女子たちの誘いを断って、柳龍二が弁当箱を持って颯太の隣の席に座った。
「僕はパンツが好きなんだ」
「なんだ、いきなり」
「まずは佐藤くんに僕のことを知ってもらおうと思って」
「まず伝えたい情報がパンツなのか」
「そうだ」
ならば言うことは何もない。
てか、なんなん、コイツ。
「大きくて派手なトランクスがいい」
「お前のパンツかよ」
「いや、僕自身はパンツを履かない主義なんだ。パンツは主に見る」
「主にてなんだよ」
「え。今もパンツ履いてねえの?」
颯太の眉間にしわが刻まれる。
が、柳はむしろパッとうれしそうに笑った。
「体育のある日は履いているよ」
「パンツは履けよ。毎日スラックス洗濯するんじゃねえんだから汚れ――ズボンが汚れちゃうよっ」
うん、ギリギリアウトかな、颯太くん。
「ということは、佐藤くんはパンツを履く派なんだね。僕も毎日履くようにするよ。僕たち、お揃いだね」
ほぼ全人類がお揃いだと思うんだが。
イケメンメガネ王子はパンツ王子でもあったのか。柳がこんな変態だとは知らなかった。
「あーん」
「あーん。ん! うまい!」
「よかったあ」
「このお、料理上手♡」
「昇くんのためにがんばったんだよ♡」
思わず、隣の光景を二度見してしまう。
円川昇と末行ありさが弁当をつついている。
「あの二人、付き合いだしたらしいよっ」
「このクラス初のカップル誕生っすか」
「いいなあ。俺も彼女ほしい」
「彼女?!」
明翔が彼女などと言うものだから、びっくりして大声が出てしまった。
円川と末行がクスクス笑うのが聞こえて、イラッとする。
「深月はほしくないの? 彼女」
「俺はいい」
「深月は元カノになかなかのトラウマがあるから、触れないであげてよっ」
「そうなの? どんな元カノ?」
触れないであげてと颯太は言ったはずなんだが、明翔は興味深々の顔をしている。
「夜中にこっちが眠れなくなるような病みメッセージ延々と送ってきたり、SNSに反応しなかったら自殺を匂わせるポエム投稿されたり、友達からの電話に出たらスマホ破壊されたり、日直のペアの子としゃべってたら椅子で殴られたり」
「彼女がいるとそんな目に遭うの?!」
「そうだぞ、明翔。だから、彼女がほしいなんて思うな」
「深月はモテるから、彼女が不安になって束縛しちゃうんだよねっ」
「へえ、深月モテるんだ」
モテる理由は身長の一点だがな。
俺の背が高いから付き合いたいという女子は思いのほか多い。
「明翔こそモテるだろ」
「綺麗な顔してるもんねっ」
「俺、全然モテないよ。女子からは男として見れないって言われる」
「たしかに、高崎くんよりかわいい女子は見たことがないね」
「はあ、俺の顔が美しすぎるから……」
「嫌味なため息な」
そうそう彼女はできなさそうだな。
って、なにをホッとしてんだ、俺は。
「佐藤くんは? 佐藤くんの好みを聞かせてもらいたい」
「俺は好みなどない。ただ、俺が愛する女は生涯ただ一人と決めている」
「さすが佐藤くんだ! かっこいいよ!」
柳が手を叩いて喜んでいるが、実は颯太は惚れっぽい。
だが、任侠道に生きる颯太はお前絶対好きだろ、って子でも絶対に好きだとは認めない。
かつ丼を食べ終えた明翔がニコニコで大盛り明太バターパスタのビニールをバリイッと破る。
綺麗な顔に似つかわしくないワイルドっぷり。
勢いあまって、フタの上に載っていたフォークが飛んだ。
明翔は見失ったのだろう、絶望の顔をする。
だが安心あれ。
俺は見えとる。
サッとフォークをナイスキャッチし、明翔へと差し出した。
「ありがとう! 深月、動体視力いいんだね」
「そうなんかな」
明翔はあっという間にパスタを食べ終え、フタを戻すとフォークでツンツンとつつく。
ん?
