初恋ドッペルゲンガー

「マリーアントワネットは言いました。パンがなければ、お菓子を食べればいいじゃない」
「言ってないらしいよ。てか、パンでもおなかいっぱいにならないのにお菓子って」
「だと思って大きなメロンパンもう一個買ってあるよ」
「食っていいの?! ありがとう!」

高崎(たかさき)塔夜(とうや)から大きなメロンパンを受け取り、バリッと袋を開ける。

大きなメロンパンは、学校の購買で一番大きいパンである。高校に入学してから、購買では大きなメロンパンしか買ってない。
二個目の大きなメロンパンを食べて、多少は腹が満たされた。

学校から五分くらい歩いただろうか。
女子の泣き叫ぶような声が耳に突き刺さった。

「待って! 本当に好きなのは深月(みづき)だけなの!」

見ると、うちの制服を着た男子が二人と女子が一人、ただならぬ空気だ。

「深月が好きって言ってくれないから、私不安になっちゃって」

……嘘っぽい。

なんだろう、全然知らない子なのに、謎に演技っぽいというか、なりきっているというか、悲劇のヒロインぶっているというか。

「お、修羅場か」

塔夜がおもしろいオモチャを見つけたような顔をして足を止める。
知らないヤツとは言え、修羅場に遭遇して喜ぶんじゃない。

金髪で背の高い男子がフッと鼻で笑ったのが分かる。

「言うわけないじゃん。俺、お前のこと好きじゃねえもん。お前がそれでもいいから付き合ってって言ったんだろ。お忘れですかー」
「……嘘……。だって、付き合いだしてから深月すごく優しくなったから」
「うぬぼれんな。付き合う子には優しくしたいの。それだけ。悪い?」
「もうやめなよ! 呂久村(ろくむら)はこういうヤツなんだよ! 行こう!」

小柄な男子が女子の腕をつかむと、デカい男子はクルリと二人に背を向けて歩き出した。
俺の横をすり抜けて行く。

マジでデカい。
その顔を見上げて、胸がえぐられるような衝撃を感じた。

そんな傷付いてんのに、なんで強がってんだよ。

「呂久村、彼女に浮気されてるって噂マジだったんだ」
「あいつのこと知ってんの?」
「知らない。けど、金髪だし背高いから目立つじゃん。よーし、明日あの子ナンパしよ」
「塔夜、フラれた女子ばっかいくからハイエナってあだ名付けられてるよ」
「なに、その不名誉かつ的確なあだ名ー」
「ちゃんと彼女つくったら?」
「だってー、すぐ遠距離になるじゃん。それに俺、ニュージーランドで金髪美女喰いまくるって決めてるし」

塔夜が爽やかに笑う。
塔夜、顔はいいのに。俺より背も高いのに。留学とかすごいのに。
のにしか出ない。

「どんだけモテるのか知らないけど、あんな態度じゃフラれて当然だよな」
「フラれて?」

すがる彼女を振り払ったのはあいつの方なんだけどな。
あんなひどい言い方しなきゃ、悪者にされた上にフラれた印象になることもなかっただろうに――

「もしかして、わざと……」

振り返ったら、あいつの後ろ姿はまだ見えた。

「付き合う子には優しくしたいの」

って……。

面積はデカくとも小さく見えた背中だけが、やけに印象に残った。