初恋ドッペルゲンガー

我が聖天坂(しょうてんざか)高校は、全体の半分以上が四年制大学に進学するそこそこの進学校である。

「二年一組の学級委員長は(やなぎ)龍二(りゆうじ)くんに決定しました。柳くんから一言」
「はい」

肩につく金髪の右側だけ赤いピンで×バッテンに留め、メガネをかけた柳がにこやかに黒板の前に立った。
キャーと女子の歓声が飛ぶ。

「一年の時はすべてのテストで学年一位でした。さらに、無遅刻無欠席を誇るこの僕に安心してついてきてもらって構わない」

頭いいくせに顔もいいとか、嫌味なヤツめ。
俺なんか、奇跡的に聖天坂に受かったってのに。成績なんか下も下だわ。

チャイムが鳴ると、佐藤颯太がテテッとやってくる。

「深月! 明翔! ゲーセン行くよっ」
「あいあい」
「絶対俺が勝つ! しゃあ!」

すごい気合いの入れよう。
まさか、一条そっくりの中性的な美形でこんな熱い男だとはびっくりだわ。

ゲーセンへ向かうべく商店街に入ると、人だかりが目に入った。
背の高い柳の顔が女子に囲まれていても見える。

颯太も気付いたようで、かわいいフリを忘れて険しい表情になった。
任侠道に生きる颯太は、柳のような女に囲まれてチャラチャラ喜ぶ男が嫌いである。

「イケメンメガネ王子か」
「何それ?」
「柳龍二の別名」
「別名って」

あはは! と明翔が爆笑である。
知らなかったらしいな。俺のクラスでも一年の時話題になってたけど。

「なんだ、あの金髪。モテやがって、ムカつく」
「女の前でイケメンに一発ずつ入れてやろーぜ」
「高身長が。ほえ面かかせてやる」
「俺が一番乗りでやってやる!」

見るからに柄の悪そうな男が四人。うち一人が走り出した。

「金髪って、柳のことかなっ?」
「イケメンと高身長は聞こえてないのな」
「やってやるって、何をやるんだろ?」

明翔は上品な育ちらしい。首をかしげる。

男は女子をかき分け柳の前に立つと、おもむろにドンと胸を押した。柳がよろめく。

「キャー!」

響き渡る悲鳴。走り出す颯太。

「颯太!」
「颯太は大丈夫! 俺らも行こう!」

柳と女子を路肩に集め、とりあえず保護完了。

「佐藤くん!」
「大丈夫だから、大人しくしてろ」

柳が心配そうに身を乗り出すが、あんなヤンキーどもが颯太の三人の兄一人の姉よりも凶悪だとは思えない。
ちょっと目を離した隙に、すでに三人がアスファルトでおねんねである。

最後の一人は三人ほど愚かではないようで、後ずさりすると、クルリと颯太に背を向けて走り出した。
ハッと何かに気付いた様子を見せ、こちらへと走ってくる。

「かわいいじゃん。俺と付き合ってよ」

なんと、男は明翔の手首をつかんだ。
反射的に、その男の手首をつかんでひねり上げる。

「なんだよ。お前の女か」
「俺は友達だ」
「ただの友達がなに――フゴッ」
「ゲフッ」

颯太が男に跳び蹴りし、男の額が俺のおでこに衝突した。

「いてえよ、颯太!」
「ごめんごめんっ。ゲーセン行こ!」

颯太が笑顔でヤンキーどもの背中を踏みつけながらこちらへとやってくる。
あんまりパンピーはそういうことしないと思うよ、颯太。

「佐藤くん! 僕も一緒に行ってもいいかな」
「別にいいけど」
「君たち、気を付けて帰ってね」

柳の解散宣言に、女子たちの不満の声が湧く。
が、柳は意に介さない様子で颯太に頭を下げた。

「すまない、佐藤くん。僕のせいで危険な目に遭わせてしまって」
「別にいいよっ」
「親から常々言われていたんだ。トラブルに巻き込まれやすくなるから、目立つ金髪はやめるようにって……。でも、モテたかったから」
「金髪だからってモテねえよ」

