席替えは大成功と言っていいだろう。
廊下側の前から四番目。
「やった! 私、佐藤くんの隣だ!」
「いいなー。佐藤くん、めちゃくちゃかわいいよね」
そんな声が聞こえたから佐藤颯太を探すと、颯太もこちらを見ていた。
両手を目元に置いて、かわいらしく泣きマネをしている。
なるほど。教卓最前から動かずか。
ゆりはというと、窓際の一番後ろに机を運んでいる。
隣どころか、前より離れたな。
チャイムが鳴ると、まだ机を動かしている生徒もいるのに担任の工藤先生は教室を出ていく。
マイペースだな、あの担任。
「ねえ!」
突然、前の席に座るヤツが振り返った。
茶髪の前髪が揺れるその顔を見て、心臓が跳ね上がった。
「俺、高崎明翔! 君の名前は?」
一条優!
小学校の六年間一条を見続けた俺には分かる!
一条が高校生になったら、こうなってるはずだ!
「ねえ! 名前は?」
「あ、名前? ろ、呂久村深月」
「深月ね」
「みっ……」
いきなり呼び捨て?!
俺はなんて呼べばいいんだよ?!
「俺のことも明翔でいいよ」
「……あすか?」
「もー、聞いてなかったのかよ! 高崎明翔」
一条優が親指で自分を指差しながら笑っている。
「……たかさき、あすか?」
「高崎明翔。何回言わせるんだよー」
あはは!
と高崎明翔が笑う。
高崎明翔?
絶対に一条優だ。
いくら髪短くなって茶色になってるとて、この俺が一条と他人を間違えるわけがない!
小学校の入学式で、隣のクラスの先頭に立つ女子を見た時、体中に衝撃が走った。
釘バットで無防備なすねをバアシッといかれたような衝撃。
ツヤツヤの長い黒髪で背が高く、ものすごく綺麗な顔をした子だった。
それからというもの、俺は全校集会でも運動会でもクラスの垣根のない行事ではずっと一条の姿を目で追い続けた。
六年生になる頃には、一条の後ろ姿を見ただけで動悸がドキドキと速まり、病気を疑って颯太に相談した。
「は? んなもん、恋だろ、恋」
と投げ捨てるように言われた。
そうか、これが恋ならば、中学生になったら告白しよう、と心に決めた。
今はまだ勇気が出ないのを一大決心のせいにした俺は、一度も話しかけることなく卒業式を終えた。
そして迎えた入学式に、一条はいなかった。
進学を機に遠くへ引っ越してしまったらしい。
俺の初恋は、強制終了となった。
「ねえ、深月」
ハッと現実に引き戻される。
高崎明翔と名乗る一条優がいる。
「なんか食いもんない?」
「は? ねえよ」
「そっか。ねえ、君なんて名前? ううん、下の名前」
え?
通りすがりの女子生徒に明翔が笑顔で尋ねる。
「りりあね。りりあ、食いもんない?」
「食べてる場合じゃないよ。次体育だから、着替えないと」
「あ、そっか。ありがと」
バッとおもむろに立ち上がると、明翔はババッとためらいなくシャツのボタンを外していく。
え?!
ここで着替えるの?!
「待て! やめろ、明翔!」
「なんで?」
振り返った明翔の見事な胸筋腹筋が目に飛び込んだ。
「……え。男?」
周りの男子から爆笑が起きる。
飲み込めず、あぜんとする俺の肩を隣の席のヤツが叩く。
「分かる! 俺もはじめアスカって名前の女子だと思って声かけたもん」
「呂久村、この一カ月明翔のこと女子だと思ってたんだ」
「いや、てか、明翔がいることに気付いてなくて」
クラスメイトの顔なんか、全然見てなかった。
当の明翔は、上裸でぶぜんと俺を睨む。
「深月、俺を女と間違えてたのかよ」
「ご、ごめん! 俺が悪かったから、服着て!」
どう見ても男の体だし男だし明翔なんだけど、顔が一条に似すぎている。
つい焦ってしまって、明翔の体操服をボフッと被せた。
体操服には、高崎の文字。
……マジで、一条じゃないんだ……。
一条はピンクのランドセルだったし、いつも女子に囲まれていた。
「なんでジロジロ見てんの」
「いや……。男だなって」
体操服の半袖を通した腕を、明翔がそのまま拳握る。
「俺が男だって、体育で証明してやるよ! 大きなメロンパン買ってくる!」
は?
大きなメロンパン?
