あの橋の下の暗がりに、『今』へ続く君を思う

 仁愛はそれを見送って、

「そ、そんなに、気に入ったの……」

 少し引き気味に独りごちたところで、傍らから「彼……」と瀬川の声。三角座りの膝の間を向き、チラチラとこちらを見ながら話す。

「ずっと……いてくれたら、いいね」

 この一ヶ月ほど、仁愛は時折、彼の会話の練習に付き合っていた。その成果だ。

「そうですね」

 仁愛はその場に腰を下ろし、彼と同じ三角座りをする。

「瀬川さんは、直巳が好きですか?」
「す……好き。時々、怖いけど、優しい、いい人……」
「わかります、それ。乱暴者かと思ったら優しい。猫拾うヤンキーみたい」
「ふふっ。梛木さんも、藤野くんが、好き……?」
「好きです」仁愛は大きく頷き、「ずっと一緒にいて欲しい」少し視線を俯けて、
「でも、直巳がやりたいことをやって、なりたい自分でいられることが一番大事。だから、帰る方法が見つかればいいのに、って思います」

 瀬川がハッとした様子で顔を上げた。長い前髪の隙間から、じいっとこちらを窺う。

「梛木さんは……大人、だね」

 どこか気遣うような視線。仁愛が「そんなことないですよ」と答えたところで、直巳と泉が戻ってきた。

「なんだ、瀬川。仁愛にもビビらず話せるようになったのか?」

 意外そうに尋ねる直巳に、瀬川は少しの間を置いてから「う、うん」と言って少し笑った。

 それから四人で昼食をとり、直巳が最後の一個の唐揚げを名残惜しそうに口に入れたところで、

「あっ、そうだ」

 泉が何かを思い出した様子で自分の小屋へ行った。すぐに戻ってきた彼の手には、

「この前、ポラロイドカメラを買ったんだぁ」

 言葉通り、黒いポラロイドカメラ。——その辺で見かけるポップなものではない。見るからに性能が良さそうなゴツいレンズがついた、高そうなカメラ。

 仁愛の脳裏に『ファッションホームレス』の語が浮かぶ。ポカンとした顔で泉を見る直巳と瀬川も同じことを考えているだろう。

「せっかくだから、みんなで写真を……あれ? でもどうだろう。藤野くんは写るのかな?」

 直巳がゲンナリ顔で「幽霊みたいに言うな」とため息をつき、

「俺は生きて——」