仁愛が隣を向くと、直巳は手元に視線を落としたまま「ああ」と応えた。喜びはない。淡々としている。
再び沈黙が流れ、電車が駅に停車した。誰も乗らないままドアが閉まって動き出す。
「大和とかいう奴らと、最近はどうなんだ?」
ふと、直巳が尋ねた。仁愛が「えっ?」と隣を向くと、直巳が横目にこちらを見ている。
「難癖つけられたりしてないか?」
「う、うん。大丈夫だよ。この前道端で依茉と会ったけど、何も言わないでどっか行った」
「そうか」
また直巳は視線を手元へ。少ししたらまたこちらを見て、「親父さんとは、あの後どうだ?」と尋ねる。
「なんかされてないか?」
「何もないよ。いつも黙ってて、こっちも見ない。なんか色々諦めたみたい」
「飯はちゃんと食えてるか?」
「うん。もりもり食べてるよ。もらえないとかそういうのはない。そこまでする親じゃなかったっぽい」
「そうか」直巳は仁愛の左手をチラリと見て、「そうか」と繰り返す。お守りを作る時にできた人差し指の怪我が治っているのを確認したのだろう。
「あとは……」
呟き、宙に視線を動かす。ふと何かに気づいた様子で苦笑して、「おかしいな」と仁愛を見る。
「あんなに帰りたくて……今だって帰りたい気持ちは変わらないのに、帰らない理由を探してる」
それから「選ばなきゃな」と呟き、「全てが思い通りになる人生なんかない」と前を向いた。
かつて仁愛に言い聞かせた言葉を、今は自分に言い聞かせるように。
車窓の向こうを、夜が静かに流れていく。電車が駅に停まっては動き出し、仁愛の家の最寄駅に着いた。
二人は黙って電車を降りて改札を抜けた。通路は左右に分かれている。左に行くと、いつもの橋がある相砂川に着く。仁愛の家は右。
左へ少し歩いたところで、直巳がふと足を止めた。
「遅くなっちまったな。親父さんに怒られないか?」
「大丈夫だよ。そういうとこは前からあんまり口出さないから」
「そうか。……でもまあ、早いとこ帰った方がいい」
その言葉に仁愛はハッとする。直巳が「ああ」と何かに気づいた様子で後ろ頭を掻き、
再び沈黙が流れ、電車が駅に停車した。誰も乗らないままドアが閉まって動き出す。
「大和とかいう奴らと、最近はどうなんだ?」
ふと、直巳が尋ねた。仁愛が「えっ?」と隣を向くと、直巳が横目にこちらを見ている。
「難癖つけられたりしてないか?」
「う、うん。大丈夫だよ。この前道端で依茉と会ったけど、何も言わないでどっか行った」
「そうか」
また直巳は視線を手元へ。少ししたらまたこちらを見て、「親父さんとは、あの後どうだ?」と尋ねる。
「なんかされてないか?」
「何もないよ。いつも黙ってて、こっちも見ない。なんか色々諦めたみたい」
「飯はちゃんと食えてるか?」
「うん。もりもり食べてるよ。もらえないとかそういうのはない。そこまでする親じゃなかったっぽい」
「そうか」直巳は仁愛の左手をチラリと見て、「そうか」と繰り返す。お守りを作る時にできた人差し指の怪我が治っているのを確認したのだろう。
「あとは……」
呟き、宙に視線を動かす。ふと何かに気づいた様子で苦笑して、「おかしいな」と仁愛を見る。
「あんなに帰りたくて……今だって帰りたい気持ちは変わらないのに、帰らない理由を探してる」
それから「選ばなきゃな」と呟き、「全てが思い通りになる人生なんかない」と前を向いた。
かつて仁愛に言い聞かせた言葉を、今は自分に言い聞かせるように。
車窓の向こうを、夜が静かに流れていく。電車が駅に停まっては動き出し、仁愛の家の最寄駅に着いた。
二人は黙って電車を降りて改札を抜けた。通路は左右に分かれている。左に行くと、いつもの橋がある相砂川に着く。仁愛の家は右。
左へ少し歩いたところで、直巳がふと足を止めた。
「遅くなっちまったな。親父さんに怒られないか?」
「大丈夫だよ。そういうとこは前からあんまり口出さないから」
「そうか。……でもまあ、早いとこ帰った方がいい」
その言葉に仁愛はハッとする。直巳が「ああ」と何かに気づいた様子で後ろ頭を掻き、