いつも元気な明翔にしては、なんか……。
「俺、運動神経は抜群なんだけど動体視力が弱点でさ。よくエラーしちゃって」
「ああ、中学まで野球やってたんだっけか。それでやめたの?」
「別に、好きでやってたんじゃないからやめた」
「好きじゃないのになんで野球始めたの?」
「じいちゃんが好きだったの。じいちゃんは娘しかいなかったからさ、男の俺が生まれて、絶対に野球やれっつって。地元の結構有名なリーグ入ったりして」
「野球やめたん、じいちゃんに怒られた?」
「死んだの。中学校の入学式の日に」
「え」
「張り切って早起きしてさ、制服着てじいちゃん起こしに行ったんだけど、全然起きないの。寝てる間に心筋梗塞起こしたんだろうって」
「ええ……」
「だから別に、中学で野球続けなくてもよかったんだけど、なんか、じいちゃんの弔いになる気がして」
中学校の入学式。
俺が一条がいないことに絶望してた時、明翔は……。
「じゃあ、入学式は……」
「いきなり忌引きで休んだ。でも、初めて登校した日に校長室でミニ入学式やってくれた」
明翔の笑顔がカラ元気に見えるのなんて初めてだ。
どうにか、元気付けたい。
明翔の手からサッとフォークを奪う。
「取り返してみろよ、明翔」
「お! その挑戦、乗った!」
椅子から立ち上がるのは反則な気がして、めいっぱい体を反らしたり、腕を伸ばして明翔の攻撃をかわす。
俺の方が十センチくらい背が高いから、リーチは俺が有利なはず。
なのに、この身体能力オバケは動きが素早すぎて、一瞬たりとも気が抜けない。
「深月、牛乳――」
「わっ。危ねえ!」
俺がまさに腕を伸ばそうとしたところに、颯太が立ち上がった。
腕は止まらない。
パッとフォークを手放し、とっさに足を使って颯太を避ける。
と、勢いあまって倒れ込んでしまった。
「キャー!」
女子の悲鳴が聞こえて、改めて自分の状態を確認する。
末行を押し倒すような形で、末行の顔の横に左手、右手は、末行の胸を鷲掴んでいる。
「ごめん!」
慌てて膝立ちで体を離した。
「呂久村! 俺の彼女に何してんだよ!」
「わざとじゃねえんだって! 見ての通り事故なの!」
「お前なんか見てねえよ! 先生に言いつけてやるー!」
「待っ――」
小学生かよ。
円川は、末行を起こすと手を引いて教室を出て行った。
すぐさま、担任の工藤先生が飛び込んでくる。
「呂久村! 白昼堂々、痴漢行為を働いたというのは本当か?!」
「違うんだって! ただ胸もんだだけで――違う! ただの事故で」
「職員室に来なさい!」
工藤先生は化学担当なのだが、白いタンクトップで見事な筋肉を見せつけている。
ものすごい力で、職員室まで連行された。
延々説教を受け、解放されるまで十分は要しただろうか。
「失礼しましたぁ……」
すっかり意気消沈して、職員室を出る。
廊下には、明翔と颯太がニヤニヤしながら待ちぶせる。
「なんで俺だけ怒られてんだよ!」
「痴漢したのは深月だけだもん」
「俺、なんもしてないしねっ」
「ムカつく!」
今さらながら理不尽さに腹が立つ。
怒りのまま、壁をドンッと殴った。
俺の胸元に、明翔がサッと入り込む。
「俺の胸なら、もんでも怒られねえよ」
この状況であおってくるとは、コイツ空気を読むってことを知らねえ。
「血ぃ出るまでもんでやる!」
「いやん、優しくして?」
明翔がシャツの襟元を押さえながら、上目遣いに俺を見上げる。
盛大にドキーッとして、思わず体が硬直してしまった。
「こんなかってー胸板もんだところで、なんもおもしろくねえわ」
ハッと気付くと、颯太が明翔の胸をペタペタと触っている。
「やめなさい! 颯太!」
「は? なんで?」
いやマジで、なんでこんなドキドキしてんだろ。
