初恋ドッペルゲンガー

高校二年生になって、早くもゴールデンウィークが終わった。
俺、呂久村(ろくむら)深月(みづき)は朝から机に突っ伏して、フゴッと鼻を鳴らしてみたりとハイクオリティな狸寝入り中である。

「あのっ、深月! 寝てるとこごめん!」

声をかけられてしまったか……。
ゆりならそっとしといてくれると思ったんだけどな。

「なんでしょーか」

顔を上げたら、モブ女生徒ゆりが申し訳なさそうに両手を合わせている。

「あの、今日の席替えで隣の席になれたら、記念になにか食べに行かない?」

なんの記念だよ。
それが言いたくて俺が登校した時からずっとこっち見てたのか。

「悪い、ゆり。俺、今日腹の調子が悪くて食える気がしない」
「腹? 大丈夫?!」
「ゆり! ゆりに借りた漫画めっちゃおもしろかった!」

ゆりの元へと、名も知らぬ女生徒が駆けつける。
大きめの漫画本を高く掲げながら。

ゆりは真っ赤になってひったくるように漫画を胸に抱えた。
そのリアクションに興味を引かれた。

立ち上がり、ゆりの手から漫画を奪う。

「あ! やめて! 見ないで!」
「何これ。少年漫画?」

表紙には、やけに繊細な線で二人の男が描かれている。

ゆりが手を伸ばしてピョンピョン跳んでいるが、小柄なゆりではクラスで一番背が高い俺には届くまい。

「BLだよ、BL!」
「BL?」
「ボーイズラブ!」

ページをめくると、体育倉庫になぜかマットが敷かれており、その上にメガネ男子がシャツの胸元はだけて寝っ転がっている。
メガネ男子を見下ろす顔の細い男が、メガネを取って跳び箱の上に置いた。

「これで俺しか見えないね」

とか言いながら笑ってるけど、たぶんお前のことも見えてないと思うよ。

「あれか。おっさんたちのラブ」
「それ!」
「やめて! 解説しないの!」

ゆりに本を返す。

「女子の間で流行ってるの! 流行ってるから持ってるだけで」
「ゆりが貸してくれた漫画、全部おもしろかった!」
「ずいぶんいろいろ流行ってんだね」
「……そ……そうよ。流行ってるから持ってるだけ!」

開き直ることにしたらしい。
別に、漫画くらい好きなん読めばいいんじゃね。そんな顔赤くしなくても。

BLねえ。
男同士でちちくり合ってるの見て何が楽しいんだか。

かと言って、俺はもう女と付き合う気はない。

一条(いちじょう)(ゆう)を超える女なんて、もう一生めぐり会えないのかもしんねえなあ。