あの橋の下の暗がりに、『今』へ続く君を思う

「ああ。映えないってことね」
「ばえ?」
「そういうのいいよ。あたしはあんたが選ぶものを知りたい」

 直巳は「うーん」と唸りながら後ろ頭を掻き、「じゃあ、行くか」と立ち上がった。

 彼が向かったのは、駅近くの路地裏にある立ち食い蕎麦屋。工事現場の作業員らしき人たちが作業着のまま食事をしていた。ここなら、彼の飛行服も目立たない。

 直巳は天ぷら蕎麦を、仁愛は普通のかけ蕎麦を選んだ。直巳は仁愛のかけ蕎麦を一瞥し、勝手にコロッケを追加した。

 食べ終えて、帰り道。

「美味しかったー!」

 仁愛が腹をさすりながら言うと、直巳が「本当かぁ?」と尋ねた。

「? うん」
「普通の蕎麦だ。この時代はもっとキラキラして美味いもん山ほどあるだろ」
「まあ、そうだけどさ。でも美味しかったよ。あんたが連れて来てくれたから、ってのもあるかもだけど」

 仁愛が思ったままを口に出すと、直巳がプイッと向こうを向いて「あんまそういうこと言うな」とボソボソした声で言った。

 それから橋の下へ戻り、また他愛のない会話を交わして過ごし、

「あ、そうだ」

 日が傾きだし、夏の景色が色濃くなったタイミングで、直巳が言った。

「仁愛。お前、もうここには来るな」

 その言葉に、仁愛は思わず目を見開く。「どうして?」と尋ねると、直巳は「泉たちとも話たんだが」と前置きをして、

「お前の世界はここじゃないし、ここに来るような道を辿るべきじゃない。お前には未来がある。希望と可能性に満ちた、明るい未来だ」

 それから、「俺たちのことは忘れろ」と付け足した。

 少しの沈黙。

「嫌」

 仁愛は吐き捨てるように言った。

「嫌だよ。どうしてそんなこと言うの? 忘れるなんてできないよ。忘れたくない!」

 直巳が「だがなぁ」と眉尻を下げる。

「こんなとこ出入りしてたら、いつ何が起こってもおかしくない。変な奴は粗方俺がぶん殴ったから今は来なくなってるが、今後はどうかわからない」
「気をつけるから、大丈夫だよ」