首をかしげて俺を見る明翔を、なんだか直視できなかった。
「僕はパンツが好きなんだ」
「なんだ、いきなり」
「まずは佐藤くんに僕のことを知ってもらおうと思って」
「まず伝えたい情報がパンツなのか」
「そうだ」
ならば言うことは何もない。
てか、なんなん、コイツ。
「大きくて派手なトランクスがいい」
「お前のパンツかよ」
「いや、僕自身はパンツを履かない主義なんだ。パンツは主に見る」
「主にてなんだよ」
「え。今もパンツ履いてねえの?」
颯太の眉間にしわが刻まれる。
が、柳はむしろパッとうれしそうに笑った。
「体育のある日は履いているよ」
「パンツは履けよ。毎日スラックス洗濯するんじゃねえんだから汚れ――ズボンが汚れちゃうよっ」
うん、ギリギリアウトかな、颯太くん。
「ということは、佐藤くんはパンツを履く派なんだね。僕も毎日履くようにするよ。僕たち、お揃いだね」
ほぼ全人類がお揃いだと思うんだが。
イケメンメガネ王子はパンツ王子でもあったのか。柳がこんな変態だとは知らなかった。
「あーん」
「あーん。ん! うまい!」
「よかったあ」
「このお、料理上手♡」
「昇くんのためにがんばったんだよ♡」
思わず、隣の光景を二度見してしまう。
円川昇と末行ありさが弁当をつついている。
「あの二人、付き合いだしたらしいよっ」
「このクラス初のカップル誕生っすか」
「いいなあ。俺も彼女ほしい」
「彼女?!」
明翔が彼女などと言うものだから、びっくりして大声が出てしまった。
円川と末行がクスクス笑うのが聞こえて、イラッとする。
「深月はほしくないの? 彼女」
「俺はいい」
「深月は元カノになかなかのトラウマがあるから、触れないであげてよっ」
「そうなの? どんな元カノ?」
触れないであげてと颯太は言ったはずなんだが、明翔は興味深々の顔をしている。
「夜中にこっちが眠れなくなるような病みメッセージ延々と送ってきたり、SNSに反応しなかったら自殺を匂わせるポエム投稿されたり、友達からの電話に出たらスマホ破壊されたり、日直のペアの子としゃべってたら椅子で殴られたり」
「彼女がいるとそんな目に遭うの?!」
「そうだぞ、明翔。だから、彼女がほしいなんて思うな」
「深月はモテるから、彼女が不安になって束縛しちゃうんだよねっ」
「へえ、深月モテるんだ」
モテる理由は身長の一点だがな。
俺の背が高いから付き合いたいという女子は思いのほか多い。
「明翔こそモテるだろ」
「綺麗な顔してるもんねっ」
「俺、全然モテないよ。女子からは男として見れないって言われる」
「たしかに、高崎くんよりかわいい女子は見たことがないね」
「はあ、俺の顔が美しすぎるから……」
「嫌味なため息な」
そうそう彼女はできなさそうだな。
って、なにをホッとしてんだ、俺は。
「佐藤くんは? 佐藤くんの好みを聞かせてもらいたい」
「俺は好みなどない。ただ、俺が愛する女は生涯ただ一人と決めている」
「さすが佐藤くんだ! かっこいいよ!」
柳が手を叩いて喜んでいるが、実は颯太は惚れっぽい。
だが、任侠道に生きる颯太はお前絶対好きだろ、って子でも絶対に好きだとは認めない。
かつ丼を食べ終えた明翔がニコニコで大盛り明太バターパスタのビニールをバリイッと破る。
綺麗な顔に似つかわしくないワイルドっぷり。
勢いあまって、フタの上に載っていたフォークが飛んだ。
明翔は見失ったのだろう、絶望の顔をする。
だが安心あれ。
俺は見えとる。
サッとフォークをナイスキャッチし、明翔へと差し出した。
「ありがとう! 深月、動体視力いいんだね」
「そうなんかな」
明翔はあっという間にパスタを食べ終え、フタを戻すとフォークでツンツンとつつく。
ん?
