第七十八回聖天坂高校文化祭が始まる。
「明翔、チェキの売り上げで勝負だ」
「受けて立つ。絶対に俺が勝つ!」
よく似た顔で同じ服着て売り上げに差がつくものなのだろうか。はなはだ疑問だ。
お気に入りのメイドさん、執事さんとのチェキ撮影は一回百円。一条発案である。
さすがに明翔と一条が一緒だと混乱を招きそうなので、午前中に一条、午後から明翔が店番に割り当てられた。
「午前中で一番ヤバいのは西郷と淀橋だな」
「俺ら野球部だから、この頭じゃないと怒られるんだよ」
二個しかないツインテールのウィッグが西郷と淀橋に渡される。
ウィッグを着けても、黒髪短髪の一条の足元にも及ばない不気味さ。
午後から店番の俺、明翔、颯太、柳はいつもの制服である。
「じゃー、先にまわってくるー」
「みんな十三時には戻ってきてよ」
「分かった! せいぜいがんばりなよ、優」
明翔は上機嫌である。
「優に愛想よく接客なんかできるわけない。絶対に俺が勝つよ!」
たしかに、明翔のボーダーレスっぷりを一番知ってるはずの一条が売り上げ勝負なんて言い出すとは俺も意外だった。
「あ、黒岩くんだ」
廊下前方を背中を丸めた小柄な男子生徒が歩いているのに気が付いた。
「黒岩くんー!」
「高崎くん! ……と、呂久村くん」
「今ガッカリした?」
「ごめんなさい!」
したんかい。
「黒岩くんも一緒にまわろうよ」
「いいの?」
「もちろん! 友達じゃん」
黒岩くんがうれしそうに駆けてくる。
明翔は友達って言ったんだけどな、友達って。
「ありがとう!」
「何の礼だよ」
「だって、一人で文化祭まわるしかないと思ってたから」
悲しいことを言うでない。
「一緒にまわりたきゃ言えばいいじゃん」
「言えば、僕もこの中に入れてもらえる……?」
「友達だからな、友達」
「ありがとう!」
悪い子ではないのだろうが、俺には怯えた素振りを見せるものの、自分よりも小さい颯太にはなんだかドヤ顔なのが引っかかる。
颯太を舐めてると痛い目見るよ、黒岩くん。
「佐藤くん! 桃恋占いだって! 一緒にやろう!」
三年生の教室の前で、柳が颯太のシャツの袖を引っ張る。
任侠ゲームのデイリータスクをこなしている颯太は顔も上げない。
「なんで俺がそんなもんしなきゃなんねえ――のかなっ」
うん、ギリギリアウトかな、颯太くん。
だが、柳はお構いなしに颯太を引っ張って教室に入っていく。
「高崎くん、あの、一緒にどうかな」
「へー、桃の形の札を立てるんだって。おもしろそうなゲーム!」
「やろう! 高崎くん!」
「っしゃあ! 立ててやるぜ!」
黒岩くんと明翔もニューチャレンジャー。
俺は一人でとりあえずついて行く。
まだ始まったばかりで三年生たちはバタバタしてる様子。誰も案内に来てくれない。
壁に貼られた説明を見る限り、桃の形をした『桃札』をハートのように立てるらしい。のだが、一点で支えバランスを取って立てるというのは至難の業である。
珍しく柳が焦っている。
「どうしてだ。難なく立てて僕と佐藤くんは結ばれるはずなのに」
「こんなの立つわけなくないっ? こうしたらいいんじゃないのっ?」
さっさと終わらせたいのであろう、颯太が上下を返し、桃の形で二点で支え机に札を立てた。
「立った! これで僕たち、幸せになれるね!」
「これ、そういう占いだったんだっ」
違うよ。
聡明な颯太なら少しでも興味を持ち説明を見れば全容を理解するのだろうが、あいにく今日のタスクはレベルハードらしい。
柳たちを見た明翔たちも桃の形に立てて教室を出て行く。
当事者たちは誰も気付かないが、出口近くに四色のお守りが置かれている。
これがメインなんじゃないの? もらわなくていいの?
