自分が座っていた折り畳み椅子を指す。それに気づいた直巳は、なんとも言えない複雑な表情を浮かべた。
*
直巳が隣に座り、泉が去ってしばらく。
「あ、あのさっ」
仁愛が隣を向くのと、
「昨日はすまなかった」
直巳が謝るのはほとんど同時だった。川を眺めていた直巳がこちらを向く。
「俺がいたせいで、お前と親父さんが喧嘩することになった。俺はお前んちに入らず帰るべきだったんだ。……そもそも、お前について行くべきじゃなかった。判断を誤った」
「ち、違うよ! あたしが誘ったからだよ」
「いいや、俺が間違った」直巳は悩ましげに額に手を当て、「大人なんだから、その辺ちゃんと判断するべきだった」
大人——二十二歳は、確かに大人の分類だ。しかし現代の二十二歳は、大学卒なら社会人一年生。まだまだ未熟。あれこれ間違って、学んで、成長していく段階。
直巳がいた時代は違ったのだろう。
彼は爆撃機の迎撃任務に『隊を率いて』向かった。生きるか死ぬかの戦場。判断を誤れば命を落とす。
自分の機体の機銃筒が爆発した時、彼は部下の護衛を拒んだ。守られる側ではない、守る側の人間として。
(でも……ここにいる間くらい、好きにしたっていいじゃん)
直巳が「知りたかったんだ」と自嘲気味に笑った。
「お前がどんなところで、何をして暮らしてるのか、知りたかった。ちゃんとした場所で毎日飯食えてんのか、確認したかったんだ」
それからそっと手を伸ばし、仁愛の左頬に指先で触れる。
「教科書取り来た日に怪我してたの、親父さんに叩かれたからか?」
——出会った頃、やけに顔を見てくるな、と思った。癖なのかと思っていたが、違ったのか。
「あんたがいた時代じゃ、体罰なんか、当たり前だったんじゃないの?」
尋ねると、直巳は「当たり前だ」と言って手を引っ込めた。「ありふれたことだ」と、申し訳なさそうに目を伏せる。
「だが、お前は女で——」直巳はふと言葉を切り、「いや。違うな。……お前には、当たり前であって欲しくないんだ」
*
直巳が隣に座り、泉が去ってしばらく。
「あ、あのさっ」
仁愛が隣を向くのと、
「昨日はすまなかった」
直巳が謝るのはほとんど同時だった。川を眺めていた直巳がこちらを向く。
「俺がいたせいで、お前と親父さんが喧嘩することになった。俺はお前んちに入らず帰るべきだったんだ。……そもそも、お前について行くべきじゃなかった。判断を誤った」
「ち、違うよ! あたしが誘ったからだよ」
「いいや、俺が間違った」直巳は悩ましげに額に手を当て、「大人なんだから、その辺ちゃんと判断するべきだった」
大人——二十二歳は、確かに大人の分類だ。しかし現代の二十二歳は、大学卒なら社会人一年生。まだまだ未熟。あれこれ間違って、学んで、成長していく段階。
直巳がいた時代は違ったのだろう。
彼は爆撃機の迎撃任務に『隊を率いて』向かった。生きるか死ぬかの戦場。判断を誤れば命を落とす。
自分の機体の機銃筒が爆発した時、彼は部下の護衛を拒んだ。守られる側ではない、守る側の人間として。
(でも……ここにいる間くらい、好きにしたっていいじゃん)
直巳が「知りたかったんだ」と自嘲気味に笑った。
「お前がどんなところで、何をして暮らしてるのか、知りたかった。ちゃんとした場所で毎日飯食えてんのか、確認したかったんだ」
それからそっと手を伸ばし、仁愛の左頬に指先で触れる。
「教科書取り来た日に怪我してたの、親父さんに叩かれたからか?」
——出会った頃、やけに顔を見てくるな、と思った。癖なのかと思っていたが、違ったのか。
「あんたがいた時代じゃ、体罰なんか、当たり前だったんじゃないの?」
尋ねると、直巳は「当たり前だ」と言って手を引っ込めた。「ありふれたことだ」と、申し訳なさそうに目を伏せる。
「だが、お前は女で——」直巳はふと言葉を切り、「いや。違うな。……お前には、当たり前であって欲しくないんだ」
