あの橋の下の暗がりに、『今』へ続く君を思う

「昨日の夜にお肉の下拵えしといたから、今朝は揚げただけ。そんな時間かかんなかったよ。あたしの朝ご飯の支度と一緒にやって一時間くらい」
「へえー。お前、料理上手いんだな」

 直巳は割り箸を割りながら「すごいな!」と笑うと、「いただきまーす」と言って食べ始めた。唐揚げを頬張る横顔に、仁愛は思う。

 彼は純粋に『すごい』と言った。仁愛が料理上手だと自分の得になるからではなく、ただ仁愛を『すごい』と。

(あんたのためだったら、いくらだって早起きして作るのに。明日も、明後日も、ずっと)

 しかし、その日は来ない。

「この後、仕事の話をしに行くの?」

 尋ねると、頬を唐揚げでパンパンにした直巳が「いいや(ひひあ)」と答え、

「……昨日のうちに全部片付けた」次の唐揚げを取りながら、「泉と瀬川は、今日ここに来ない」と付け足す。

「『若者同士の邪魔しちゃ悪いから』だとよ」

 少し寂しげに言うのはつまり、彼は今日、元の時代に帰るということ。なんとなくそんな気がしていた。だから昨日のうちにお守りを完成させて持って来た。早起きもそう。

「……あの二人も、空気読めるんだね」

 仁愛が笑って言うと、直巳は「意外だよな」と応えて唐揚げを口に入れた。

 弁当を食べ終えた直巳は「少し待ってろ」と言ってどこかへ行き、コンビニの袋を持って戻ってきた。仁愛の隣に座り、中から一リットルのスポーツドリンクのペットボトルを出す。

「弁当の礼って言っちゃあ、安上がりだが」

 仁愛はそれを両手で受け取った。ずっしり重い、一リットル。

「……普通、五百ミリじゃない?」

 仁愛が半ば独り言として言うと、直巳は自分の分のお茶を開けながら、

「お前が干からびたら大変だからな」

 少し困ったように微笑んだ。二人は並んで座り、川を眺めながら、他愛のない会話を交わす。

 そうしているうちに太陽が橋の真上に登り、橋の下の陰が濃くなった。直巳が「そろそろ昼だなぁ」と腹をさする。

「昼飯食いに行くか」
「あんたの奢り?」
「もちろん」
「やった!」
「で、何食いたい?」

「うーん」仁愛は少し考えて、「……あんたがよく行くところのやつ」

 そう答えたのは、少しでも彼を知りたいから。——ここで生きた、彼のことを。

「いや、それ……女学生が行くような雰囲気のとこじゃないぞ」
「何それ。いかがわしいお店ってこと?」
「んなわけあるか。なんというか、こう……キラキラしてないってことだ」