廊下を進んで玄関前に出ると同時に、ドアがガチャリと外側から開いた。
「えっ……」
仁愛は思わず足を止めた。入ってきた父もまたこちらを見て動きを止め、
「仁愛! その男はなんだ!」
助走なしの怒号。気圧された仁愛は思わず、「帰りは明日のはずじゃ」と思考をそのまま口に出してしまう。
マズイ、と思うも後の祭り。父が怒りに顔を真っ赤にして玄関を上る。
「なんだその物言いは! 母さんの忘れ物を取りに来ただけだ! それの何が悪いって言うんだ!」
「いや、悪いなんて一言も——」
「お前こそ何してるんだ! 親の留守中に男を連れ込むとは、そんな下品な娘に育てた覚えはないぞ!」
「これは——」
「そもそもこんな奴、どこで出会った!」
「あたしたちは——」
冷静に説明を試みる仁愛だったが、
「さてはこいつ、お前が最近夜に出歩いてる時の仲間だな? 見るからに品のない、落ちこぼれの顔だ」
父の憤怒に混ざる嘲笑を聞いた瞬間、頭の中で何かがプツッと切れる感覚。
(なんでいつも、そういうことばっかり)
怒りに一歩踏み出し、
「そうやってさぁ!」
声を荒げると同時に、目の前に直巳が割って入った。
「勝手に上がり込んで申し訳ありません」
一瞬、知らない人の声と錯覚するほど、冷静で誠実な敬語。
「自分は藤野直巳と言います。仁愛さんとは友人で、いつも勉強を教えてもらっています。集中するあまりこんな時間になってしまいまして、今から帰るところです」
仁愛は直巳が敬語を使えることに驚き、しかしすぐに納得した。彼は軍人。厳しい上下関係の元に身を置いているのだから当然だ。
一方で、父はギョッとした顔。ろくでもない人間だと蔑んだ相手の品行方正な言動に驚いたのだろう。
「ここへ来るのは今日が初めてです。たまたまいつものカフェが空いておらず、仁愛さんに誘っていただきました」
——それが、気に食わなかったのか。
「誓って、ただ勉強をしていただけです。仁愛さんに手を出したりは——」
父はグッと顔を顰めると、「うるさい!」と叫んで直巳の肩を掴んで押しのけた。
「えっ……」
仁愛は思わず足を止めた。入ってきた父もまたこちらを見て動きを止め、
「仁愛! その男はなんだ!」
助走なしの怒号。気圧された仁愛は思わず、「帰りは明日のはずじゃ」と思考をそのまま口に出してしまう。
マズイ、と思うも後の祭り。父が怒りに顔を真っ赤にして玄関を上る。
「なんだその物言いは! 母さんの忘れ物を取りに来ただけだ! それの何が悪いって言うんだ!」
「いや、悪いなんて一言も——」
「お前こそ何してるんだ! 親の留守中に男を連れ込むとは、そんな下品な娘に育てた覚えはないぞ!」
「これは——」
「そもそもこんな奴、どこで出会った!」
「あたしたちは——」
冷静に説明を試みる仁愛だったが、
「さてはこいつ、お前が最近夜に出歩いてる時の仲間だな? 見るからに品のない、落ちこぼれの顔だ」
父の憤怒に混ざる嘲笑を聞いた瞬間、頭の中で何かがプツッと切れる感覚。
(なんでいつも、そういうことばっかり)
怒りに一歩踏み出し、
「そうやってさぁ!」
声を荒げると同時に、目の前に直巳が割って入った。
「勝手に上がり込んで申し訳ありません」
一瞬、知らない人の声と錯覚するほど、冷静で誠実な敬語。
「自分は藤野直巳と言います。仁愛さんとは友人で、いつも勉強を教えてもらっています。集中するあまりこんな時間になってしまいまして、今から帰るところです」
仁愛は直巳が敬語を使えることに驚き、しかしすぐに納得した。彼は軍人。厳しい上下関係の元に身を置いているのだから当然だ。
一方で、父はギョッとした顔。ろくでもない人間だと蔑んだ相手の品行方正な言動に驚いたのだろう。
「ここへ来るのは今日が初めてです。たまたまいつものカフェが空いておらず、仁愛さんに誘っていただきました」
——それが、気に食わなかったのか。
「誓って、ただ勉強をしていただけです。仁愛さんに手を出したりは——」
父はグッと顔を顰めると、「うるさい!」と叫んで直巳の肩を掴んで押しのけた。