まーいっか。
俺が提言することでもないので、スルーである。
廊下に出ると、男が二人走って来る。
「二年一組ってどこだ?!」
「本館三階って書いてる!」
角を曲がり、階段を駆け上がっていく二人。
「何あれ」
「どうやら、客がSNSにあげた写真がバズっているようだ。二万イイヨネついてる」
「二万?!」
柳のスマホを覗くと、一条の顔面アップをローアングルから撮った画像があった。
「二万人の客が来る可能性があるってこと?!」
「全員が来ることはないだろうが、フォトスポットで撮ったチェキもあげられている。一条くんとのチェキ目的で来る客は増えるだろうね。これは大儲けだ!」
「二万……」
楽勝だと笑っていた明翔の顔色が変わる。
「これだけ拡散されてしまっては、午後からも一条くんにはいてもらわなくては」
「ダメ! そんなことしたら」
「でも、大勢押しかけてきて一条くんがいないんじゃあ、暴動が起きる可能性が大きい」
「でも……」
言葉が続かない明翔を柳がジッと見つめる。
「高崎くんが髪を切って黒くすれば、客は一条くんだと思うだろうけれど」
「絶対に嫌」
「だよね。僕もここまで髪を短くするのは嫌だ。では、一条くんに交渉せねば」
柳が教室へと急ぐ。
明翔にとって、一条の身代わりなんて屈辱以外のなにものでもないだろう。
だが、このままでは一条との勝負に負けてしまう。
……いや。
ひとつだけ、明翔が決定的に勝つ方法はある。
午後になり、黒いワンピースに袖を通す。白いフリフリいっぱいのエプロンを着け、清楚なカチューシャを頭に。
颯太が持参した大きなクマのぬいぐるみを抱えて笑った。
スマホのシャッター音が鳴り響く。
「かわいい! とてつもなくかわいいよ、ショタ!」
「わーいっ。うれしいなっ」
メイド服を嫌がっていた颯太だが、気持ちの切り替えに成功したようだ。
それに比べて、鏡に映る自分の姿に俺はため息しか出ない。
「深月、ウィッグ被った方がエグいね」
「それな。ない方がマシ」
「俺が被ろ」
一条はウィッグなしだから、パッと見では明翔と一条がそっくりだという印象は払拭できる。
午後からも一条はフォトスポット専属で店に立つ。
俺の横では、柳が前髪を整えている。
「なんでお前は浴衣よりメイド服の方が色気凄まじいんだ」
「なぜだろう。僕は和風の最高峰の美形なのだが」
この服にメガネは合わない、と伊達メガネを外したのもあるんだろうか。
「うわあ! 二人とも別々の意味ですごい!」
一条が俺と柳の間に入って、大笑いで手を叩く。
しまった!
明翔よりも背の高い俺と柳で挟んでしまった。怖がらせちゃうんじゃ……。
だが、一条は爆笑である。
「一条、怖くねえの?」
「怖いよ。まるでバケモノだ」
「誰がバケモノじゃい」
あれ?
明翔を見ると、苦笑している。
「男でも女でもない、謎の生き物に仕上がってるからかな」
「誰が謎の生き物じゃい」
「良かった。いい方向に向かってるんだと思う。深月のおかげで」
「俺が気持ち悪いおかげな」
そんな笑わんでも、と思うくらい明翔のツボに入ったようだ。
普段はいがみ合ってばかりだけど、一条を一番心配しているのは明翔なのかもしれない。
一条を除いた早番に上がってもらって、いよいよ我ら遅番が黒いカーテンからコンセプトカフェに出る。
おおー!
という歓声と共に、カシャカシャとカメラの音があちこちからする。
意外にも俺の周りからもシャッター音は聞こえる。
俺でもこんなに写真撮られるなら、そりゃ一枚くらいバズるはずだ。
「えっ?!」
柳が注文を取っていた客が大声を出すから、思わず目がいく。
「まって! 巽くんからDMきた!」
「ヤバくない?! 桃恋占いすごすぎ!」
ん?
桃恋占い?
