのように細っこい男子が一人、ポツーンである。
「パス練習なら、三人でもできるよね。いい?」
「いいよ」
明翔、あのもやしっ子を入れる気かな。
案の定、もやしっ子と俺と明翔、三人でトライアングルを形どる。
「君、なんて名前?」
「あの、黒岩です」
「黒岩くん、バスケ得意?」
そうには見えないだろ。
黒岩くんはオドオドと伏し目がちである。
「僕、運動全般が苦手で」
「大丈夫大丈夫! 俺大得意だよ」
何が大丈夫だと言うのだ。
明翔は笑いながら、黒岩くんにパスを出す。
さすが大得意と言うだけあって、手を出しさえすればキャッチできるゆるい球。
「い、いきます」
「どぞー」
黒岩くんは見たことないフォームでボールを横投げした。
「おわっ」
どうせ投げられないだろうと距離を詰めてはいたものの、予想しようがない変化球にダッシュアンドジャンプしてボールを取る。
「おー! よく取ったね」
「笑ってんじゃねえ!」
お前も走らせてやる!
「読み通り!」
「くっそ! 読まれてたか! 今度こそ!」
「甘い!」
「むっきー!」
「あはは! がんばって、呂久村くん!」
いつの間にか、黒岩くんの声が大きい。
明翔はすごいな。こんなド陰キャまで明るくしてしまうポジティブパワー。
俺も、こんな夢中で体育したの何年振りだろ。
女子の着替えは女子更衣室。一方、男子の着替えは教室である。
覗こうと思えば覗き放題。マジなんなん。
「明翔っていい筋肉してるよな。どんなトレーニングしてんの?」
「俺、筋肉つきやすすぎて困ってんの。野球やってる時なんか、ボディビルダー目指してる? って言われたくらい」
「もしかして、落としてこれ?」
今の明翔がボディビルダーを目指してるようには見えない。
ちょうどいい細マッチョだ。
「いただきまーす」
明翔が手を合わせ、唐揚げマヨおにぎりを頬張る。
「足りない……」
明翔が切なげに腹をさする。
そこへ、女子たちが教室に入ってきた。
「柚葉! 莉羅! なんか食うもんない?」
「おばあちゃんにもらったお団子持ってきてるよ。あげるー」
「ありがとう!」
うれしそうに笑って大きな口を開け、団子を頬張る。
明翔って、男子でも女子でもまるで対応が変わらない。
おにぎりは、さっき同じように声をかけた淀橋からもらったものだった。
俺には明確にボーダーラインがあって、俺が話す女子は安心安全なゆりくらい。
男子女子で変わらないってか、誰に対しても明翔って明翔なんだよな。
誰にでも気軽に声をかけて、誰とでもすぐお友達になってしまう。
「高崎くん、良かったらこれ食べて」
「いいの?! 購買で一番高いカツサンドじゃん!」
黒岩くんが頬を赤らめつつ、カツサンドを差し出す。
もはや貢ぎ物じゃね。
だが黒岩くん、俺は親友だから。
いくら貢いだとて、ボーダーレスの明翔にとって、ただの友達は他人と同義だから。
てか、この休み時間だけでどんだけ食うんだよ。
「明翔もしかして、野球やってた時と食う量変わってねえんじゃね?」
「変わってないねえ」
「明らか食いすぎだよ!」
「だって腹が減るんだもん」
「家でもこのペースで食ってんの?」
「家帰ってまず食って、晩メシ作りながら食って、風呂上りに夜食食ってる」
「さすがに太るぞ! てか、明翔がメシ作ってんだ? 偉いね」
「へへっ。深月は? ママが作ってくれるの?」
「俺んち、父親いなくて母親と二人なんだけど」
「お! 俺も俺も! おっそろー」
へーい、と明翔とハイタッチする。
「なんだけど、母親が去年の秋から単身赴任しててさ。家に俺だけなの」
「そうなんだ。メシどうしてんの?」
「帰りにコンビニで弁当買ってる」
「毎日コンビニ弁当? 飽きない?」
「飽きたらルート変えてコンビニ変えてる」
「まじか。じゃー、俺が作りに行く!」
「え」
まじか。
俺の財力でこの食のバケモノが満足いくだけの食材を買えるだろうか。