颯太にはしおらしい顔してたくせに、柳は俺にはバカにしたような目を向ける。

「頭が残念な呂久村くんにも分かるように説明すると、ポイントはギャップだよ。優等生なのに金髪、金髪なのにメガネ」
「そんな分かりやすいギャップでモテると思ってるお前の頭が残念だわ!」
「柳」

颯太が(おとこ)の顔してまっすぐに柳の目を見つめた。

「親になんと言われようとも、お前はお前が思うように生きろ。それが危険だと言うなら、俺が守ってやる」

さすが颯太だ!
かっこいい!

柳も目を輝かせている。

「ゲーセンに着いたよっ。きゅるりんっ」

さすがは颯太。
失った「かわいい」を取り返すため、謎の擬音を忘れない。

「より大きい景品を取った方が勝ちでいいっ?」
「いいよ!」
「佐藤くん、僕大きい景品を探してくるよ!」

三者三様に走り出す。
俺は興味がないので、スロットコーナーに座る。

あっという間にメダルが尽きてしまった。
やべ。今週の生活費が……。
俺、大人になってもギャンブルには手を出しちゃダメだな。金が尽きるまでやってしまう。

仕方なくプラプラとクレーンゲームを見ていて、とある機体にへばりついた。

「深月、何してんの?」
「明翔! 見てこれ! 世紀末フェアリーズワンダホーのフィギュアがある!」
「世紀末、なんて?」
「フェアワン知らねえ? 俺、あの赤いキャラが大好きなの!」

精霊使いのウィウィ。
世紀末フェアリーズワンダホーは、深夜にやってる俺的人気アニメである。

明翔がコインを入れ、真剣な顔をしてボタンをタッチする。
二回ほど両替に行き、少しずつ少しずつウィウィが獲得口に近付いてくる。

「すげえ! いけそう! いける! いけるよ、明翔!」

ついに、真っ赤な箱が落ちた!

「やったー! すげえ! すげえよ、明翔!」

しゃがみ込んで景品を取る明翔の背中をバシバシ叩いてしまう。
興奮が冷めない。

「ねえ」
「ん?」
「なんで、ヤンキーに絡まれた時、男だじゃなくて友達だって言ったの?」
「あ」

言われてみれば、彼は明翔を女だと誤解していたのだろうから、親切に「この子、男だよ」って教えてあげれば良かっただけか。

「なんか、出てこなかった」
「もしかして、まだ俺のこと女だと思ってる? 脱ごうか?」

明翔の手がベルトをカチャカチャ言わせる。
慌てて、明翔の手に手を重ねて止めた。

「脱がんでいい! 分かってる! 明翔は男だ!」
「ほんと?」
「ほんと!」

明翔がニコッと笑った。

「ありがとう。うれしかったよ、守ってくれて」

胸がドキッとした。

なんっちゅう、素直な礼の言葉……。
心臓の鼓動が速まる、忘れてた感覚が沸き上がってくる。

明翔が赤い箱を差し出した。

「あげる」
「え。いいの?」
「だって、すっげえ大声出すんだもん。めっちゃ好きなんでしょ」
「ありがとう!」

うわ、すっげえうれしい!
箱を受け取り、しげしげと見つめる。

ウィウィだ……!

「明翔! 深月のすげえ大声が聞こえたけど、そんなに大きい景品が取れたのっ?」
「これだよ」
「なんだ、ちっせーじゃん。俺の勝ちだ!」

颯太が大きなぬいぐるみを抱えてガッツポーズを決めている。

「あ! 大きさ勝負なの忘れてた! ごめん、明翔!」
「いいよ。勝負に勝つより、深月が喜んでくれた方がうれしい」

明翔の言葉と笑顔が全身に染み渡っていく。
俺たち、今日初めてしゃべったばっかだけど、こんなにも心がスムーズに通わせられるなんて。

「ありがとな! 親友!」
「おうよ! 親友!」

俺と明翔は、ガシッと腕と腕をぶつけ合い、親友となった。