あの橋の下の暗がりに、『今』へ続く君を思う

 直巳が神崎をじろっと睨め付けて、

「目的?」

 神崎はキョトンとした顔で首を傾げる。

「帰り方なんて、お前が知ってるわけないだろ。無いもんチラつかせて、一体俺に何をさせようとしてる?」
「知っていますよ。この時代に来た時にいた場所で、拍手(かしわで)をうてば帰れます」
「はあ? なんだよそれ。どこ情報だ?」
「実際に帰った方から教えていただきました」

 神崎はジャケットの懐に手を入れ、

「ご遺族経由で、手紙をいただいたんです。自分と同じように迷ってここに来た人がいたら、教えてやって欲しい、と」

 取り出したのは酷く黄ばんだ封筒。直巳に差し出す。表面には豪快で達筆な『神崎様』の筆文字。

 直巳が怪訝そうな顔で受け取り、中の便箋を出して開いた。仁愛は横からそれを覗き込む。

 そこには、神崎の対応への謝辞と、自分が元の時代へ戻れたこと。それから、戻るまでの経緯が書かれていた。

『途方に暮れた私は目覚めた場所に戻り、神々への祈りを捧げ、神宮式の拍手(かしわで)をうった。瞬間、周囲が白い霧に閉ざされ、気づくと元の時代の執務室にいた』

 紙の劣化具合も、筆文字の掠れ具合も、資料館に展示されている遺品と変わらない。これは偽造されたものではない。本当に、八十年の時を経てここへ辿り着いたもの。

「ご理解いただけましたか?」

 神崎がニコッと笑う。直巳が便箋を封筒に戻して差し出すと、それを受け取りながらチラッと仁愛を見た。

「私はお教えするだけです。それが、過去から届いた私の使命ですから」

 封筒を懐に戻し、

「実行するか否かはあなた次第。後悔のない道を選択されることを、祈っております」

 踵を返して歩き出す。赤い太陽が地平線の向こうに沈み、青白い夜が訪れた。

     *

 帰りの電車はやけに空いていて、並んで座る仁愛と直巳の周りに人影はない。二つ向こうの座席で、疲れ果てた様子のサラリーマンが寝ている。

 黙って電車に揺られること、しばらく。

「よかったね。帰り方、見つかって」