初恋ドッペルゲンガー

最終下校時間を過ぎ、空はすっかりオレンジ色である。
大量のレンタル衣装をカゴに詰め込んだ自転車を明翔が駐輪場から出した。

「うわあ、遅くなっちゃったね」
「そうだな」
「でも、すっごく楽しかった!」
「うん、俺も」

最後まで残っていた俺、明翔、颯太、柳、一条が揃って校門を出る。
途端、柳が足を止めた。

「しまった! 忘れてた! 佐藤くん、桃恋占いをやり直しに行こう!」
「なんで文化祭終わったのに俺がそんなもんやんなきゃなんねえんだ――のかなっ」

うん、もう完全アウトかな、颯太くん。
午後からはコンセプトカフェに出てたので、任侠ゲームのタスクが溜まっていたようだ。

しょうがない、冷や汗たらったらの颯太のために話を変えてやるとするか。

「明翔、一条。お前たちのくだらない勝負、俺が終わらせる」
「勝負? どの?」

うん、なんでもかんでも勝負しすぎだからな、君たち。明翔は吹っ掛けられた勝負は相手が颯太でも一条でも一度も断っていない。
記憶の底に埋もれちゃったか。

だが、一条は目をらんらんと輝かせる。
こっちは確実に何の勝負か分かってるな。

緊張でうまく動けるか疑問ではあるが、両手で自転車のハンドルを握る明翔の頭に手をやる。
小さな頭蓋骨は俺の大きな手にすっぽりと収まってしまう。

明翔の唇は、思った通り弾力があり、思ってた以上に温かかった。

チュッと唇を離すと、秋を感じさせる風が通り、ひんやりが残る。

「初めてのチュウ、いただきました!」

一条が全身全力で大きく拍手をする。

「そんな話あったな! この勝負、明翔の勝ちだ! しかと見届けた!」
「景品、呂久村くんは高崎くんのもの! おめでとう!」

颯太に柳まで拍手してる。やめてくれ!
一条の前でないと意味がないからやったけど、恥ずかしい! 消えたい!

ガシャーンと大きな音がして、ビクゥッと体が跳ねる。
見ると、明翔の手が離れた自転車は倒れ、明翔の手は俺の腕をつかむ。

「深月、俺を勝たせたかったってことだよね。だったら、俺に言うことがあるんじゃないの?」
「お前は人前で何を言わせる気だ!」
「嫌なの? 俺は何回も言ってるのに」
「嫌とかじゃなくて! これからうち来るんだろ。二人になったら言うから」
「ふーん。深月は人に聞かれたくないんだ」
「すねんなよ、明翔」

困った。
だけど、これだけ人がいる中で本心が言える気がしない。
俺は取り繕ったセリフなんか言いたくない。

窮地に陥っていく俺を救ったのは、腕を組んで冷静に俺たちを見る一条だった。

「イチャついているとこ悪いけど、今のは無効だよ」
「イチャついてねえし! え、無効?」
「ね。学級委員長」

柳が言われるまま生徒手帳を開く。

「景品は呂久村くん。先に呂久村くんの唇を奪った方の勝ち。呂久村くんは勝者のもの、と記録しているね。今のは呂久村くんが高崎くんの唇を奪ったから、たしかに無効だ」
「俺が終わらせられないルールだったの?!」

一条が自転車を起こしてまたがり、笑顔で手を振る。

「明翔! 呂久村! また明日遊ぼうね!」
「悪趣味な遊びを楽しむんじゃない!」
「悪趣味とはひどいな。ボク、明翔を好きになった呂久村なら好きだ」
「えっ……」

一条が爽やかに走り去っていく。

待て待て待て待て。
適当なことを言い逃げするんじゃない。

颯太がかわいいフリなど忘れて睨みつけてくるんだが。