初恋ドッペルゲンガー

購買には、すでに大きなメロンパンはなかった。

「たった今、売り切れちゃったのよ。ごめんね、また来てね」

たった今。
心当たりしかない。しまった、朝イチで買っとけば良かった。

颯太に睨まれながら廊下を歩く。
グラウンドの手前に、明翔がいた。
メロンパンを口に放り込んで、パンパンと手を払っている。

颯太がかわいいフリを忘れて漢の顔になる。

「ラスイチの大きなメロンパンを買ったのはお前か」
「大きなメロンパンっていうならもっと大きくしてほしい。三秒で食べ終わっちゃうよ」

颯太がカッと目を見開いた。

「許さねえ……。体育で勝負だ。いも引くんじゃねえぞ!」
「いも? 分かんないけど、君すっげーかわいいね」

明翔に頭をポンポンされて、颯太がハッとした顔をする。
やっと気付いたか、颯太。

「俺より、君の方がよっぽどかわいいよっ」
「俺、高崎明翔。君、名前は?」
「佐藤颯太だよっ」
「颯太ね。深月の友達?」
「あ、うん。幼稚園からの幼なじみで」
「へー! いいなー、俺幼なじみっていないんだよね」

顔は一条にそっくりだけど、こうして見ると明翔は身長が高い方だ。
百八十五センチの俺と十センチくらいしか変わらない。

「明翔、筋肉すごいね。中学でハンドボールでもしてたのっ?」
「ううん、野球」
「じゃあ、ハンドボールは俺が勝つよっ」
「悪いけど、俺運動神経抜群だから。俺が勝っても泣くなよ、チビッ子」
「カワイ子ちゃんには負けないよ! 俺だって、運動神経には自信あるもんっ」

たしかに、颯太は小さいけど走れば速いし力もある。
まあ、俺ほどではないんだが。

俺は運動しか取り柄がない。
明翔と颯太がバチバチと火花を散らしているが、勝つのは俺と同じチームになった方である。

と思ったら、なんと俺も颯太も明翔も同じチームでハンドボールの試合が始まった。

相手チームのパスボールを明翔が驚くべきジャンプ力でカットする。

「深月!」

明翔からボールが回ってくる。
すごいスピードだ。バシッと受け取った手がジンジンする。

運動神経抜群ってのは嘘じゃなさそうだ。
明翔はもう相手ゴール前にいるから、ロングパスを試みる。
ボールを受けると、超速攻でゴールを決めた。

「やるじゃねえか! 明翔!」

颯太がかわいいフリを忘れて明翔とハイタッチしている。

「あの二人はヤバい。二人は徹底マークして、ちっちゃいヤツ狙おうぜ」

相手チームの作戦会議が聞こえる。
俺、クラスで一番デカいはずなんだけどそんな存在感ない?

作戦通り、七人中四人、俺と明翔それぞれに二人ずつマークがついた。
一人はキーパーだってのに、思い切った作戦である。
だが、効果は抜群。全然思うように動けない。

ボールが颯太に渡る。相手チーム二人が颯太の前に壁となり、高く手を上げて妨害する。

こら、そんな身長差を使ったディフェンスじゃ颯太が傷付いちゃうでしょーが。

「颯太!」

声を掛けたと同時にダッシュしてマークをまく。
ガラ空きの颯太の後ろからパスを受け取った。

誰か、察してゴール前にいてくれたら――明翔!
明翔がダッシュし、相手マークはついていけていない。
考えてる暇はない。
反射的に明翔へとパスを出すと、かなり高い。

しまった!

だが、明翔のジャンプ力はバケモノらしい。
ボールを手中に収めると、またしても見事なジャンプシュートを決める。

「赤チームの勝ち!」
「よっしゃあ!」

額の汗を拭う。
体育で汗かくなんて、何年ぶりだろ。

「颯太! すげえ動けるじゃん!」
「明翔こそ! 今日のMVPだよっ」
「次は敵として勝負したい!」
「受けて立つよ!」

興奮冷めやらぬまま着替えると、明翔が大きなメロンパンを颯太に差し出した。

「これ、一個じゃ足りないから予備に買ってたんだけど、あげる。友情の証に」
「明翔……。いいヤツだな、お前!」

颯太と明翔がガシッと腕と腕をぶつけ合う。
仲良しな、君ら。