「ううん。火は通ってるけど、二度揚げした方が衣がパリッとするから——」
「じゃあ食って平気だな」
直巳の手がひょいと菜箸を避け、唐揚げをひとつつまんで口に放り込む。「ちょっと!」と仁愛が抗議するのを無視して直巳は咀嚼し、
「なんか、俺が知ってる唐揚げと違う」
「バイト先で教わったレシピで、五香粉を少し入れたの」
「うーしゃ……なんだそれ」
「中国のスパイスだよ」
直巳が少し驚いた様子で、「この時代はそんなもんが家にあるのか」と独りごちる。仁愛が「口に合わなかった?」と尋ねると、
「いいや、美味い。今まで食ったどの唐揚げより美味い」
彼はニカっと笑って答えると、「隙あり!」と唐揚げをもうひとつつまんで口に入れた。嬉しそうに咀嚼する彼を、仁愛は心の底から嬉しく思い、同時に少しだけ悲しくなった。
*
夕食後、二人は仁愛の部屋で本を読んで過ごした。パラパラとページをめくる音が続いてしばらく。直巳が壁時計を見上げて、読んでいた本をパタリと閉じる。
「俺、そろそろ帰るわ」
「? 泊まってけばいいのに」
「いや、お前それ……」
「その本、まだ読み途中でしょ?」
「そうだが……」直巳が閉じた本を見下ろす。宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』。少し迷うような顔をして、立ち上がった。
「いや、帰る」
「お泊まりはドキドキしちゃうから?」
「ガキ相手にそんなもんするか」
「その本、持ってく?」
直巳が「いいや」と言って本を本棚へ。
「また読みに来るから、置いといてくれ」
彼にとっては、何の気なしに放った言葉だろう。しかし仁愛には約束のように聞こえた。まだ自分はここにいる、と。
それから二人で部屋を出て、階段を降り、
「そういえばさ、泉さんがこの前——」
「じゃあ食って平気だな」
直巳の手がひょいと菜箸を避け、唐揚げをひとつつまんで口に放り込む。「ちょっと!」と仁愛が抗議するのを無視して直巳は咀嚼し、
「なんか、俺が知ってる唐揚げと違う」
「バイト先で教わったレシピで、五香粉を少し入れたの」
「うーしゃ……なんだそれ」
「中国のスパイスだよ」
直巳が少し驚いた様子で、「この時代はそんなもんが家にあるのか」と独りごちる。仁愛が「口に合わなかった?」と尋ねると、
「いいや、美味い。今まで食ったどの唐揚げより美味い」
彼はニカっと笑って答えると、「隙あり!」と唐揚げをもうひとつつまんで口に入れた。嬉しそうに咀嚼する彼を、仁愛は心の底から嬉しく思い、同時に少しだけ悲しくなった。
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夕食後、二人は仁愛の部屋で本を読んで過ごした。パラパラとページをめくる音が続いてしばらく。直巳が壁時計を見上げて、読んでいた本をパタリと閉じる。
「俺、そろそろ帰るわ」
「? 泊まってけばいいのに」
「いや、お前それ……」
「その本、まだ読み途中でしょ?」
「そうだが……」直巳が閉じた本を見下ろす。宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』。少し迷うような顔をして、立ち上がった。
「いや、帰る」
「お泊まりはドキドキしちゃうから?」
「ガキ相手にそんなもんするか」
「その本、持ってく?」
直巳が「いいや」と言って本を本棚へ。
「また読みに来るから、置いといてくれ」
彼にとっては、何の気なしに放った言葉だろう。しかし仁愛には約束のように聞こえた。まだ自分はここにいる、と。
それから二人で部屋を出て、階段を降り、
「そういえばさ、泉さんがこの前——」
