あの橋の下の暗がりに、『今』へ続く君を思う

 最初は普通に歩いていたものの、徐々に歩調が速まり、駅を過ぎるところで走り出し、そのまま河川敷に続く階段を駆け降りた。

 草むらを走り、橋の下の日陰に寝そべる人影を捉えたところで歩調を緩めた。

(直巳、まだ寝てる?)

 橋脚の傍ら。壁の方を向いて寝そべる直巳は、腕枕をした状態からピクリとも動かない。仁愛はそっと近づいて顔を覗き込んでみた。瞼は閉じていて、薄く開いた唇の間から規則正しい呼吸が聞こえる。

 仁愛は直巳の頭の横に座り、カバンからお守りを取り出した。内心で独りごちる。

(やっぱ、ダサいよね)

 ネットで見つけた野球部向けのお守りの作り方を参考に作ったものだ。白いフェルトのお守り袋型。野球部の場合は背番号やボールを刺繍するところを、仁愛は、

(よく考えたら、『元気』って意味わかんない)

 考えに考え抜いて、片面に『元気』の文字を刺繍した。彼が元気でいることを願ったものだが、こうして完成したものを見てみると、思考が明後日の方を向いていたように思う。

(どうしよう。作り直すにしても、うーん……)

 悩み、頭を抱えたところで、傍らからゴソゴソと布が擦れる音。直巳が「んー」と唸り、「うおっ!」と叫んで飛び起きた。

「に、仁愛!?」

 座ったまま少し後ずさる。仁愛は慌ててお守りをカバンに突っ込んだ。

「お、おはよう」

 言うと、直巳が「何してんだ、こんな朝から」とため息をついた。

「なんか、目が覚めちゃって」
「昨日遅かったのに?」
「うん。ねえ、朝ご飯っていつも何食べてるの?」
「? 適当に、その辺のコンビニとか、蕎麦屋とか」
「お弁当作って来たんだけど、食べる?」

 仁愛はカバンからタッパーを取り出した。差し出すと、直巳が「おおっ! ありがたや、ありがたや」と仰々しく両手で受け取る。

「仁愛様の飯は美味いから——」

 言いながらタッパーを開けて、中身を見た瞬間にピタリと動きを止めた。「お前、これ……」と中身を指差す。

「? 唐揚げ、流石に飽きた?」
「違う。唐揚げに飽きることなんかない。じゃなくて、お前これ、朝から作ったのか? 何時起きだよ」