あの橋の下の暗がりに、『今』へ続く君を思う

 直巳が「初っ……」とギョッとした顔になる。

「で、でも、不用心は不用心だ!」
「じゃあ何、あんたあたしになんかする気なの?」
「するわけないだろ!」
「じゃあいいじゃん」
「良くない!」

 ダメだと思うなら帰ればいい、という発想は二人に無く、

「あんた、もしかしてビビってんの?」

 仁愛はニヤリと笑って腕組みをした。

「へー、何、女の子の家に行くの初めてでドキドキしちゃってんだ?」
「んなわけあるかぁ!」
「だから不用心とか言って、ここまで来て足踏みしてるってわけ」
「違うっつってんだろ! お前みたいなクソガキにドキドキなんかするかぁ!」
「だったら入ってみなさいよ」
「上等だ。さっさと戸ぉ開けろ!」

 仁愛は「ふんっ」と鼻で笑って玄関を開け、直巳もまた「ふんっ」と鼻を鳴らして玄関を入る。ドアを閉めて、鍵をかけて、

(……いや、何やってんのあたしたち)

 静まり返った家の中を見て、仁愛はふと我に返った。

     *

 仁愛の部屋は二階の端。入って右側と奥に窓があり、左側の壁は一面が本棚になっている。ぎっしり詰まっているのは、幼い頃から買い与えられてきた図鑑や参考書の類。

 物心がついたとき、仁愛の部屋はすでにここで、本棚にはたくさんの本があった。両親は、仁愛が欲しいと言うものは買わず、欲しいと言っていない本ばかり買ってここに詰め込んだ。

(どっかの天才子役みたいな、頭のいい特別な子供を()()したかった)

 そんな両親の思惑が透けて見えて、この部屋に入ると息が詰まる。

 しかし、今日は少し違った。

 部屋に入った瞬間、直巳が「ほう」と感嘆のため息を漏らして本棚を見上げた。仁愛がエアコンをつけると、「えっ!?」と目を見張る。

「お前の部屋、エアコンついてんのか」
「あんたエアコン知ってるんだ?」
「仕事の休憩室にある」