ポカンとしているうちに、明翔は颯爽と教室を飛び出して行った。
「深月! いつもの買ってある?」
颯太が首をかしげる。
あえてLLサイズの長袖体操服を萌え袖にして、強引に「かわいい」を演出している。
「あ! 売り切れるかも! 急げ、颯太!」
実際に急ぐ必要があるのは、ひとつも着替えてない俺だけであった。
廊下側の前から四番目。
「やった! 私、佐藤くんの隣だ!」
「いいなー。佐藤くん、めちゃくちゃかわいいよね」
そんな声が聞こえたから佐藤颯太を探すと、颯太もこちらを見ていた。
両手を目元に置いて、かわいらしく泣きマネをしている。
なるほど。教卓最前から動かずか。
ゆりはというと、窓際の一番後ろに机を運んでいる。
隣どころか、前より離れたな。
チャイムが鳴ると、まだ机を動かしている生徒もいるのに担任の工藤先生は教室を出ていく。
マイペースだな、あの担任。
「ねえ!」
突然、前の席に座るヤツが振り返った。
茶髪の前髪が揺れるその顔を見て、心臓が跳ね上がった。
「俺、高崎明翔! 君の名前は?」
一条優!
小学校の六年間一条を見続けた俺には分かる!
一条が高校生になったら、こうなってるはずだ!
「ねえ! 名前は?」
「あ、名前? ろ、呂久村深月」
「深月ね」
「みっ……」
いきなり呼び捨て?!
俺はなんて呼べばいいんだよ?!
「俺のことも明翔でいいよ」
「……あすか?」
「もー、聞いてなかったのかよ! 高崎明翔」
一条優が親指で自分を指差しながら笑っている。
「……たかさき、あすか?」
「高崎明翔。何回言わせるんだよー」
あはは!
と高崎明翔が笑う。
高崎明翔?
絶対に一条優だ。
いくら髪短くなって茶色になってるとて、この俺が一条と他人を間違えるわけがない!
小学校の入学式で、隣のクラスの先頭に立つ女子を見た時、体中に衝撃が走った。
釘バットで無防備なすねをバアシッといかれたような衝撃。
ツヤツヤの長い黒髪で背が高く、ものすごく綺麗な顔をした子だった。
それからというもの、俺は全校集会でも運動会でもクラスの垣根のない行事ではずっと一条の姿を目で追い続けた。
六年生になる頃には、一条の後ろ姿を見ただけで動悸がドキドキと速まり、病気を疑って颯太に相談した。
「は? んなもん、恋だろ、恋」
と投げ捨てるように言われた。
そうか、これが恋ならば、中学生になったら告白しよう、と心に決めた。
今はまだ勇気が出ないのを一大決心のせいにした俺は、一度も話しかけることなく卒業式を終えた。
そして迎えた入学式に、一条はいなかった。
進学を機に遠くへ引っ越してしまったらしい。
俺の初恋は、強制終了となった。
「ねえ、深月」
ハッと現実に引き戻される。
高崎明翔と名乗る一条優がいる。
「なんか食いもんない?」
「は? ねえよ」
「そっか。ねえ、君なんて名前? ううん、下の名前」
え?
通りすがりの女子生徒に明翔が笑顔で尋ねる。
「りりあね。りりあ、食いもんない?」
「食べてる場合じゃないよ。次体育だから、着替えないと」
「あ、そっか。ありがと」
バッとおもむろに立ち上がると、明翔はババッとためらいなくシャツのボタンを外していく。
え?!
ここで着替えるの?!
「待て! やめろ、明翔!」
「なんで?」
振り返った明翔の見事な胸筋腹筋が目に飛び込んだ。
「……え。男?」
周りの男子から爆笑が起きる。
飲み込めず、あぜんとする俺の肩を隣の席のヤツが叩く。
「分かる! 俺もはじめアスカって名前の女子だと思って声かけたもん」
「呂久村、この一カ月明翔のこと女子だと思ってたんだ」
「いや、てか、明翔がいることに気付いてなくて」
クラスメイトの顔なんか、全然見てなかった。
当の明翔は、上裸でぶぜんと俺を睨む。
「深月、俺を女と間違えてたのかよ」
「ご、ごめん! 俺が悪かったから、服着て!」
どう見ても男の体だし男だし明翔なんだけど、顔が一条に似すぎている。
つい焦ってしまって、明翔の体操服をボフッと被せた。
体操服には、高崎の文字。
……マジで、一条じゃないんだ……。
一条はピンクのランドセルだったし、いつも女子に囲まれていた。
「なんでジロジロ見てんの」
「いや……。男だなって」
体操服の半袖を通した腕を、明翔がそのまま拳握る。
「俺が男だって、体育で証明してやるよ! 大きなメロンパン買ってくる!」
は?
大きなメロンパン?
ポカンとしているうちに、明翔は颯爽と教室を飛び出して行った。
「深月! いつもの買ってある?」
颯太が首をかしげる。
あえてLLサイズの長袖体操服を萌え袖にして、強引に「かわいい」を演出している。
「あ! 売り切れるかも! 急げ、颯太!」
実際に急ぐ必要があるのは、ひとつも着替えてない俺だけであった。

