あの橋の下の暗がりに、『今』へ続く君を思う

「藤野くんが来た時のことを調べれば、帰る方法を見つけられるかもしれない、ってね。今、梛木さんと話していたところなんだ」

 瀬川は焼き鳥を咀嚼しながら泉の話を聞き、飲み込むと、じいっと仁愛を見つめて、

「梛木さんは、帰り方が見つかって、本当に、いいの?」

 ——彼が人と話せなくなったのは、幼少期に受けた虐待が原因だという。詳しいことは仁愛も知らないが、特に女性が苦手という話から、考え得ることはいくつか。

 過去に深く傷ついた経験があるからだろう。彼は他者の心の機微に敏感だ。

「お別れは寂しいけど、あいつには、なりたい自分であって欲しい。だから帰る方法を見つけてあげたいんです」

 言うと、瀬川は少しだけ悲しそうに微笑んだ。それから、

「急な、敵機補足、だったって」

 彼が話し出したのは、直巳がこちらへ来る直前のこと。彼と会話の練習をする中で聞いた話。

「突然、そこに現れた、みたいな。慌てて出撃することに、なって、藤野くんの愛機は、前の戦闘後の整備が、途中で、倉庫から引っ張り出した、予備機で出たって」

 その後、戦闘中に機銃筒内で爆発が発生。——他の機体で出ていたら、彼はその戦いを無事に終えることができただろうか。

「変なのは、索敵範囲のだいぶ内側に、突然、敵機が、現れたこと。彼が来た理由を、見つけるなら、来る直前の戦闘を、調べたらいいと、思う」

 泉が焼き鳥を齧りながら、「確かに」と頷いた。

「ここに来たのは、何かが起きた結果だからね。調べるならその前。……でも、八十年前かぁ」

 当時の何もかもが、今はもう土の下。あるいは記憶の彼方、資料館の片隅。

「瀬川さん、教えてくれてありがとうございます」

 仁愛が礼を言うと、瀬川は少し困った様子で視線を下げてコクっと頷いた。仁愛は焼き鳥を食べながら考える。

 唐突な敵機出現——当時の索敵技術や諸々を考えれば、ただの見落としと考えるのが妥当で、現実的だ。

 しかし、考えてしまう。

(まるで誰かが仕組んだみたい。急に敵を出して、慌てて出撃させて、直巳を爆発する予備機に乗せた。……もしも神様の仕業なら、ぶん殴ってやりたい)

 それからふと思う。仮にこれが神の仕業だったとして、それは彼を殺すためなのか。それとも、彼をここに来させるためだったのか。

(神様なんだから、来させるなら普通に来させてよ!)