夏祭りといえば甚平。
もうそんなに身長伸びてないけど、一応去年一目惚れして買った茶色の甚平を着てみる。
……オッサンくさ……。
え、まじで?
俺、一年で老けた?
これは買いなおした方がいいんだろうか。
でも、金ギリだしなあ……。
よし、明翔に見てもらって、隣歩きたくない評価だったら買いに行くか。
明翔にメッセージを送ると、すぐに来てくれるという。
ツンまでもがソワソワと部屋を歩き回る。なんでツンは明翔が来ると分かるのだろうか。
ピンポーンと部屋に響いた瞬間、ツンがもはやダッシュの勢い。
「ツン! デレ! 来い!」
玄関で明翔が両手を広げると、二匹の猫がピョンと飛びつく。
今日も明翔は元気だなあ――ん?
明翔に飛びついたデレが、明翔の頬を舐めた。
「ほんとに猫の舌ってザラザラしてるんだ!」
喜ぶ明翔のおでこに手を置いてみる。熱い。
「めっちゃ熱あるじゃん!」
「そうなの。体は元気なんだけどさあ」
「そうなのじゃねえよ!」
「なんで分かったの?」
「ツンは普段はツンツンだけど、体調が悪い人にだけはデレるの」
ピピッと鳴り、明翔から体温計を受け取る。
「三十八・九度もあるじゃん!」
「よーし! 目指せ、三十九度!」
「目標を下方修正しろ。ベッド貸してやるから、大人しく寝てなさい!」
「えー。熱あるだけで元気だよ。甚平買いに行こうよ」
「やっぱオッサンか。でも今日は行かねえよ。体力あるヤツほど過信して悪化するんだぞ。ちゃんと休みなさい」
俺も去年熱出たけど気にせず遊びに行った時、医者に言われた。
明翔にあんなしんどい思いはさせたくない。
「深月の部屋初めて入ったー。きったね。もー、しょうがないなあ」
「片付けはいいから! お前は寝に来たんだぞ」
でもなければ、こんな汚い部屋を明翔に見せたりしない。
「食欲はあるの? 昼食った?」
「山盛りこってり豚骨ラーメン食ったんだけど、気持ち悪くなって吐いた」
「めっちゃ体調悪いんじゃん!」
「暑いのに熱いもん食ったせいかと思ってた」
「明翔くん、それは体調不良のせいだよ」
明翔をベッドに寝かせる。
ハァ、と息を吐くと目を閉じた。
「ほら見ろ。療養モードに入ったら一気にしんどさを自覚しただろ」
「うん。体だるい」
「暑くない? エアコンの温度下げようか?」
「ううん、大丈夫」
「そうだ、氷枕持ってこよ。あと、なんか欲しいもんある?」
「深月」
「……は?」
布団の中で明翔が笑う。
「冗談言ってる場合か!」
部屋を出て、冷蔵庫の氷枕を取り出す。
タオルで巻くんだよな、コレ。
「頭上げれる? ん、これで良しと。なんか食える? 薬飲んだ方が早く治るだろ」
「俺アレルギーあるから市販の薬は飲まないようにしてるんだよね」
「そうなんだ? 食うだけ食う?」
「ううん、いい。ありがとう」
「いや、あー……。じゃあ、お大事に」
ジッと見られていても寝付きにくいだろう。
立ち上がろうとしたら、違和感。
見ると、明翔が俺を見上げながらTシャツの裾を引っ張っている。
「どうした? なんか持ってこようか?」
「一人じゃ寝付けない。いて」
「……そう?」
お言葉に甘えて、明翔の寝顔を見守る。
なんか欲しいもんある?