「桃恋占いがどうかしたのかい?」
「私の友達がお守りもらった瞬間好きな人から呼び出されて告白されたの! それで私も桃恋占いしてお守りもらったら、好きな人から大事な話があるってきたの!」
「お守り? そんなものには気が付かなかったな。桃の形に立ててきたのだが」
「それじゃ効果ないよ。『動かない』んだもん」
「なんだって?!」
柳と黒岩くんが教室を飛び出す。
おい。二人も店員が減ったんだが。
「お待たせいたしました。良かったら、俺とチェキ撮りませんか? 一枚百円です」
明翔が健気に営業し、フォトスポットの列に並ぶ。
一条とチェキを撮るための列に。
明翔……。
このままじゃ、明翔に勝ち目はない。
「明翔、チェキの売り上げで勝負だ」
「受けて立つ。絶対に俺が勝つ!」
よく似た顔で同じ服着て売り上げに差がつくものなのだろうか。はなはだ疑問だ。
お気に入りのメイドさん、執事さんとのチェキ撮影は一回百円。一条発案である。
さすがに明翔と一条が一緒だと混乱を招きそうなので、午前中に一条、午後から明翔が店番に割り当てられた。
「午前中で一番ヤバいのは西郷と淀橋だな」
「俺ら野球部だから、この頭じゃないと怒られるんだよ」
二個しかないツインテールのウィッグが西郷と淀橋に渡される。
ウィッグを着けても、黒髪短髪の一条の足元にも及ばない不気味さ。
午後から店番の俺、明翔、颯太、柳はいつもの制服である。
「じゃー、先にまわってくるー」
「みんな十三時には戻ってきてよ」
「分かった! せいぜいがんばりなよ、優」
明翔は上機嫌である。
「優に愛想よく接客なんかできるわけない。絶対に俺が勝つよ!」
たしかに、明翔のボーダーレスっぷりを一番知ってるはずの一条が売り上げ勝負なんて言い出すとは俺も意外だった。
「あ、黒岩くんだ」
廊下前方を背中を丸めた小柄な男子生徒が歩いているのに気が付いた。
「黒岩くんー!」
「高崎くん! ……と、呂久村くん」
「今ガッカリした?」
「ごめんなさい!」
したんかい。
「黒岩くんも一緒にまわろうよ」
「いいの?」
「もちろん! 友達じゃん」
黒岩くんがうれしそうに駆けてくる。
明翔は友達って言ったんだけどな、友達って。
「ありがとう!」
「何の礼だよ」
「だって、一人で文化祭まわるしかないと思ってたから」
悲しいことを言うでない。
「一緒にまわりたきゃ言えばいいじゃん」
「言えば、僕もこの中に入れてもらえる……?」
「友達だからな、友達」
「ありがとう!」
悪い子ではないのだろうが、俺には怯えた素振りを見せるものの、自分よりも小さい颯太にはなんだかドヤ顔なのが引っかかる。
颯太を舐めてると痛い目見るよ、黒岩くん。
「佐藤くん! 桃恋占いだって! 一緒にやろう!」
三年生の教室の前で、柳が颯太のシャツの袖を引っ張る。
任侠ゲームのデイリータスクをこなしている颯太は顔も上げない。
「なんで俺がそんなもんしなきゃなんねえ――のかなっ」
うん、ギリギリアウトかな、颯太くん。
だが、柳はお構いなしに颯太を引っ張って教室に入っていく。
「高崎くん、あの、一緒にどうかな」
「へー、桃の形の札を立てるんだって。おもしろそうなゲーム!」
「やろう! 高崎くん!」
「っしゃあ! 立ててやるぜ!」
黒岩くんと明翔もニューチャレンジャー。
俺は一人でとりあえずついて行く。
まだ始まったばかりで三年生たちはバタバタしてる様子。誰も案内に来てくれない。
壁に貼られた説明を見る限り、桃の形をした『桃札』をハートのように立てるらしい。のだが、一点で支えバランスを取って立てるというのは至難の業である。
珍しく柳が焦っている。
「どうしてだ。難なく立てて僕と佐藤くんは結ばれるはずなのに」
「こんなの立つわけなくないっ? こうしたらいいんじゃないのっ?」
さっさと終わらせたいのであろう、颯太が上下を返し、桃の形で二点で支え机に札を立てた。
「立った! これで僕たち、幸せになれるね!」
「これ、そういう占いだったんだっ」
違うよ。
聡明な颯太なら少しでも興味を持ち説明を見れば全容を理解するのだろうが、あいにく今日のタスクはレベルハードらしい。
柳たちを見た明翔たちも桃の形に立てて教室を出て行く。
当事者たちは誰も気付かないが、出口近くに四色のお守りが置かれている。
これがメインなんじゃないの? もらわなくていいの?
