初恋ドッペルゲンガー

昼休みのチャイムが鳴ると、颯太がテテッとこちらへ走ってくる。

「颯太、ここで食う?」
「もっと誰もいないところがいいなっ」

はいはい、仰せのままに。

教室を出ようとしたら、女子の声が聞こえた。

「佐藤くん、かわいいー」
「ねえ。超ショタ」

颯太にも聞こえたのであろう、テテッと階段へ向かう。歩き方まで、完璧にかわいい。

颯太と二人階段を上り、屋上へと出る。
今日は天気がいい。さんさんと日光が照らしつける。

暑いだろうに、制服でも強引に「かわいい」を引き出すため着こんでいるパーカーを颯太が脱ぎ、俺が受け取る。

「よし、誰もいないかなっ」
「こんな暑さじゃ、誰も寄り付かねえよ」
「マジで暑いな。太陽ぶっ殺してえ」
「お前が死ぬよ、颯太」
「深月、牛乳買ってあるか」
「あいあい。金は寄越せよ」
「あい」
「あい。毎度あり」

コンクリートに座り込み、パック牛乳を渡す。
大きなメロンパンにパクッとかぶりつく様はまさにショタ。小さい男の子そのものだ。

「なあ、深月。ショタってなんだ」
「……さあ?」
「女子が言ってた気がするんだけど」
「颯太の聞き間違いじゃね?」
「そうか。……そうか?」

颯太とショタじゃちょっと無理あるか。

「ふう。ちょっと休憩」

颯太が大きなメロンパンを袋に入れ込み、スマホを手に取った。

「深月もこのゲームやれよ。ビジュはもちろん最高なんだけどよ、ストーリーが秀逸でよ」
「俺、任侠ゲームに一ミリも興味持てねえんだわ。それより何、画面のバキバキっぷり」
「ゆうべ、酔った兄貴が姉貴の足踏んで、怒った姉貴がこれを投げやがったの」
「ヤンキー一家の日常な」
「他人事だと思って」

佐藤颯太は苦労人だと思う。

両親、三人の兄、一人の姉、みんな元ヤン。しかも、兄と姉は全員年子なのに、颯太だけ年が離れている。

俺が幼稚園で颯太と出会った時、すでに颯太はヤンキーデビュー済みだった。
金髪でサングラスを愛用し、他の子供より二回り以上体が大きい颯太は、先生に逆らい、いじめっ子を成敗し、障害がある子の面倒を積極的に見て、さくらようちえんをシメた。

小学校に上がるとすぐ、当時の六年生をも倒し、力で桜小学校をシメた。

颯太ならどこまでも上りつめられる。
どこまでいくのか、俺も見届けたい!

だが、颯太を突然の不幸が襲う。
身長が百五十五センチでピタリと止まったのだ。

しかも、俺たちが進学する桜第三中学校はヤンキーが多いで有名な治安の悪い中学校だった。
体の小さいヤンキーなんて、どんな末路をたどるか火を見るよりも明らか。

そこで、颯太は正反対に舵を切った。

ヤンキーを封印し、「かわいい」に全振りしたのだ。
金髪を黒く染め、サングラスを外し、制服をきちんと着こなした。

気合い入ったヤンキーの颯太が黒目クリクリのかわいい優等生になっているとは、誰も気付かなかった。
佐藤颯太という、オーソドックスな名前も良かったんだろう。
俺の名前じゃそうはいかない。

気付いたのは、颯太に憧れコバンザメのようにくっついていたこの俺、呂久村深月くらいなものだった。


「いた! 探したよー、深月! 颯太!」
「わっ。明翔だー」
「置いてくなんてひどいじゃん、一緒に食おうよ」
「もちろん! いいよっ」

慌ててパーカーを渡すと、颯太は素早く着込む。
焦りと暑さで汗をかいているが、ニコニコかわいい笑顔を振りまく。

かわいいけど、放置されているスマホは入れ墨選択画面だよ、颯太。

明翔も座り込み、特盛たらこパスタとチキン南蛮弁当をあっという間に食べきってしまう。

「明翔、すげえ食うな!」
「足りない……」

明翔が切なげに腹をさする。
そして、明翔の目が半分ほど残っている大きなメロンパンにロックオンした。

「俺が食べかけのやつなんだけど」
「一口ちょうだい!」
「は?」

明翔は大きな一口でかぶりつくと、ありがと、と颯太に返そうとする。
颯太の眉間には、しわが刻まれた。

「男がかじったパンなんかいらねえ。やる」
「いいの? ありがとう! 颯太、いいヤツだな! いただきまーす!」

飲むように、大きなメロンパンが一瞬で消えた。

「購買で売ってる食いもんで一番大きいからよく買うんだけどさあ、物足りない」
「三秒で食べるとか見栄張ってたねっ、明翔」
「マジで食う。子供のお菓子じゃん、メロンパンなんて」

なおも切なげに腹をさする明翔だが、ダメダメ、思いっきり地雷踏み抜いてるよ。

颯太は小食で、高校入学当時は一度で大きなメロンパンが食べられなかった。
がんばって少しずつ食べられる量が増え、やっと丸ごと食べられるようになったので、胃が小さくなってしまわないように定期的に食べているのだ。

「明翔、放課後ヒマかなあっ?」
「ヒマヒマ! どっか遊びに行こうよ!」
「ゲーセン行こ! クレーンゲームで勝負だよっ」
「よし、乗った! ぜってー負けねえ!」
「勝つのは俺だよ、カワイ子ちゃん」
「カワイ子ちゃん言うな、チビッ子」

両者ともに不敵に笑う。

「仲良しねえ、君ら」
「深月も行くんだよっ」
「ええー」

颯太の家の近くにはヤンキーの巣窟となっているゲームセンターがある。
昔からよく家族で行くのだが、唯一颯太が勝てるのがクレーンゲームなのでクレーンゲームばっかりやって、すっかり得意なのである。

颯太、完全になめきってる明翔をシメるつもりじゃん。