太陽が真っ赤に染まった黄昏時。
「そろそろ、帰る時間だな」
直巳が言いながら立ち上がった。この『帰る時間』は、仁愛と直巳、両方のこと。
直巳が飛行服の上着を着て、ベルトを肩や腹に回して金具を止める。やはりこのベルトは、操縦の時につける物だったよう。
仁愛はカバンに手を突っ込んで少し逡巡し、「ねえ、これ」と言ってお守りを出した。顔を上げた直巳の胸元に突き出し、「あ、あげる」と横を向いて言う。
「なんだ?」
「お、お守り!」
仁愛が恥ずかしさを紛らわすために声を張ると、直巳が「飛行安全の?」と微笑んで受け取った。
「違うよ」仁愛は俯き、「あんたが……あんたの家族が死ぬ空襲の前に、帰れるように」モジモジと両手を擦って、パッと顔を上げた。
「空襲の日がわかってるんだから、それより前に戻れたら、逃げるように言える。そうすれば、あんたの家族は死なずに済む、から……」
仁愛が早口で言うと、直巳がハッとした顔で動きを止めた。それからくしゃっと、泣き出しそうな顔で笑い、
「お前は、優しいな」
ありがとう、と言ってお守りを胸ポケットにしまった。確かめるように手を当て、目を閉じ、開く。
「よっしゃ。それじゃあひとつ、家族救って、日記捨てなかった沖に蹴り入れて、アメ公の爆撃機撃ち落としに行くわ!」
仁愛が「それ、ひとつじゃなくて三つだよ」と言うと、「細けぇこと気にすんな」とニカっと笑い。
「じゃあ、仁愛。元気でな」
仁愛が頷くと、パシッと大きく手を叩いた。間を置いて二回目、三回目——
——そして、沈黙。
「何も起きないんだが!?」
直巳が頭を抱えて叫んだ。拍手と言えば、大きく三回手を叩くこと。確かに彼は、拍手をうったのに。
「あんの神崎とかいう胡散臭い野郎、嘘ついたのか!」
直巳が「俺の決心返せ!」と地面を踏み鳴らす。仁愛は「あたしの決心も」と言いかけて、
(でも、あの人に嘘つくメリットないよね? 手紙は本物っぽかったし、拍手の方に何か理由が……)
「そろそろ、帰る時間だな」
直巳が言いながら立ち上がった。この『帰る時間』は、仁愛と直巳、両方のこと。
直巳が飛行服の上着を着て、ベルトを肩や腹に回して金具を止める。やはりこのベルトは、操縦の時につける物だったよう。
仁愛はカバンに手を突っ込んで少し逡巡し、「ねえ、これ」と言ってお守りを出した。顔を上げた直巳の胸元に突き出し、「あ、あげる」と横を向いて言う。
「なんだ?」
「お、お守り!」
仁愛が恥ずかしさを紛らわすために声を張ると、直巳が「飛行安全の?」と微笑んで受け取った。
「違うよ」仁愛は俯き、「あんたが……あんたの家族が死ぬ空襲の前に、帰れるように」モジモジと両手を擦って、パッと顔を上げた。
「空襲の日がわかってるんだから、それより前に戻れたら、逃げるように言える。そうすれば、あんたの家族は死なずに済む、から……」
仁愛が早口で言うと、直巳がハッとした顔で動きを止めた。それからくしゃっと、泣き出しそうな顔で笑い、
「お前は、優しいな」
ありがとう、と言ってお守りを胸ポケットにしまった。確かめるように手を当て、目を閉じ、開く。
「よっしゃ。それじゃあひとつ、家族救って、日記捨てなかった沖に蹴り入れて、アメ公の爆撃機撃ち落としに行くわ!」
仁愛が「それ、ひとつじゃなくて三つだよ」と言うと、「細けぇこと気にすんな」とニカっと笑い。
「じゃあ、仁愛。元気でな」
仁愛が頷くと、パシッと大きく手を叩いた。間を置いて二回目、三回目——
——そして、沈黙。
「何も起きないんだが!?」
直巳が頭を抱えて叫んだ。拍手と言えば、大きく三回手を叩くこと。確かに彼は、拍手をうったのに。
「あんの神崎とかいう胡散臭い野郎、嘘ついたのか!」
直巳が「俺の決心返せ!」と地面を踏み鳴らす。仁愛は「あたしの決心も」と言いかけて、
(でも、あの人に嘘つくメリットないよね? 手紙は本物っぽかったし、拍手の方に何か理由が……)
