初恋ドッペルゲンガー

インターホンが鳴ると、ツンがキャットタワーから華麗に飛び降りて玄関に向かう。
ツンのお出迎えなんか初めて見るわ。

「お邪魔しまーす!」

明翔が元気に二匹の猫をくっつけてリビングのソファに座った。

「プッ。アニマルトレーナーじゃん、明翔」
「かわいいねえ、君たち~」

人は好きだが抱っこされるのは嫌いなデレが肩へと上り、明翔の膝の上はツンが占領する。

心を許した明翔にだけ懐くツン。
誰とでもすぐお友達になってしまう明翔。
発露の仕方は真逆だけど、ツンは明翔に似たものを感じてるんだろう。

「明翔とツンって、似てるよな」
「俺、猫なの?」

俺を見上げる表情まで似てる。また笑いがこみ上げる。

「明翔はさ、亜衣ちゃんが明翔よりも一条を優先するって言ってたけど、一条よりも明翔を優先してくれる人もいたんだよな。パパとじいちゃん」

ツンを愛でていた手が止まる。
明翔の動揺が手に取るように分かる。

母親までも、一条に奪われたと感じている明翔の焦りが。

「優に聞いたんだよね? 優に何言われたの?」
「でも、たった半年ほどの間に立て続けに亡くなっちゃって」
「深月! 俺ともちゃんと話してよ」
「寂しいよな、明翔」

愛情が重すぎる母親のせいで、とっくの昔に親戚付き合いなんてなくなっていた。
更に、両親の離婚により中里さんがいなくなり、母親は単身赴任。俺は自分を孤独だと思ってた。

だけど、中里さんだけは、俺に何かあったら何を置いてでも駆けつけてくれるだろう。
全然、孤独なんかじゃなかったんだ。

初めて見る、情けない明翔の表情。
明翔は、つらい時ほど強く心を保ってしまう。

「泣きたい時は泣いていいんだよ。明翔」
「俺は泣かない。パパとじいちゃんが明翔は泣くなって言ってた」
「男たるもの、みたいな?」
「俺の顔のせいだと思う。二人とも野球やってたから、こういう女顔はいじめられたりあったみたい。ばあちゃんと母ちゃんもそっくりで、俺たちの遺伝子が弱くてごめんな、ってよく冗談言ってた」
「今の明翔なら泣いても大丈夫、って二人とも笑ってるよ」

明翔が誰とでも仲良くなってしまうのは、根っこが寂しいからだったんだ。
明翔はボーダーレスなわけじゃない。

明翔のボーダーラインは明翔の中心のごく近くにあって、たぶん、今、俺は明翔のボーダーラインを超えたんだと思う。

「パパもじいちゃんもいなくなっちゃったけど、俺がいる。俺は二人みたいに明翔の力にはなれないけど、明翔が一番大事だ」

ううん、と明翔が首を振った。

「深月は俺の力になってるよ」
「いや、俺まっじでなんもしてねえ」
「じいちゃんが亡くなった時、優は遠くに引っ越したばっかりで……」
「真衣ちゃんの彼氏のところな」
「うん。彼氏が『俺が父親役やってやるって言ってんのに死んだジジイのとこなんかに行くのか』ってごねて、戻って来れなかったんだ。優は、じいちゃんのお通夜にも葬式にも間に合わなくて、最期に顔を見ることすらできなかった」
「そうだったんだ……」
「優が俺のこと、どう言ってたのかはだいたい分かるよ。ずるいって言われてもしょうがないと思う」
「お、おう」

バッチリ合ってるよ、明翔。

「優が不登校になって、なんとか二年には上がれたけど卒業は難しい。退学しかないだろうって聞いた時、うちの学校に来ればいいのにって思った。そしたら、俺が守るのに、って」
「偉いな、明翔」

ううん、とまたしても明翔は首を振る。

「でも、言えなかった。今学校が楽しいのに、優が来たらめちゃくちゃにされる気がして」
「でも、言ったんだろ?」
「うん。深月が俺が親不孝したら後を追うとまで言ってくれたから、深月さえいれば、他はめちゃくちゃにされてもいいと思えた」

明翔が唐突に笑顔を上げたから、盛大に胸がドキッとする。

「深月のおかげだよ」
「そ、それに関してなんだけど、俺考えてさ、約束してほしいことがある」
「何?」
「もしも、万が一、自分で自分の人生を終わらせたくなったら、まず俺を()れ」
「なんで?」
「まず俺を殺って、本当に終わらせていいのか、もう一回ちゃんと考えろ」
「俺が考え直したって深月は死んじゃうよ」
「うん。俺が死んで、やっぱ死んだらヤバいなって明翔が思ってくれたらそれでいい」
「俺の気まぐれで死んでもいいの? 俺結構気まぐれさんだよ」
「知ってる。そういうとこも猫っぽい。明翔が生きてくれたら俺はいい」
「何それ」

いや、笑いごとじゃなく。マジなんだけど、俺は。

「わかった! まず、深月を殺ってから俺を殺る!」
「できれば俺のことも殺らんでほしい」

なんとしてもこぎつけたかった約束ができて、ホッとして明翔の隣に座る。
デレが来たから抱っこしようとすると、肩へと逃げられてしまう。

「なんでこんなん言ってくれんの? 俺のこと好きなの?」
「ずーっと明翔のこと考えてたら、もうわけわかんないよね」
「それもう俺のこと好きでしょ」
「親友だからね、もちろん好きだよ。だって親友じゃん」
「親友押すねえ。そうじゃなくてさあ、俺のことどれくらい好き? 優よりは好き?」
「だ、だから、わかんないって」
「じゃあさ、優のどこが好きだったの? やっぱり顔?」
「い、いいじゃん、昔のことだよ、そんなん」
「顔だけならさあ、俺だって同じ顔だし」
「同じ顔ではねえよ」

明翔がキョトンとする。
なぜだ。

「一応聞くけどさあ、深月、俺と優の見分けつく?」
「つくよ」
「えー。嘘だあ」
「マジだっての」
「へー。言ったね」
「言ったよ」

明翔がニヤリと笑う。
うん、悪だくみしてる顔も一条とそっくり。