あの橋の下の暗がりに、『今』へ続く君を思う

 泉が「大切なものができたから?」と尋ねる。彼が言う『大切なもの』が()を指しているかは明白。

「はい」

 仁愛は深く首肯した。泉が「じゃあ」と言いながら、何もついていない釣り針を回収する。

「お別れの時が来たら、辛いね」
「はい。……でも、辛いだけじゃないです。あいつは帰りたがってるから……あいつの願いが叶うのは、あたしも嬉しい」
「梛木さんは、藤野くんが好きなのかい?」
「うーん」仁愛は薄暗い橋の裏を見上げ、「恋愛じゃない……人として、好きです」

 どうしてそう思うのか。いつからそう思っていたのか。それは仁愛自身にもよくわからない。

 ただ、出会った。鬱屈とした日々の中、小さく息苦しい世界の出口で。

 彼と出会ったから、自分が世界の全てだと思っていたものが、広い世界の片隅でしかなかったことに気がついた。自分を知った。縮こまっていた四肢を伸ばすことができた。

 言うなれば敬愛、彼は()()()()で、大切な人。だから彼にも、望む世界にあって欲しい。

 泉が「そっか」と応え、土手の方を振り返った。

「君たちが、互いに納得のいく結末を迎えられることを祈っているよ」
「ありがとうございます」
「それからあれだね。お父さんのこと。今日の夜帰ってくるんだろう? 何もないといいけど」
「大丈夫です。また叩かれたら戦うし、どうしようもなくなったら警察でもなんでも駆け込みます」
「そうならないことを祈るばかりだねぇ。ひとまず、何かあったらここにおいで」
「?」
「僕はこんなナリだけど、社会的信用は程々にある方だから。何か力になれることがあるかもしれない」

 泉は「僕はファッションホームレスだからね」とウインクすると、よっこいせ、と立ち上がった。

「ひとまず、邪魔者はここらで退散することにするよ」

 そう言う彼が望む先には、河川敷を歩いてくる直巳の姿。泉は彼へ手を振って、

「藤野くん、この椅子使って」