いつも元気な明翔にしては、なんか……。
「俺、運動神経は抜群なんだけど動体視力が弱点でさ。よくエラーしちゃって」
「ああ、中学まで野球やってたんだっけか。それでやめたの?」
「別に、好きでやってたんじゃないからやめた」
「好きじゃないのになんで野球始めたの?」
「じいちゃんが好きだったの。じいちゃんは娘しかいなかったからさ、男の俺が生まれて、絶対に野球やれっつって。地元の結構有名なリーグ入ったりして」
「野球やめたん、じいちゃんに怒られた?」
「死んだの。中学校の入学式の日に」
「え」
「張り切って早起きしてさ、制服着てじいちゃん起こしに行ったんだけど、全然起きないの。寝てる間に心筋梗塞起こしたんだろうって」
「ええ……」
「だから別に、中学で野球続けなくてもよかったんだけど、なんか、じいちゃんの弔いになる気がして」
中学校の入学式。
俺が一条がいないことに絶望してた時、明翔は……。
「じゃあ、入学式は……」
「いきなり忌引きで休んだ。でも、初めて登校した日に校長室でミニ入学式やってくれた」
明翔の笑顔がカラ元気に見えるのなんて初めてだ。
どうにか、元気付けたい。
明翔の手からサッとフォークを奪う。
「取り返してみろよ、明翔」
「お! その挑戦、乗った!」
椅子から立ち上がるのは反則な気がして、めいっぱい体を反らしたり、腕を伸ばして明翔の攻撃をかわす。
俺の方が十センチくらい背が高いから、リーチは俺が有利なはず。
なのに、この身体能力オバケは動きが素早すぎて、一瞬たりとも気が抜けない。
「深月、牛乳――」
「わっ。危ねえ!」
俺がまさに腕を伸ばそうとしたところに、颯太が立ち上がった。
腕は止まらない。
パッとフォークを手放し、とっさに足を使って颯太を避ける。
と、勢いあまって倒れ込んでしまった。
「キャー!」
女子の悲鳴が聞こえて、改めて自分の状態を確認する。
末行を押し倒すような形で、末行の顔の横に左手、右手は、末行の胸を鷲掴んでいる。
「ごめん!」
慌てて膝立ちで体を離した。
「呂久村! 俺の彼女に何してんだよ!」
「わざとじゃねえんだって! 見ての通り事故なの!」
「お前なんか見てねえよ! 先生に言いつけてやるー!」
「待っ――」
小学生かよ。
円川は、末行を起こすと手を引いて教室を出て行った。
すぐさま、担任の工藤先生が飛び込んでくる。
「呂久村! 白昼堂々、痴漢行為を働いたというのは本当か?!」
「違うんだって! ただ胸もんだだけで――違う! ただの事故で」
「職員室に来なさい!」
工藤先生は化学担当なのだが、白いタンクトップで見事な筋肉を見せつけている。
ものすごい力で、職員室まで連行された。
延々説教を受け、解放されるまで十分は要しただろうか。
「失礼しましたぁ……」
すっかり意気消沈して、職員室を出る。
廊下には、明翔と颯太がニヤニヤしながら待ちぶせる。
「なんで俺だけ怒られてんだよ!」
「痴漢したのは深月だけだもん」
「俺、なんもしてないしねっ」
「ムカつく!」
今さらながら理不尽さに腹が立つ。
怒りのまま、壁をドンッと殴った。
俺の胸元に、明翔がサッと入り込む。
「俺の胸なら、もんでも怒られねえよ」
この状況であおってくるとは、コイツ空気を読むってことを知らねえ。
「血ぃ出るまでもんでやる!」
「いやん、優しくして?」
明翔がシャツの襟元を押さえながら、上目遣いに俺を見上げる。
盛大にドキーッとして、思わず体が硬直してしまった。
「こんなかってー胸板もんだところで、なんもおもしろくねえわ」
ハッと気付くと、颯太が明翔の胸をペタペタと触っている。
「やめなさい! 颯太!」
「は? なんで?」
いやマジで、なんでこんなドキドキしてんだろ。
首をかしげて俺を見る明翔を、なんだか直視できなかった。

