あの橋の下の暗がりに、『今』へ続く君を思う

「でも今は、あの時消えなくてよかったと思う。消えなかったから、あんたと会えた」
「じゃあ……俺が元の時代に、帰ったら……」
「もう消えたいなんて思わないよ。あんたが体張って守ってくれた私だもん。大切にする」

 仁愛は直巳の手をギュッと握り締め、「だから心配しないで」と続ける。

「これからはいっぱいご飯食べるよ。筋トレとかもしてみる。何が来ても絶対に負けないし、傷つかない」

 だから安心して帰って。——と、までは言えない。仁愛はそこまで大人ではない。

 しかし、

「そうか。……なら、安心だな」

 そう言って少しだけ寂しそうに微笑む直巳には、彼女の思いが届いていたのだろう。

     *

 親戚の家から帰ってきた父は、直巳の件について何も言わなかった。仁愛に話しかけること自体なく、食事の席では顔も見ない。

 思うところがあるのは確か。だが、無視してくれるならちょうどいい、と仁愛は特に気にしていない。その様子を見た母はいつも通り深く嘆き悲しんでいるが、それもまた意識の外側へ。

 夏休みも残すところあと四日。仁愛は朝から大量の唐揚げを揚げて、おにぎりや卵焼きなどと一緒にタッパーに詰め、重い袋を持って家を出た。

 橋の下に行くと、直巳と泉、それから瀬川の姿があった。瀬川の会話の練習をしているらしい。

「こんにちは」

 仁愛が歩きながら声をかけると、直巳が「おう」とこちらを向いた。泉が「その袋はどうしたの?」と首を傾げ、瀬川が横目にこちらを一瞥する。

「みんなでお昼どうかな、と思って、作って来ました」

 仁愛が答えると、泉が「それはいいねぇ」と言って立ち上がった。自分のブルーシート小屋へ歩いていく。椅子やテーブルを持って来るつもりだろう。

 仁愛は手伝おうかと思い、袋を直巳の隣の段ボールの上に置いた。直巳が「ん?」と言ってスンスンと鼻を鳴らす。

「この匂い……もしかしてあれか? この前のウーなんたらが入ってる唐揚げか?」
「よくわかったね。あんた鼻良すぎ——」

 直巳が「よっしゃー!」と勢いよく立ち上がった。「泉、早く椅子とか出せ!」と言いながら泉の方へ駆けて行く。