深月。
などと冗談を言われたせいで、思い出してしまった。
景品は俺。
俺は、先に俺の唇を奪った方のもの。
なんちゅー、めちゃくちゃな話だ。
俺の意思を尊重すべきだろ。
俺の意思で、俺が選ぶのは――……。
「……深月」
「起こした?! ごめん!」
「そんな顔近付けてたら風邪うつるよ」
「いや、うつした方が早く治るって言うじゃん?!」
「ダメ。深月にこんなしんどい思いさせたくない」
「ごめん! しんどいよな、ちゃんと寝ろ! 俺もいらんこと考えないから!」
「いらんこと?」
「気にせず寝ろ!」
心臓バックバクすわ……。
だが、そんなことは知らずに明翔はスースーと寝息を立てる。
こうして見ると、本当に綺麗な顔をしてる。
色の白さとまつ毛の長さがすごい。
これでスポーツ万能なんだから、びっくりだよ。
でも、中学までは野球やってたんなら日焼けしたりもしてたのかな。
……すげえ気が合うからめっちゃ仲良いつもりだったけど、俺も明翔もたぶんまだまだ知らないことがいっぱいある。
知らないから、俺のこと、好きだなんて言ってくれるのかも……。
明翔はおそらく、俺がこうやってグルグル考えちゃうウダウダ男だとも知らない。
ツンとデレと暮らすようになって、自由な彼らのおかげでこれでも少しはマシになったと思うくらい。
俺、昨日も一昨日も明翔のこと考えながら寝たせいか、夢にまで出てきたんだよ。
我ながらキッモ。
でも、心のどっかで、明翔ならキモがらないんじゃないか、って、期待しちゃうんだよなあ……。
目を開いて、自分が寝ていたことに気付く。
あー、なんかすっげ腰痛……。
顔を上げて、目を見開く。
「明翔?!」
キョロキョロするも、間違いなく俺の部屋。
なのに、ベッドの上にいるのは明翔。
「また夢?!」
「へー。深月の夢に俺が出てくるの?」
「え。まあ」
「俺も! 俺も毎日くらい夢に深月が出てくるよ」
明翔がニコーッと笑う。うれしいが顔面から溢れてる。
腰が痛いと思ったら、俺は床に座り込んでベッドに上半身だけを預けて寝ていたらしい。
――あ、思い出した。
明翔に来てもらったけど熱あるから、寝かせたんだった。
「明翔、熱は? 体調どう?」
明翔がドヤ顔で体温計を見せつける。
三十六・五度。
「良かった、熱下がったんだ」
「それはいいんだけどさ、変な時間に寝ちゃったから腹減っちゃったよ」
「時間関係なくねえか。明翔の場合」
と言いつつもスマホを見ると、現在夜九時半を過ぎたところ。
「おお、すげえ寝てたな。俺も腹減ってるわ」
「深月、ちゃんと自炊してる? 食材あれば俺が適当に作るよ」
「あるよ。カップラーメンと焼きそば」
「深月が作って」
「あいあい」
腹が減っていればなんでも美味い。
病み上がりの明翔に作らせるのも悪いし、これで良かったんだ。
「コンビニ弁当とインスタントばっかじゃダメだよ。言い訳ばっかしてないで、料理しなね」
「はい。がんばります」
「ふふっ。素直でよろしい。たまには熱出すのもいいね」
「良くないだろ。結構しんどそうだったぞ、明翔」
「だって、深月が俺のことすげえ気にかけてくれるんだもん。うれしかった」
「がはっ」
勢いよくラーメンをすすっていたから、思わず吹き出しそうになる。
……なんっちゅー素直な礼の言葉……。
明翔なら……明翔になら。
「俺の母親ってさ、すげー重いんだよ」
「深月のかーちゃんなら身長あるだろうしね」
「物量じゃなくて。なんつーか、愛情重めってか」
「そうなの? 不倫がバレた翌日に離婚したかーちゃんでしょ」
「そこだけ切り取ったらすげえサバサバ系に聞こえると思うんだけど、実際は違くて」
「なんか逸話でもあるの?」
「ある!」
さすがは明翔。
いいフリをしてくれる。
「母方の葬式で中里さんに気を使って話しかけた親戚の女性を殴ってなかなかのケガさせちゃって、それ以来一切親戚付き合いがなくなった。それまでも、正月の集まりなんかにはとっくに呼ばれなくなってたんだけど」
「へー。俺なら深月がぼっちで浮いてる方が嫌だから気持ちは全く分かんねえけど、かーちゃんは中里さんが大好きなんだろうなってことは分かる」
「そうなの! 好きすぎて、中里さんしか見えてなかったんだよ」
だから、中里さんは策を講じるしかなかった。
「母親をなだめるために、中里さんは愛してるってくり返してた。心にもないのに」
「本心かもよ」
「親戚付き合いすらままならない執着されて、愛せるわけねえじゃん」
「俺はうれしいよ。深月が俺しか見えてなかったら」
「……そう思うのは、知らないからだよ。怖かったもん、俺」
「今は冷静になるために、一時的に距離を置いてるだけかも」
もしも、そうなら。
また三人で暮らす日がくるんだろうか。母親と、中里さんと、俺と。
もうそんなに身長伸びてないけど、一応去年一目惚れして買った茶色の甚平を着てみる。
……オッサンくさ……。
え、まじで?