まーいっか。
俺が提言することでもないので、スルーである。
廊下に出ると、男が二人走って来る。
「二年一組ってどこだ?!」
「本館三階って書いてる!」
角を曲がり、階段を駆け上がっていく二人。
「何あれ」
「どうやら、客がSNSにあげた写真がバズっているようだ。二万イイヨネついてる」
「二万?!」
柳のスマホを覗くと、一条の顔面アップをローアングルから撮った画像があった。
「二万人の客が来る可能性があるってこと?!」
「全員が来ることはないだろうが、フォトスポットで撮ったチェキもあげられている。一条くんとのチェキ目的で来る客は増えるだろうね。これは大儲けだ!」
「二万……」
楽勝だと笑っていた明翔の顔色が変わる。
「これだけ拡散されてしまっては、午後からも一条くんにはいてもらわなくては」
「ダメ! そんなことしたら」
「でも、大勢押しかけてきて一条くんがいないんじゃあ、暴動が起きる可能性が大きい」
「でも……」
言葉が続かない明翔を柳がジッと見つめる。
「高崎くんが髪を切って黒くすれば、客は一条くんだと思うだろうけれど」
「絶対に嫌」
「だよね。僕もここまで髪を短くするのは嫌だ。では、一条くんに交渉せねば」
柳が教室へと急ぐ。
明翔にとって、一条の身代わりなんて屈辱以外のなにものでもないだろう。
だが、このままでは一条との勝負に負けてしまう。
……いや。
ひとつだけ、明翔が決定的に勝つ方法はある。
午後になり、黒いワンピースに袖を通す。白いフリフリいっぱいのエプロンを着け、清楚なカチューシャを頭に。
颯太が持参した大きなクマのぬいぐるみを抱えて笑った。
スマホのシャッター音が鳴り響く。
「かわいい! とてつもなくかわいいよ、ショタ!」
「わーいっ。うれしいなっ」
メイド服を嫌がっていた颯太だが、気持ちの切り替えに成功したようだ。
それに比べて、鏡に映る自分の姿に俺はため息しか出ない。
「深月、ウィッグ被った方がエグいね」
「それな。ない方がマシ」
「俺が被ろ」
一条はウィッグなしだから、パッと見では明翔と一条がそっくりだという印象は払拭できる。
午後からも一条はフォトスポット専属で店に立つ。
俺の横では、柳が前髪を整えている。
「なんでお前は浴衣よりメイド服の方が色気凄まじいんだ」
「なぜだろう。僕は和風の最高峰の美形なのだが」
この服にメガネは合わない、と伊達メガネを外したのもあるんだろうか。
「うわあ! 二人とも別々の意味ですごい!」
一条が俺と柳の間に入って、大笑いで手を叩く。
しまった!
明翔よりも背の高い俺と柳で挟んでしまった。怖がらせちゃうんじゃ……。
だが、一条は爆笑である。
「一条、怖くねえの?」
「怖いよ。まるでバケモノだ」
「誰がバケモノじゃい」
あれ?
明翔を見ると、苦笑している。
「男でも女でもない、謎の生き物に仕上がってるからかな」
「誰が謎の生き物じゃい」
「良かった。いい方向に向かってるんだと思う。深月のおかげで」
「俺が気持ち悪いおかげな」
そんな笑わんでも、と思うくらい明翔のツボに入ったようだ。
普段はいがみ合ってばかりだけど、一条を一番心配しているのは明翔なのかもしれない。
一条を除いた早番に上がってもらって、いよいよ我ら遅番が黒いカーテンからコンセプトカフェに出る。
おおー!
という歓声と共に、カシャカシャとカメラの音があちこちからする。
意外にも俺の周りからもシャッター音は聞こえる。
俺でもこんなに写真撮られるなら、そりゃ一枚くらいバズるはずだ。
「えっ?!」
柳が注文を取っていた客が大声を出すから、思わず目がいく。
「まって! 巽くんからDMきた!」
「ヤバくない?! 桃恋占いすごすぎ!」
ん?
桃恋占い?
「桃恋占いがどうかしたのかい?」
「私の友達がお守りもらった瞬間好きな人から呼び出されて告白されたの! それで私も桃恋占いしてお守りもらったら、好きな人から大事な話があるってきたの!」
「お守り? そんなものには気が付かなかったな。桃の形に立ててきたのだが」
「それじゃ効果ないよ。『動かない』んだもん」
「なんだって?!」
柳と黒岩くんが教室を飛び出す。
おい。二人も店員が減ったんだが。
「お待たせいたしました。良かったら、俺とチェキ撮りませんか? 一枚百円です」
明翔が健気に営業し、フォトスポットの列に並ぶ。
一条とチェキを撮るための列に。
明翔……。
このままじゃ、明翔に勝ち目はない。

