あの橋の下の暗がりに、『今』へ続く君を思う

(何作ろっかなぁ……あっ、冷凍の鶏モモある。直巳がいるし、山田さんに教わった唐揚げレシピ試してみよっかな……)

 鶏モモ肉をレンジで解凍。その間に米を洗って炊飯器へ。早炊きモードのボタンを押す。

 付け合わせの中華風サラダを作り始めてしばらく。ふと、直巳の言葉が脳裏をよぎる。

『お前、本当にお嬢様だったんだな』

 そう言う彼は、感心したような、どこか安堵したような顔で部屋を見ていた。

(冷静に部屋だけ見れば、勉強環境整った自分の部屋があるっていいことだよね。両親の思惑はともかく、有用、って感じで)

 祖母は言っていた。

『世の中には、いつもお腹を空かせていたり、ボロボロの服しか着れない人がいるのよ。仁愛ちゃんは塾にも行けて、恵まれてるわ』

 あの時は、自分の気持ちを認めてもらえないことが悲しく、苛ついた。今振り返ってもそうだが、見え方が少し違う。

 自分より不幸な人間と比べて、という話ではない。ただ現実的に見て、衣食住の心配をせずに勉強ができる自分は、衣食住を気にしなければならない状況より、選べる選択肢が多い。

 今までの自分は、持っていないものを数えて嘆くばかりで、自分が持っているものに目を向けずにいた。

(直巳は、あたしが持ってるものを見てる)

 サラダを一旦冷蔵庫に入れ、鶏モモ肉を一口大に切ってボウルへ。

(だからかな。なんか、そう悲観する状況でもない気がしてきた。考えてみれば、一生親と一緒にいなきゃいけないわけじゃないし、一生学校にいるわけでもない)

 チューブのすりおろし生姜とニンニク、その他調味料を入れて混ぜ合わせる。肉に味が染みるまでの間に、まな板を片付けて揚げ物鍋を用意。

(今のままの人生が続くわけじゃない。嫌なものは捨てて、好きなものを集めて、そうすれば、いつか——)

 肉に片栗粉をまぶして揚げることしばらく。トントンと軽い足音が近づき、直巳が「いい匂いだなぁ」と言いながらキッチンに入ってきた。

「何作って……ん? お前、まさかそれ唐揚げか!?」

 嬉しそうに近づいてきて、網の上の唐揚げに手を伸ばす。

「つまみ食いダメ」

 仁愛がそれを菜箸で止めると、直巳はむうっと顔を顰め、

「一個くらい、いいだろ」
「二度揚げするから待って」
「まだ食えないってことか?」