俺、一年で老けた?
これは買いなおした方がいいんだろうか。
でも、金ギリだしなあ……。
よし、明翔に見てもらって、隣歩きたくない評価だったら買いに行くか。
明翔にメッセージを送ると、すぐに来てくれるという。
ツンまでもがソワソワと部屋を歩き回る。なんでツンは明翔が来ると分かるのだろうか。
ピンポーンと部屋に響いた瞬間、ツンがもはやダッシュの勢い。
「ツン! デレ! 来い!」
玄関で明翔が両手を広げると、二匹の猫がピョンと飛びつく。
今日も明翔は元気だなあ――ん?
明翔に飛びついたデレが、明翔の頬を舐めた。
「ほんとに猫の舌ってザラザラしてるんだ!」
喜ぶ明翔のおでこに手を置いてみる。熱い。
「めっちゃ熱あるじゃん!」
「そうなの。体は元気なんだけどさあ」
「そうなのじゃねえよ!」
「なんで分かったの?」
「ツンは普段はツンツンだけど、体調が悪い人にだけはデレるの」
ピピッと鳴り、明翔から体温計を受け取る。
「三十八・九度もあるじゃん!」
「よーし! 目指せ、三十九度!」
「目標を下方修正しろ。ベッド貸してやるから、大人しく寝てなさい!」
「えー。熱あるだけで元気だよ。甚平買いに行こうよ」
「やっぱオッサンか。でも今日は行かねえよ。体力あるヤツほど過信して悪化するんだぞ。ちゃんと休みなさい」
俺も去年熱出たけど気にせず遊びに行った時、医者に言われた。
明翔にあんなしんどい思いはさせたくない。
「深月の部屋初めて入ったー。きったね。もー、しょうがないなあ」
「片付けはいいから! お前は寝に来たんだぞ」
でもなければ、こんな汚い部屋を明翔に見せたりしない。
「食欲はあるの? 昼食った?」
「山盛りこってり豚骨ラーメン食ったんだけど、気持ち悪くなって吐いた」
「めっちゃ体調悪いんじゃん!」
「暑いのに熱いもん食ったせいかと思ってた」
「明翔くん、それは体調不良のせいだよ」
明翔をベッドに寝かせる。
ハァ、と息を吐くと目を閉じた。
「ほら見ろ。療養モードに入ったら一気にしんどさを自覚しただろ」
「うん。体だるい」
「暑くない? エアコンの温度下げようか?」
「ううん、大丈夫」
「そうだ、氷枕持ってこよ。あと、なんか欲しいもんある?」
「深月」
「……は?」
布団の中で明翔が笑う。
「冗談言ってる場合か!」
部屋を出て、冷蔵庫の氷枕を取り出す。
タオルで巻くんだよな、コレ。
「頭上げれる? ん、これで良しと。なんか食える? 薬飲んだ方が早く治るだろ」
「俺アレルギーあるから市販の薬は飲まないようにしてるんだよね」
「そうなんだ? 食うだけ食う?」
「ううん、いい。ありがとう」
「いや、あー……。じゃあ、お大事に」
ジッと見られていても寝付きにくいだろう。
立ち上がろうとしたら、違和感。
見ると、明翔が俺を見上げながらTシャツの裾を引っ張っている。
「どうした? なんか持ってこようか?」
「一人じゃ寝付けない。いて」
「……そう?」
お言葉に甘えて、明翔の寝顔を見守る。
なんか欲しいもんある?
深月。
などと冗談を言われたせいで、思い出してしまった。
景品は俺。
俺は、先に俺の唇を奪った方のもの。
なんちゅー、めちゃくちゃな話だ。
俺の意思を尊重すべきだろ。
俺の意思で、俺が選ぶのは――……。
「……深月」
「起こした?! ごめん!」
「そんな顔近付けてたら風邪うつるよ」
「いや、うつした方が早く治るって言うじゃん?!」
「ダメ。深月にこんなしんどい思いさせたくない」
「ごめん! しんどいよな、ちゃんと寝ろ! 俺もいらんこと考えないから!」
「いらんこと?」
「気にせず寝ろ!」
心臓バックバクすわ……。
だが、そんなことは知らずに明翔はスースーと寝息を立てる。
こうして見ると、本当に綺麗な顔をしてる。
色の白さとまつ毛の長さがすごい。
これでスポーツ万能なんだから、びっくりだよ。
でも、中学までは野球やってたんなら日焼けしたりもしてたのかな。
……すげえ気が合うからめっちゃ仲良いつもりだったけど、俺も明翔もたぶんまだまだ知らないことがいっぱいある。
知らないから、俺のこと、好きだなんて言ってくれるのかも……。
明翔はおそらく、俺がこうやってグルグル考えちゃうウダウダ男だとも知らない。
ツンとデレと暮らすようになって、自由な彼らのおかげでこれでも少しはマシになったと思うくらい。
俺、昨日も一昨日も明翔のこと考えながら寝たせいか、夢にまで出てきたんだよ。
我ながらキッモ。
でも、心のどっかで、明翔ならキモがらないんじゃないか、って、期待しちゃうんだよなあ……。
目を開いて、自分が寝ていたことに気付く。
あー、なんかすっげ腰痛……。
顔を上げて、目を見開く。
「明翔?!」
キョロキョロするも、間違いなく俺の部屋。
なのに、ベッドの上にいるのは明翔。
「また夢?!」
「へー。深月の夢に俺が出てくるの?」
「え。まあ」
「俺も! 俺も毎日くらい夢に深月が出てくるよ」
明翔がニコーッと笑う。うれしいが顔面から溢れてる。
腰が痛いと思ったら、俺は床に座り込んでベッドに上半身だけを預けて寝ていたらしい。
――あ、思い出した。
明翔に来てもらったけど熱あるから、寝かせたんだった。
「明翔、熱は? 体調どう?」
明翔がドヤ顔で体温計を見せつける。
三十六・五度。
「良かった、熱下がったんだ」
「それはいいんだけどさ、変な時間に寝ちゃったから腹減っちゃったよ」
「時間関係なくねえか。明翔の場合」
と言いつつもスマホを見ると、現在夜九時半を過ぎたところ。
「おお、すげえ寝てたな。俺も腹減ってるわ」
「深月、ちゃんと自炊してる? 食材あれば俺が適当に作るよ」
「あるよ。カップラーメンと焼きそば」
「深月が作って」
「あいあい」
腹が減っていればなんでも美味い。
病み上がりの明翔に作らせるのも悪いし、これで良かったんだ。
「コンビニ弁当とインスタントばっかじゃダメだよ。言い訳ばっかしてないで、料理しなね」
「はい。がんばります」
「ふふっ。素直でよろしい。たまには熱出すのもいいね」
「良くないだろ。結構しんどそうだったぞ、明翔」
「だって、深月が俺のことすげえ気にかけてくれるんだもん。うれしかった」
「がはっ」
勢いよくラーメンをすすっていたから、思わず吹き出しそうになる。
……なんっちゅー素直な礼の言葉……。
明翔なら……明翔になら。
「俺の母親ってさ、すげー重いんだよ」
「深月のかーちゃんなら身長あるだろうしね」
「物量じゃなくて。なんつーか、愛情重めってか」
「そうなの? 不倫がバレた翌日に離婚したかーちゃんでしょ」
「そこだけ切り取ったらすげえサバサバ系に聞こえると思うんだけど、実際は違くて」
「なんか逸話でもあるの?」
「ある!」
さすがは明翔。
いいフリをしてくれる。
「母方の葬式で中里さんに気を使って話しかけた親戚の女性を殴ってなかなかのケガさせちゃって、それ以来一切親戚付き合いがなくなった。それまでも、正月の集まりなんかにはとっくに呼ばれなくなってたんだけど」
「へー。俺なら深月がぼっちで浮いてる方が嫌だから気持ちは全く分かんねえけど、かーちゃんは中里さんが大好きなんだろうなってことは分かる」
「そうなの! 好きすぎて、中里さんしか見えてなかったんだよ」
だから、中里さんは策を講じるしかなかった。
「母親をなだめるために、中里さんは愛してるってくり返してた。心にもないのに」
「本心かもよ」
「親戚付き合いすらままならない執着されて、愛せるわけねえじゃん」
「俺はうれしいよ。深月が俺しか見えてなかったら」
「……そう思うのは、知らないからだよ。怖かったもん、俺」
「今は冷静になるために、一時的に距離を置いてるだけかも」
もしも、そうなら。
また三人で暮らす日がくるんだろうか。母親と、中里さんと、俺と。

